39話 修行 (1)
目を開けるとそこは、西部劇のような景色が広がっていた。
あたりにはいくつかの民家が連なり、どうやらここは人々が住む村だということが伺えた。
そんな場所で今、僕はメディンと――なぜか対峙していた。
「まずはお前の能力を誘発させるために、こちらから攻撃を仕掛ける。いいな?」
目の前に立つメディンは突然、突拍子もない事を言い出す。
誘発? 攻撃? 全てが突然すぎて思考が追いつかない。
「ちょっとま――」
僕がそう言いかけた瞬間、無慈悲にもメディンの右ストレートが飛んでくる。
「へぶぅ!?」
避ける間もなく、不格好にも、僕はそれをダイレクトにもらう。
「なぜ避けない」
「無理に決まってるでしょ!」
喧嘩なんてこの方一度もしたことがない。そうなれば当然、攻撃を避けるなんて動作、僕には無理に決まっていた。
というか、どうして僕は今、メディンに殴られているんだ?
「泣き言を言うな、もう一度いくぞ」
「えっ――」
同じようにして再び、メディンの右ストレートが飛んでくる。
避けきれず喰らったかと思われた――が、
「うわぁっ!?」
まさに間一髪のところで、僕はその攻撃を回避する事に成功する。
言うまでもない。単なるまぐれだ。
「やるじゃないか。ではもう一回――」
まぐれは二度続く――わけもなく、
「あがっ!?」
僕は再び、顔面へと直にその拳を喰らう。
「ちょっと、まって、ストップ――」
僕は息絶え絶えの中、なんとか目の前の相手に対し、制止を求める。
「なんだ。まだ3発しか終わってないぞ」
「ちゃんと、説明を、して、ください……」
僕は息絶え絶えながら抗議する。
「だから言っただろう。お前の特殊能力を誘発させるための練習だと」
「それが、どうして、殴る、必要が?」
そんな短い説明だけ聞かされて、いきなり殴られてはかなわなかった。
もっとこう合理的な理由というか、他に方法というものがあるんじゃないか。
「白崎守――お前は確かに、魔力ゼロでありながらSS級の魔法を所持する、規格外の人間だ」
「それはさっき、あの幼女からも聞いたよ……」
「魔法をモノにしたいと言ったのは、お前自身だろう?」
確かにそうだ。だけど、
「少し手荒すぎやしないですか?」
こんなやり方、すぐにこちらがバテてしまう。
「ではもう一度いくぞ」
そんな抗議もむなしく、再び、それは僕へと襲いかかる。
そう何度も避けきるなんて芸当、できるはずもなく、
「っ!」
まさに腹部に直撃した――そう思われた、その時だった。
「!?」
僕へと攻撃するべく、こちらに伸ばされたメディンの右ストレート。
それはなんと、不自然にも、寸止めする形で硬直していた。
あたかも、見えない壁に阻まれるようにして。
「ようやく、か」
その声に僕はハッとし、ようやく事態を理解する。
メディンの攻撃を、僕自身の魔法で無効化したという事を。
「その感覚を忘れるな」
いや、忘れるなと言われましても……。
これだって偶然みたいなものだし……。
でも……。
「なんとなく分かってきた……ような気がする」
僕は自分の中で、なんとなくではあるが感覚を掴み始める。
僕が所持する魔法。それはどうやら、本人の防衛本能が強く働いたときに発動するらしい。
「もう一度――!」
思考半ば、今度はメディンの回し蹴りが飛んでくる。
当然避けられるわけもなく、直撃したかと思われた――が、
「っっ!!」
再び――。
先程と同じようにして、メディンから放たれたそれは、まるで寸止めするかのようにして、直前の位置で停止していた。
結果から言うと、僕は無傷のまま立っていた。
「これが……僕の力……?」
未だに実感がわかない。夢見心地というか、今自身の身に、何が起こっているのかよく分かっていなかった。
当然だ。20年近く生きてきて、こんな非現実的な現象を、何度も拝む事なんて一度もなかったからだ。
「は、は……」
笑けてくる。この非現実な力に。
そして、それが自分のモノだということに。
「何かコツを掴んだみたいだな」
メディンは何かを察したように言う。
「分からない……分からないけど、なんとなく感覚は掴めてきたような気がする。……あくまで気がするだけだけど」
「そうか。じゃあそろそろ実戦といくか」
「……へ?」
一瞬、目の前の相手が何を言っているのか理解できなかった。
だが、理解する猶予さえも僕には与えられなかった。
なぜなら、次の瞬間にはもう、メディンが戦闘態勢で目の前へと迫ってきていたからだ。
そして僕は、初の実戦経験へと臨むこととなった――。




