42話 ルート:トゥルーエンド (2)
「…………」
場が静寂に包まれる。
当然だ。自分でもどうかしてると思う。
「お前……自分が何を言っているのか分かっているのか?」
メディンの視線が突き刺さる。
その言葉に僕は何も言い返せず、黙り込む。
「一つ聞きたいのだが――」
黙っていた幼女が口を開く。
「白崎守君、それはどこまでが本気なんだい?」
長い沈黙と静寂の後、僕は口を開く。
「……………全部です」
すると幼女は、座っていた椅子へともたれ掛かり、
「ふむ……」
再び黙ってしまった。
「……」
依然、メディンの視線が痛いほどに突き刺さる。
その視線は、怒りというよりも、困惑、疑惑に近いものだった。
「あのー……。メディンさん?」
重苦しい空気に耐えきれなくなり、僕はメディンへと言葉を差し向ける。
「……なんだ」
いや、それ、僕のセリフなんですけど。
というか、なんでそんなに不機嫌そうなんですか。正直怖いです。
「……決めた。白崎守君、君の意見を尊重し、全面的に許可しよう」
「ボス!?」
何を言っているんだと言わんばかりのメディン。
正直僕も驚いている。
「まぁ、聞きたまえメディン」
幼女はこほんと咳払いをし、
「まず君を一人で依頼に向かわせる案――これは論外だ」
「でも――!」
メディンは抗議の眼差しを向ける。
「当然だ。誰がどう見てもこれは罠なのだから。君もわざわざ罠に引っかかるのも癪だろう?」
「それは……」
幼女の正論に、何も言い返せなくなるメディン。
そんな二人のやり取りを僕は黙って見ていた。
「そこで私の中に、ある一つの考えが浮かび上がった」
「まさかそれって……」
「そうだ。そこにいる、白崎守君に全てを賭けるという案だ」
その突拍子もない言葉に、メディンはもちろん、僕も内心驚く。
なぜここまで僕の事を信用してくれているのか。
どういう経緯でそういう話になったのか。疑問は止まない。
「っ! でも彼は――!」
「ああ、分かっている。この世界の住人でもなければ、能力も不安定だ。おまけに依頼で指名されたわけでもない」
そうだ。言うなれば僕は、完全に部外者だ。
「じゃあどうしてそんな――」
メディンはまだ納得いかない様子だが、
「……これしかないのだよ。今できる最善策が」
幼女は深く、言葉を吐いた。
「……」
そんな幼女の様子に、メディンは何も言わなくなってしまった。
「あのー……。僕は別にいいんですけど……」
最初から僕が行こうと思っていたし。
「君の口からそう言ってもらえると、こちらとしても助かるよ。ただひとつ、私のもう一つの案を飲んでほしい」
幼女は机に両肘をつき、僕の目を真っ直ぐに見据える。
「……なんでしょう」
「君の依頼に、メディンを同行させてほしい」
え……。どういうことだ?
「それはあくまでも極秘に、つまりは――君の監視役として連れて行ってほしい」
監視役……。
「……それは何のために?」
「もしもの時のためだ。つまりは、君の身に何かが起こった時、迅速に対応できるようにだ」
「……」
僕の身に何かが……つまり最悪の事態を考えてのことか。
「君は組織の一員としても、一人の人間としても、大切な身だ。君たちが元の世界へ帰るまで、私はその命を預かっている」
出会ってまだ数日しか経っていないのに、まさかそこまで信頼されているとは思ってもいなかった。
相手は僕よりもずっと幼く小さい子供だ。(実際の年齢は不明だが)
だが僕は、その信頼に値する言葉に、ほんの少しの嬉しさを覚えていた。
「メディン、もしも――いや、最悪の事態が起こった場合はこれを」
メディンへと何かを手渡す幼女。
小さな小包のようなもの。
「これは……。分かりました」
小包の中身を確認し、何かを理解するメディン。
「では頼む。ふたりとも」
「了解です。アイリスの事、よろしくお願いします。……それじゃあ行くぞ白崎守」
僕の手を取るメディン。
ああ、そうか。忘れていた。
あの場所へは、こうやって行くんだった。
こうして僕らは、再び、忌まわしき大地、ガウントへと赴くこととなった。