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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
4/50

4話 そして、「黒の世界」へ

 公園を後にした僕は、自宅を目指すべく、暗がりの路地を一人歩いていた。

 だが、そんな帰り道で僕はずっと、ある違和感(・・・・・)に引っかかっていた。


 まずそもそもの話として、気になった事。

 普通、あんな非現実的(ファンタジー)な話を、人は簡単に信じるものなのだろうか?


 自分で言うのもなんだが、僕だったら絶対に信じない。

 なぜなら非現実的すぎるから。その一言で一蹴できてしまう。論理を持ち出す必要すらない。

 にも関わらず(・・・・・・)、遊木は何の疑いも向けてこなかった。


 そこで僕の中にある予感がよぎった。

 ――もしかして遊木は、何か知っていた(・・・・・)のではないか? と。


「……まさかね」


 根拠なんてものはない。それに今考えた事も全て憶測に過ぎない。

 だが確かめずにはいられなくなった僕は、気づけば足早に公園へと引き返していた。



――――――

――――

――


「はぁはぁ……馬鹿か僕は……」


 わざわざ公園まで戻らずとも、電話をかければ済む話だった。

 そう気づいたのは、公園の入り口にたどり着いた時だった。

 僕はしかたなしに、公園のベンチへと腰掛け、さっそく遊木に電話をかけた。

 静寂の中、電話のコール音が流れ始める。

 やがて数秒も経たずして、


『おかけになった電話は電源が入っていないか――』


 返ってきたそれは、無機質な機械音声だった。

 どういう事だ? まだ別れて数分。電波が届かない場所にいるという事は考えにくい。

 かといって、電源を切る理由も想像がつかない。


「まさか……」 


 脳裏をよぎる、昨晩のあの出来事(・・・・・)

 嫌な予感が徐々に膨れ上がっていく。

 僕はいてもたってもいられなくなり、


「こうなったら遊木の家に……!」


 直接遊木の家へと向かうべく、公園から一歩、外へと踏み出した、その時だった。


「……なっ!?」


 僕は思わず足を止める。

 なぜなら公園を一歩出るとそこは――。


「ま、た……!」


 またしても(・・・・・)、昨晩と同じスラム街だったからだ。

 だがどういうわけか、今いるこの公園だけは、そのままの形で残されていた。

 ……まるで、この公園ごと転移でもしてしまったかのように。

 まさかこれは夢なのでは。僕は試しに頬を強くつねってみる。


「……痛い」


 悲しいほどに現実だ。

 そんな逃れようのない現実に、僕が力なく立ち尽くしていた時だった。

 

 ――どこからか、足音のようなものが近づいてくる。


「まさか遊木……?」


 もしや遊木もこの異変に気づき、公園へと足早に引き返してきたのでは。

 だがそんな僕の期待とは裏腹に、公園へと駆け込んできたのは、


「はぁっはぁっはぁっ……!」


 僕と同世代ぐらいの、若い女性だった。

 一体何があったかは分からないが、その様子をみるに、明らかに尋常ではなかった。


「あ!」


 とっさに女性と目が合う。

 すると女性は僕を見つけるやいなや、ズカズカと僕の方へと歩み寄ってきて、


「お願い! かくまってほしいの!」 

 

 あろうことか、僕に助けを求めてきた。

 助けて欲しいのは僕の方なのに。


「えーと……一体どうしたんですか?」


 僕は仕方なしに事情を聞いてみる。

 すると女性は両手で僕の肩を思いきり掴み、


「だから追われてるんだってば!!」


 グワングワンと僕の体を揺さぶりながら叫ぶ。

 よくは分からないが誰かに追われているらしい。

 だったらひとまず、どこかへ隠れる事が先決か。


「……わわわわ分かりました。じゃあどこかに隠れ――」


 だがそうして、僕らがどこかへ身を隠そうとした、その時だった。


「ねーちゃーん。そこにいるんだろー?」


 ガラの悪そうな声と共に現れたのは、いかにも素行の悪そうな金髪の男だった。


「ひっ」


 女性は小さく悲鳴を漏らし、ベンチの下へとうずくまってしまった。

 ……なるほどね。僕はだいたいの状況を察する。

 ようするにこの女性は、この男に追いかけられていたわけだ。


「……あぁ?」


 金髪の男が、突如表情を変える。

 その表情の矛先は、間違いなく僕へと向けられていた。

 

「あぁ? 何だてめぇ?」


 なんだと言われましても。


「いや……えと……」


 このまま殴られるんじゃないかと思った。

 まるで蛇に睨まれた蛙のようにして、僕は硬直する。

 だが男の様子が更に、二転三転と変貌を遂げる。


「……おい。おいおいおい! まさかお前も(・・・)かよ!? こりゃツイてるぜ!」

 

「……へ?」


 なぜか喜びを見せる男。

 もはや何が起こっているのか分からなかった。展開が早すぎて思考が追いつかない。

 この男を引っ張ってきた女性も、ベンチの下でうずくまったまま、何一つフォローしてくれない。

 まさに混沌(カオス)な状況だった。そんな状況下で男は、両手を大きく広げ、僕らへこう言い放った。


「ようこそ《黒の世界》の掃き溜め、最下層へ! 喜べ、早速俺が歓迎してやるからよ!」


 そこでようやく、僕は実感する。いや、実感せざるを得なかったんだ。

 今いるここが、元いた世界とは異なる――正真正銘の異世界(・・・)だという事を。

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