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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートII
47/50

45話 ルート:トゥルーエンド (5)

「吹っ飛びな――!!」


 大男が突如、その巨大な拳を地面へと叩きつけた――その時だった。


「っ!?」


 地面が大きく揺れ始める。いや、これは揺れというよりも、衝撃そのものだった。

 その揺れはあまりにも凄まじく、もはや空間そのものが揺れているのではないかと錯覚するほどだった。


「メ、ディン……」


 空間を震わすほどの振動は、今もなお続く。

 立っているのも困難。揺さぶられすぎて気持ちが悪くなってきた。

 まず……い。このままじゃ……気を、失ってしまいそうだ。

 そしてとうとう、僕は地面へと倒れ込んでしまう。

 揺れが続く中、僕は視線だけを移動させ、メディンを必死に探す。


「――! メディン!」


 ――いた。僕から少し離れた距離に、同じようにして倒れ込んでいた。


「う、ぐ……」


 揺れは未だに収まらない。

 それでも僕はメディンの元へと這いつくばっていく。


「まずはメディン。てめぇからだ」


 メディンを高く見下ろす大男。

 というかなぜ、この揺れの中、あいつだけ普通に動けるんだ。

 そんな疑問が浮かび上がる。


 ――いや、今はそんなことよりも、


「や……め、ろ」


 僕は必死に制止する。

 だがそんな声も届かず、


「へへへ……まずはこいつ(・・・)で……」


 そう言って大男が懐から取り出しのは、小さな短剣のようなものだった。

 あれで突き刺そうというのか。

 そんな事、させるわけにはいかない。


 だが、そんな願いも虚しく、それは実行された。


「オラァ!」


 ぐさり、とメディンの体の中心部分を短剣が貫いた。


「ぐ、ああ――!」


「メディン!!」


 メディンが言葉にならない声をあげる。


「あっ――」


 だが何やらメディンの様子がおかしかった。

 それは痛みに悶え苦しむというよりも、何か全くの別の反応。

 

 ――そう。言うなれば、まるでチカラを吸い取られているかのような。


「まさ、か……」


「ほう、そこのガキは気がついたか。そうよ、この短剣は魔力を吸い取る代物だ」


 大男は、メディンから短剣を抜き、


「てめぇも知ってる通り、魔力を吸いつくされた人間は一辺たりとも動けなくなる」


「そ、んな……」


「まぁわざわざこんな事しなくても、今トドメを刺せたんだがな。まぁ念には念を、だ」


 そう言って大男は再び拳を構え、


「じゃあ今度こそ――さよならだ」


 まずい。どうしよう。このままじゃメディンが。

 なんとかしないと。でも揺れのせいで体が全く動いてくれない。


 ……やっぱり無理だったのか。

 僕がメディンを救うなんて。

 考えが甘すぎたんだ。

 そりゃそうだ。できるわけがなかったんだ。

 ちょっと能力を扱えるようになったぐらいで、調子に乗っていたんだ。

 もしかしたら僕でも敵を倒せるかも知れないと。


 ……でも、そんな考えも、今、現実によって壊される。

 眼の前で今、一人の女の子が殺されようとしている。

 僕は無力だ。そんな光景をただ、見ていることだけしかできない。

 嗚呼神様。もし叶うのなら、彼女を救うだけの、ほんのちょっとでもいい、チカラをください――。



 ――おいおいここにきて神頼みか?


 ……この声…………君は誰?


 ――今はそんな事どうだっていいだろ。そんな事よりお前、いいのか?


 ……何が。


 ――眼の前で一人の女の子が殺されようとしているんだぞ。見殺しにしていいのか?


 ……無理だ。救えない。僕には荷が重すぎたんだ。


 ――お前、一回駄目だったくらいで諦めるのか?


 ……じゃあどうすればいいのさ。


 ――いいか。俺がチカラを貸してやる。だからお前は、今すぐにメディンを救い、ついでにあのデカブツを倒せ。


 ……そんな無茶な――。


 ――いくぞ。


 ――《身体強化モード》起動――。


 瞬間、体が軽くなったような気がした。

 今ならなんでもできそうだ。そんな気がする。


「メディン――!!」


 僕は一瞬にして起き上がり、地面を思い切り蹴り出した。

 間に合え。大男が拳を振り下ろす刹那――。


「っ!!」


 僕はメディンを抱きかかえ、再び地面を大きく蹴った。

 次の瞬間、メディンという対象を失った大男の拳が、地面へと激突する。

 それによって、大きな揺れが再発する。


 ――が、しかし。

 今の僕(・・・)には、そんな揺れどうでもよかった。

 全くの無関係。無影響。

 大きな揺れの中、僕はメディンを抱きかかえたまま、一時戦線離脱する。


「……メディン、少しここで待ってて」


 メディンを地面へと優しく下ろす。


「白崎守、お前は――」


「僕はケリをつけてくるよ」


「なっ――」


 僕は返事を待たずに、再び戦地へと赴く。


「テメェ……どんな能力を使いやがった」


「……さぁね」


 嘘はついていない。


「まぁいいさ。お望みならテメェからやってやるよ!!」


 風を切る音と共に、大男の拳が僕の顔面を捉えた――ところで、僕は間一髪躱す。

 

 ……いける。早さは追えないが、体は追いつく。


「オラァ!」


 次は左手。


「っ!」


 それを僕は、後ろへとステップを踏んで回避する。

 休む間もなく、今度は右足の蹴りが飛んでくる。

 左足で地面を蹴り、右へと飛び、それをかわす。


「……はぁ、はぁ……」


 汗がひたりと滴る。

 慣れない動きをしたせいか、早くも息が切れ始める。

 これは早々に決着を付けたほうが良さそうだ。

 僕は地面を思い切り蹴って、相手の懐へと飛び込んだ。


「なっ!?」


 相手が意表を付かれてるその隙を狙って、僕はみぞおち目掛けて右ストレートをお見舞いしてやった。

 ズドン、と感触を得たが――、


「っ――効かねぇなぁ!!」


 大男のカウンターが炸裂、それをモロに貰ってしまう。


「あ、がっ――!!」


 元の場所へ戻されるようにして、山なりに飛んでいき、地面へと乱雑に着地する。


「ぐあっ!」


 背中に衝撃、そして痛みが走る。

 だが、ここまでで分かった事がいくつかある。


 まず1つ。

 間違いなく、僕の身体能力は上がっている。

 相手の動きについていけているのがその証拠だ。


 そして2つ目。

 これが少し――というか結構問題。

 身体能力が向上している割には、腕力と耐久力はさほど向上していない点だ。

 何が困るって、決定力に欠けるのと、耐久戦に不利だという点だ。


 早々に片付けたい――だけど決定力に欠ける。

 一瞬見えた希望の光が今再び、暗闇に覆われようとしていた。

 どうする。どうすればいい。

 必死に考える。

 そして辿り着く。

 奴を倒す、決定打を。


 ――さっき奴が使った短剣だ。


 それを奪う事が出来れば。

 幸か不幸か、短剣は奴の腰、小さな鞘へと収まっている。

 隙を見て奪うことは難ではないだろう。

 ただ、一度でも失敗し、その意向がばれてしまえばおしまいだ。

 チャンスは一度。

 いけるな? ああ行けるさ。自問自答する。


「いくぞ!!」


 そうして僕は再び、大男の懐へと飛び込んでいった――!

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