平和の終焉
情景描写が苦しすぎる……
「____それでさ、母さんがね?あんなことするもんだから、俺本当に焦っちゃって……」
『プッ……アハハ、そっちは相変わらずみたいだね(笑)』
受話器の向こうで爽やかに笑う「佐藤 蛍」は、5つ年上の、俺の兄貴だ。
学生時代、文武共に全国的な素晴らしい成績を残し続け、その名前は日本中に響き渡った。
現在は主に発展途上国などを中心に、海の向こう側で、講義や様々な研究などを行っている。
日本を出てから、かれこれ2~3年は経っただろうか……そんな彼から電話が掛かってきたのだ。
俺も珍しく高揚し、兄が海の向こうへ渡ってからの家の様子を、一つたりとも逃すまいと必死に言葉を詰めて話していた。
そうして、話が盛り上がっていく中だった……
「そうそう、この前なんて____」
『ちょっと……良いかな。』
「え?」
それまでの声色とは打って変わった兄貴のその声に返事をするかの如く、体の中から“ドクン”と、そんな音が響いた気がする。
そして……
____『お前も、こっちに来ないか?』
そんな、俺に追い討ちをかけるような、兄貴の言葉。
突然すぎる急展開に、しばらく空いた口が塞がらず、声も出なかった。
『今行なっている、とある研究が完遂しそうなんだ。その瞬間を、お前にも見て欲しいんだ。』
「……。」
悩みに悩んだ。
普通にに考えれば、こっちでの生活を投げ出して突然国を出ていくなんて有り得ないだろう。
だが、俺の頭は、兄からの急な話に頭が混乱していた。
それから約10分後……
「やっぱり、急に行くことは出来ないから……残念だけど今回は……。」
『本当に、良いのかい?』
「ごめん、今回は。」
『今回は、ねぇ……』
なんとか、断りの言葉を喉奥から振り絞った俺は、少しホッとして、少し落ち込んでいた。
そんな俺の心中を察して、優しい言葉をかけてくれるのだろうと、そう思っていた。
思っていたのだが、
『そうか、お前も“そっち側”の人間になってしまうのか。』
「そっち……側?」
『ああ、残念だな。……さよなら。』
「お、おい、待てよ!それってどういう____プツッ……ツーツーツーツー」
“さよなら”
普段の兄貴なら使わないそんな言葉を最後に残し、まるで俺を突き放すよう電話を切った。
「……どういう、意味なんだ?……あっ、やばっ!鍋が!……あ〜あ。やっちゃった。」
お湯が鍋から溢れ出すその瞬間すら、遠い思い出になることを、俺はまだ知らない。
この後、世界に起こる天変地異を。
兄の、“さよなら”の意味を。