46話 ルート:トゥルーエンド (6)
「オラァ!」
大男の怒鳴りと共に、その大きな拳が、こちらの顔面を捉えたかと思われた――。
「っ!!」
刹那、僕はその攻撃を見切り、右へと回避する。
よし、いける。このまま奴の、右腰にかかっている短剣を奪えさえすれば――。
「とどけ――!」
右手を精一杯に伸ばし、僕は短剣に手をかけた、その時だった。
「ぐ、え――?」
体の中心部分に、激痛が走った。
体内から、ミシミシと嫌な音が響いた。
なんだ、一体何が。
視線を下にやるとそこには、
「っ!」
大男の足――つまりは、奴の蹴りが、僕の体へとクリーンヒットしていた。
僕は為す術もなく、そのままふっ飛ばされ、地面を乱雑に転がっていく。
「っげほっ! がはッ!」
最悪だ。体が痛すぎて起き上がれそうにもない。
おまけに作戦は失敗だ。短剣は奪えずじまい。
「なんだぁ? てめぇこいつが欲しかったのか?」
そう言って大男は、短剣を手に取り、見せびらかすようにして言った。
「ま、残念だったな。てめぇの目論見もここで終わりってわけだ」
のっそのっそと大男がこちらへと近づいてくる。
まずい。早く逃げなきゃ。
だが体は言うことを聞いてくれない。
「じゃあなんだ。てめぇにはここで死んでもらうとするか」
駄目なのか。謎の力にここまで後押しされても、所詮は無理だったのか。
魔法を使おうが、所詮、僕には無理だったのか。
「安心しろ。てめぇの後にあのメディンって奴も殺しておいてやるからよ!」
――違う。無理だろうと、やるんだ。
このまま二人、無駄に死んでいくぐらいだったら、今、這いつくばってでも――。
「ぐ……」
右足と左足。
少しだけ動く。
上半身は起こせそうか。
激痛が走る。
だが無理をすればいけそうだ。
よし。準備はできた。
いこう。
そして、最後のその時まで、抗ってみせよう。
「お、なんだぁ? まだやれるってか?」
僕はゆらりと立ち上がる。
激痛を必死に隠して。
「……最後に聞いてもいいかな」
そして問う。
「あぁ?」
「僕たちを……見逃してはくれないだろうか」
だが、大男はふんと鼻を鳴らすと、
「おいおい、てめぇは馬鹿か? ここまで来て、俺がそうするメリットがどこにあるんだ?」
そう言って大男は、
「だからまぁ、大人しく死んどけや――!」
大きく振りかぶって、右ストレートを放った。
「っ!」
間一髪、それを僕は、体を横に揺らし回避する。
「死ねぇ!」
次は左フック。
片膝を曲げ、しゃがみ回避。
刹那、全身に痛みが走る。
やっぱりまだ、ダメージが尾を引いていたようだ。
「オラァ!」
眼前へと、大きな足の前蹴りが飛んでくる。
だめだ。避けきれない。
僕はとっさに、身を護るようにして、両手でガードの姿勢をとる。
――そしてそのまま、直撃を喰らう。
ミシ。
ミシミシ。
両腕から嫌な音がはっきりと聞こえた。
激痛を通り越し、感覚が一瞬にして麻痺する。
確信する。ああ、折れたなこれは、と。
そして敗北を。
僕は大の字に、地面へと倒れる。
腕はだらんとし、力が一切入らない。
「じゃあ、あばよ!」
あの地面を大きく揺らしたときと同じ――。
あの地面を叩きつけた拳が今、僕の顔面へと振り下ろされようとしていた。
目の前の光景が、まるでスローモーションのように流れていく。
……あれ。こんな光景、どこかで、そして何度も見たことあるような気がする。
確信はない。だけど、記憶の片隅にぼんやりと残っているこの感覚。
分からない。
……まぁどうでもいいか。
どうせ今から死ぬんだ。
心残りだってない。
――心残り?
そうだ。一つだけあった。
――メディン。たった一つの、名前が脳裏をよぎる。
そうだ。僕はまだ、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。
奴を倒す。
そのためだったら、この身がどうなろうと構わない。
だから頼む。さっきの――いや、さっき以上のチカラをください――。
応えるようにして、体の中に一つの希望が流れ込んだ。
そして次に、僕の口から、無意識下で一つの言葉がこぼれ落ちた。
「――"暴走モード"起動。」




