05 旅立ちの 勇者+幼馴染み+母
はぁっ。
ため息しか出ないな。俺はミントが作ってくれた朝食を食べ、魔王を倒すための旅立ちの準備をしていた。ま、身だしなみチェックだ。
鏡の前で見る、勇者の装備に身を固めた自分はなんだか笑えた。鏡の前にいる俺は、紅い燃えるような髪と翡翠色の瞳だ。顔立ちは整っている方だとは思うが母さんには全然似ていない。
「髪と瞳の色は違うけど、夢に出てくるアイツってやっぱり俺なんだよな……」
何を言っているのかって? 俺は昔からよく見る夢があった。髪と瞳が真っ黒な俺。歳は16で他は同じように、姿形は俺なんだよ。
名前は「七城夏々音」と呼ばれていた。あの世界、観たことのない風景、変な生き物。なんであんなのを鮮明に夢で観るのか……。
「ま、考えてもわかんないよな」
これがなんなのか、母さんに子供ながらに相談したら男の子にはよくある妄想だって言われたっけ。勇者はそこから始まるの――とか。
「おーい、アイス~。まだ仕度終わんないの? アタシたちより仕度に時間かかるってないでしょ」
「今行くよ」
さて、それじゃあハイン・ピュール城に向けて出発しますか。
「よし、お待たせ。ミント、母さん準備はいいな? 出発するよ」
「オッケー。決まってるぜ勇者アイス!」
ミントは陽気に笑う。ちょっとサービスし過ぎの装備じゃないのか? つい、太股に目がいってしまう。
「アイス、お城までの道はわかるわね? 母は後ろからついて行きますからね」
「ああ。もし魔物が出たら俺とミントが倒すから母さんは離れていてくれ」
――こうして俺は村を旅立つことになった。俺の住んでいるイナカ村は農村で人口も500人くらいだ。見渡す限り、畑。何を育ててんのかもよくわからない。
ただ、昔から手伝いをしていたから体力は人一倍。母さんから勇者になるための勇者教育ならぬ、スパルタ式勇者特訓を受けるようになってからは手伝いはしなくなったけどな。
「おーい、ルビーさんにミントちゃん! なんだ、本当にもう行ってしまうのか? 信じたくない、残念だよ。……これから何を楽しみに生きていけばいいんだ……」
近所に住んでいるおっさん、アルバースさんだ。もちろん、農家として暮らしている。
「おい、アイス。お前、今、俺のことおっさんとか思ったろ? ああん? お前、この二人がどれだけ俺達を支えてくれてたか知ってるのか? この畑の中で二本の華がなくなることの意味がお前にわかるのか? 雑草しか残らない、このイナカ村のこれからをっ、お前に何がわかるってんだ!?」
「いや、俺に言われたって……。それにアルバースさんは結婚してるじゃん」
「生意気言うな、アイス! それにお前、勇者みたいな格好して。頑張れよ」
どっちなんだよっ! と、突っ込もうと思ったけど止めておくよ。
「アルバースさん、後ろに奥さんいるからね。じゃーね」
「えっ、え? ジャスミン? いや、さっきのは――」
「アイス、遂に旅立つのね。頑張って夢を叶えてね。ルビーちゃん、ミントを頼んだよ。アンタはちょっとこっち来な!」
子羊のように連れて行かれたアルバースさんの悲鳴が聞こえたような気がしたのは気のせいだろう。
そんなようなやり取りばかりがあり、母さんとミントの人気の高さに相変わらずびっくりした。見た目って大事なんだね。
「ミントの叔父さんと叔母さんに挨拶に行った方がいいと思うんだけど」
「大丈夫大丈夫。もう挨拶は済ませたし、また会うのもね。感動の別れてをしてきたしさ。このままお城に行こう」
「そっか。わかった」
ミントは叔父さん夫婦と一緒に住んでいる。ミントの両親はミントが子供の頃に亡くなって、お母さんのお兄さん、つまり叔父夫婦にミントは引き取られて暮らしていた。
二人とも子供がいないから本当の娘のようにミントを可愛がっていたからな。とってもいい夫婦だから俺も好きな人達だ。
「よし。村を出るぞ。ってあの山の麓がハイン・ピュール城だから日が暮れる前には着けるな」
「なんか、ワクワクするね~」
結構気楽に旅立つ俺達はハイン・ピュール城に向けて遂に出発したのだった。
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