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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
9/50

9話 囮 (2)

 どうする、どうすればいい。

 頭の中で、目まぐるしく思考が交差していく。


「出てこないのなら、こちらからゆくぞ」


 黒装束の声が、更に焦りを加速させる。

 僕は時間が残されていないことを悟る。そして覚悟を決める。


「……絶対に出てこないでください」


「っ!」


 彼女へと最後の言葉を告げ、僕は一人草陰から飛び出していく。


「貴様、一人か?」


 フードの隙間から鋭い視線が向けられる。


「……そうだ」


 もちろん嘘だ。

 後ろの草陰には女性が隠れている。


「一つ聞きたい事がある。ビズ(・・)をやったという奴は貴様か?」


「ビズ……?」


 脈絡もなく出てきたその単語は、聞き慣れないものだった。


「金髪の男だ。この辺りは奴の管轄かんかつだったのだが……どういうわけか、そのビズが、誰かにやられたみたいでな」


 ……金髪の男。間違いなく昨晩の男の事だった。

 そして、その男をやったというのも自分だ。

 だがここで、『はいそうです』なんて言うほど、僕も馬鹿じゃない。


「……何のことやら」


 当然しらを切る。


「まぁいい。帰ったらじっくりと聞けばいいだけの話だ」


 そう言うと黒装束は突然、準備運動のように両手首をプラプラとさせ、


「さっきの男同様にな――」


 次の瞬間、ものすごいスピード(・・・・・・・・・)で、こちらへと突っ込んできた。


「な!?」


 まさに一瞬、数十メートルあったはずの距離を一気に詰められる。


「遅い」


 ひるがえすようにして、放たれる裏拳。


「がっ!?」


 さらに間髪入れずに飛んでくる回し蹴り。


「ぐあ!」


 まさに為す術なく。

 僕は体勢を崩し、地面を転がっていく。


「ふむ、やはり魔力の反応を微塵も感じられない。こいつもさっきの男と同じ、向こうの人間か」


 なにやら小道具のようなものを手のひらの上に乗せ、一人呟く黒装束。

 それは小さなコンパスのようなものだった。


「さて……」

 

 やがて黒装束は、それをポケットにしまうと、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「最近お前らが、ここで何をしているかは知らぬ」


 黒装束は僕の胸ぐらをつかみ、そのまま持ち上げる。

 いくら僕の体重が軽いといっても、片手で人を持ち上げるなど、もはや常人の域ではなかった。


「だが運が悪かったな。お前はここで終わりというわけだ」


「う、ぐ……」


 まさに絶体絶命。手も足も出ない状態。

 でもどうせ、ここでやられるぐらいだったら――。


「う……」


「何か言ったか?」


「う……うおおおおおおおお!」


 僕は叫びながら、まるで駄々をこねるように、手と足を乱雑に振り回し暴れる。


「なっ!?」


 驚いた黒装束がとっさに手を離す。

 チャンス到来、この際相手が女性だからなんて言ってる場合じゃない。

 間髪入れず、僕は黒装束に向かって、右ストレートを打ち込んだ――。


「っ!?」


 ――はずだった。

 けれど、その右ストレートが対象を捉える事は無かった。

 いないのだ。さっきまで目の前にいたはずの相手が。


「調子にのるな」


 その声はふいに、後ろ(・・)からやってきた。


「なっ……!?」


 振り向いた時にはもう遅かった。


「少し――眠っていろ」


「がはっ!?」


 みぞおちに激痛が走る。

 黒装束の拳が、容赦なく腹へとめり込んでいく。


「かはっ……!」


 呼吸が一瞬止まった。

 僕は耐えきれず、そのまま地面へと崩れ落ちていく。


「う、ぐ……」


 急激に意識が遠のいていく。

 まるで深いぬかるみに沈んでいくような、抗いようのない感覚が僕を襲う。


「ああ――そうだ」


 薄れゆく意識の中、黒装束の声が子守唄のように頭の中に響く。


「――今から連れて行く。ああ、あの牢獄だ」


 とうとう僕の意識は途絶え、強制的に世界との接点が絶たれた。

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