44話 ルート:トゥルーエンド (4)
聞いていない。あんな男が待ち伏せしていたなんて。
聞いていない。あんな男と、今から交戦するかもしれないという事実を。
「……」
生唾をゴクリと飲み込む。
気づけば僕は、瓦礫の山を抜け、大きく開けた場所へと来ていた。
そこは皮肉にも、障害物が一切ない、まるでリングのような場所だった。
「あぁん? なんだぁてめぇ? こんなところで何してやがる?」
大男の視線が突き刺さる。
どうやらこちらに気づいたらしい。
「あ、え、と……」
言葉が出てこない。呼吸がうまくできない。
あまりの威圧感に震えが止まらない。
「てめぇみたいなゴミはお呼びじぇねぇんだよ。おれぁメディンって奴を始末――おっとこれは内密にだったか」
「っ!」
やっぱりこいつ、メディンを消すために派遣されたのか――!
だったらなおさら、ここで退く訳にはいかない。
「メ、メディンは事情により来れない。だから代わりにぼ、僕が来たんだ!」
「あぁ?」
しまった。メディンと関係があることは伏せといたほうが良かったかもしれない。
いや、この大男がバカだとしても、それぐらいは見抜いてくるだろう。
「じゃあなんだ。メディンってやつは来れないから、今回は引いてくれと?」
「は、はい――」
「っざけんじゃねぇよボケが!!」
「っ!」
大男が顔色を一変させる。
威圧感が半端ない。
「こちとらメディンってやつを始末するためにわざわざ最下層まで降りてきたんだぜ!? それをなんだ! こんなクソガキみたいな一言で全てを納得しろだって!? ふざけんじゃねぇよ!」
大男がどんどんヒートアップしていく。
僕は怖くてその場から動けなかった。
「いや、あの、だから――」
何か言わなきゃ。それでなくとも、なんとかなだめなきゃ。
だけど口がうまく回らない。恐怖によって。
当然だ。山賊のような格好で、一回りも二回りも、いや、下手したら五回りぐらい大きい相手に今、睨まれているのだ。
怖くないはずがなかった。
「……いや、まてよ」
大男は更に顔色を一変させる。
嫌な予感しかしなかった。
そしてその予感は見事に的中することとなる。
「じゃあてめぇを殺せば、メディンって奴を引きずり出せるんだな?」
「……は?」
心の底から「は?」という言葉が飛び出す。
いや、ちょっとまってくれ。何がどうなって、そういう結論に至ったんだこいつは。
「じゃあ話は早ぇ。てめぇはここで死んどけ――!」
「っ!?」
大男の右手が大きく振りかぶって、こちらへと向かってくる。
あんなものが直撃したらひとたまりもないだろう。
「うわぁ!!」
僕はとっさに後ろへと飛び、それを回避する。
だが窮地はそこで終わりではなかった。
「オラァ!」
次は左手――。
勢い目掛けて顔面へと近づいてくる。
だめだ、避けきれ――。
終わったと思った。
その時だった。
「うぐぁ!?」
大男がなぜか、腹を抑えて、仰け反っていた。
なんだ? 何が起こって――。
そうして見た先には――。
「大丈夫か、白崎守!」
メディンだ。メディンが助けてくれたんだ。
助かったことへとの安堵。
それと同時に情けなかった。
メディンをかばってのこの作戦だったはずなのに、結局メディンが戦局へと飛び出してきてしまった。
これじゃあ何の意味もない。
僕という足手まといがこの場にあるだけ。
「ぐ……不意打ちとはやってくれるじゃねぇか……」
しかも大して効いていない。
「てめぇがメディンか……。この借りは――いや、今ここで殺すんだからいいか――!」
突如メディンへと大ぶりの右ストレートを放つ大男。
決して遅くはないスピードの攻撃。だがそれをメディンは難なくかわしていく。
「す、ご……」
あれ……これ、いけるんじゃないか?
今の所、あの大男は見掛け倒しだ。
メディンの"加速"という魔法があれば、あんなやつ、敵じゃないかもしれない。
「オラァァ!!」
右、左と、大ぶりの拳が振り子のように加速していく。
しかしそれをメディンは、しっかりと見極め、一つ一つ丁寧にかわしていく。
「クソがぁ!」
何度やっても当たらない。何度やろうとかわされる。
やがて大男は疲れたのか、攻撃を止めてしまった。
「なんだ……もう終わりか?」
こんなものか。そんな表情でメディンは相手へと語りかける。
だが次の瞬間、大男がとんでもない事を口走る。
「いくら最下層のクズ共相手でも、魔法を使わないってのはちーとばかしきつかったか」