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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
7/50

7話 休息

 男は山なりに飛んでいくと、やがて転げ回るようにして、乱雑に砂場へと着地をした。

 しばらく様子をうかがってみるが、気を失っているのか立ち上がってくる気配はなさそうだ。


「ふぅ……」


 ……色々と突っ込みどころはある。だがそんな事をこの世界で言い出したらキリが無い。

 今は細かい考え事は後回しだ。


「あの……大丈夫ですか?」


 僕は倒れる女性へと手を差し伸べる。

 女性は僕の手を掴みながら、


「……それよりも君は大丈夫なの?」


 正直、今でも全身が痛い。

 しかし、ここで弱音を吐いても仕方ないと思った僕は、


「だ、大丈夫ですよ」


 がらにもなく強がってみた。


「大丈夫そうに見えないけど……」


 二秒で見抜かれた。


「そ、それよりも! アレが目を覚ます前に、どこかに移動しましょう!」


 アレというのは、今も砂場でのびてる、金髪の男の事だ。


「そうだね……じゃあ行こっか」


 女性はすんなりと了承する。

 とにもかくにも、こうして僕らは逃げるようにして、公園を後にした。

 


――――――――



 公園を後にした僕らは、暗闇に染まる路地をひたすらに歩き続けていた。

 数分ほどだが、この辺りを探索してみて分かったことがある。

 それは、この辺り一帯全てがスラム街(・・・・)という事だ。


 街灯こそあれど、人の気配は全くない。

 ずっと同じ道を歩き続けているんじゃないかと錯覚するほどに、代わり映えのない景観。

 このままじゃらちがあかない。そう思った僕は、隣を歩く女性に一つの提案をする。


「……えーと、とりあえず朝まで、どこかで休みませんか?」


 探索するにしても、この暗闇の中では危険すぎる。

 それこそ、さっきみたいな異能力者に遭遇したら、今度こそ終わりだ。


「そうね……でもどこで?」


 女性の不安そうな問いかけに、僕は辺りを見渡しながら、


「そこのビルはどうでしょう」


 今にも朽ち果てそうな廃墟ビルを指差す。


「うん。じゃあいこっか」


 女性はあっさりと了承する。

 そんな軽いノリに僕は若干の不安を覚えた。


「……今更ですけどいいんですか? その……僕の意見なんかに従って……」


 心配というよりは、他人の命の保証までしたくないというのが本音だった。


「えっ? あ、うん。まぁ一人じゃ心細いってのもあるし、さっきも助けてくれたし、それに――」


 言葉半ば、女性はこちらへと振り返り、


「あんなのをやっつけちゃうなんて凄いことだよ。もっと自分に自信を持っていいと思うよ。君はじゅーぶん凄い!」


「あれは……」


 そんな尊敬に値するものではない。

 なぜなら、あの金髪の男を倒せたのは、まぐれだからだ。

 つまり善意で助けたわけじゃない。


「……えーと。じゃあ行きますか」


 ……なんて言えるはずもなく。

 僕は少しの罪悪感にさいなまれつつ、ビルの敷地内に足を踏み入れていった。



――――――


 ビル内部。

 正面玄関らしき入り口をくぐると、まず視界に飛び込んできたのは、上の階へと続く階段だった。

 とりあえず最上階を目指す事にした僕らは、注意深く階段を登っていく。

 そうして上り始めて、ほどなくして最上階である3階へとたどり着く。


「あ、そこに部屋が!」


 僕の前を歩いていた女性が、真っ先に部屋を見つける。

 階段を上がってすぐ左に位置するそれは、何の変哲もない角部屋だった。


「誰も居ないよな……?」


 おそるおそる部屋の中を覗いてみる。

 そこは人どころか物一つ置かれていない、殺風景な空間だった。


「大丈夫みたいです。とりあえず今日はここでしのぎますか」


 コンクリート打ちっぱなしの部屋という事を除けば、休息場所としてはまずまずだろうか。


「はぁ……疲れた」


 僕は壁になだれながら腰を下ろし、足をゆっくり伸ばしていく。

 これで地面が固くなかったらなお良かったのになぁ、なんて要望を心の中で吐き捨てる。

 

「よい、しょっと」


 すぐ隣に女性がちょこんと腰掛ける。

 これだけ広いのだから、もうちょっと離れて座ればいいのに。

 そんなどうでもいい事を考えているさなか、僕は抗いようのない眠気に襲われていた。

 そして薄れゆく意識の中、ぼんやりと考える。


 ……僕らが今いるここは、一体どこなんだろうか。

 日本だと言われれば、ある程度は信じてしまうほどに、現代と代わり映えしない景観ではあるが、それは違うとすぐに分かった。

 なぜなら、誰一人住んでいないような区域が、現代の日本にあるとは信じ難いからだ。

 そもそも現代にあんな――魔法スキルなんてものは存在しない。


「……じゃあ、この世界は…………」


 結局答えの出ぬまま、僕は眠りにおちていった。

 ここが異世界である事も忘れて――。

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[気になる点] 着地した、ではなく「落下した」ですね
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