38話 魔法鑑定《スキルスキャン》 (2)
「な……SSクラス、だと……!?」
最初に驚きの声を上げたのは、隣にいたメディンだった。
「ほう……これはまた……中々」
感嘆の声を漏らすは幼女。
そして鑑定をした張本人であるティズも、興味深そうな表情で、僕の事を見つめていた。
「あの……つまり、どういう事なんですか?」
僕はたまらず、問いただす。
いったい、今の鑑定結果で何が分かったのかと。
「端的に言おう。白崎守君、君は魔法を所持している事が判明した。――それも魔力ゼロでありながら、だ」
そう説明してくれたのは、机に両肘をつく幼女だった。
「スキ……ル? あの、それって……」
まだ理解できていない僕に幼女は、
「つまり、だ。君は魔法が使えるという事だ」
「魔、法……?」
全くもってピンとこない。
当然だ。僕は何の取り柄もない、ただの人間だ。
魔法など使えるはずもないし、今までに使えた試しもない。
そもそも魔法なんてものが使えたら、元いた世界で、もっと人生を楽しく謳歌していたはずだ。
「あの、それって本当なんですか? 僕が魔法を使えるって……」
未だに信じられなかった。
「あぁ、ティズの鑑定に間違いなどありえないよ。君は確かに、向こうの世界の人間でありながら、魔法を所持している」
「向こうの人間……?」
そういえば、この世界に迷い込んで最初に出会った、あの炎を操る男もそんな事を言っていたような気がする。
確か僕らの事を、白の人間、と……。
「なんだ、君達は本当に知らないんだな」
「君達?」
「いや、なに。矢内君にも同じ説明をしたら、同じような反応が見られたのでな。彼も知らなかったようだよ。白の世界と黒の世界の関係を」
「白……? 黒……?」
さっきからこの幼女は何を言っているんだ。
頭がパンクしそうだ。あまりにも理解できない内容すぎて。
「あぁすまん。つまりだ。かいつまんで説明すると、君達がいた元の世界を白の世界。今我々がいるこの世界を黒の世界と呼んでいる」
「なん、だそれ……」
そんな漫画みたいな話、初耳だった。
本来だったらこんな事、信じるに値しない内容だった。
でも――だけど――今いるこの状況は、信じざるを得ない、それこそイレギュラーな状況だった。
「じゃ、じゃあ僕はその、白の世界に帰るにはどうしたらいいのさ?」
「分からん」
「えぇ!?」
まさかこんな、あっさりと希望が打ち砕かれるとは思わなかった。
「いや、君に意地悪をしているわけではない。本当に知らないんだ。君達が帰る方法を」
「そんな……」
「失礼ですが、そもそも白崎さんはどうやってこの世界へ?」
そう質問を投げかけてきたのは、ティズと呼ばれる青年だった。
「いや、それが、よく分からなくて……。気づいたらこの世界にいて……」
「ふむ……。つまり突然迷い込んでしまったと」
「はい……」
「どう思う、ティズ?」
幼女はティズへと尋ねる。
「そうですね……。もしかしたら最近多発している転移者の発生となんらかが関係しているのかと」
「ふむ……」
またもや話がついていけない領域へと突入していた。
「あの、じゃあ僕は、いったいどうすれば……」
すると幼女はニカッと表情を変え、
「なに、安心したまえ。君は今や、我々の団員。最低限の衣食住は保証しよう」
その言葉を聞いて僕は、少し安心した。
身寄りになってくれる人がいるだけで、こんなにも頼もしいなんて。
でもずっとお世話になっているだけじゃ悪い。
そう思った僕は、
「あの、僕に出来る事とかないですか……?」
そこで、ついさっきの鑑定結果を思い出す。
「そ、そうだ。僕が所持している魔法とやら。それって、どうやったら使えるようになるんですか?」
もしその力が自由に使えるようになれば、今度は僕がメディンを助けられるかもしれない。
もう二度と、あんな無力さを味わなくて済むかもしれない。
「そう聞いてくると思ったよ」
幼女はまるで分かっていたかのように、笑みを浮かべ、
「メディン。彼に基礎という基礎を叩き込んであげなさい」
「私に務まるんでしょうか……。そもそも彼はこの世界の人間ではなく――」
「魔力も一切ない、そう言いたいのだろう」
「……はい」
「だが彼――白崎守君には、この場にいる誰よりも、大きな可能性を秘めている。それは間違いない」
「はぁ」
「だから頼んだよ、メディン。時間がある時は、私や他の団員も直々に稽古を付けよう」
「分かりました」
そう言うとメディンは、
「よし、じゃあ行くか、白崎守」
「えっ!?」
突然、メディンが僕の手を取る。
その行動の意味を、僕はもう理解していた。
「"起動"――」
メディンが小さく、そう呟いた瞬間、
「わっ!」
僕らはまばゆい光に包まれ――次の瞬間、目の前に広がる景色がガラリと変わっていたのは、もはや言うまでもなかった。