36話 立入禁止区域 - ガウント - Ⅱ (2)
突如、僕らの目の前に現れた、得体の掴めない二人の少女。
彼女らは双子だろうか。服装こそ違えど、その見た目は完全に瓜二つと言えるものだった。
いや、そんな事よりも。
驚いたのはその服装だった。なぜならその格好は、どこからどう見ても"着物"に分類されるものだったからだ。
少女らはなぜこんな場所にいるのか。なぜ着物を着ているのか。そして、メディンとはどういう関係なのか。
次から次へと、疑問点が上がっていく。
「ルーリー……フィリア……。何の用だ」
隣にいるメディンの様子が、何やら穏やかではなかった。
そこで僕は、この少女らが何かよからぬ存在だということを察する。
「なにってそりゃあ、オールドメタルは探しによ。ねぇフィリア?」
「そうそう。じゃなきゃこんな場所、頼まれたって来ないわよ。ねぇルーリー?」
どうやらこの少女らも、僕らと同じようにして、"依頼"目的でここへと来ていたようだ。
だったら何も心配することは無いか――そう思いかけた刹那、
「でも見てフィリア! メディンが私達のためにオールドメタルを見つけておいてくれたわ!」
「まぁほんとだわ!」
思わず耳を疑ってしまうような言葉が少女らの口から飛び出した。
「な、何を言って――これは私が見つけたものだぞ――!」
僕の心の声を代弁するようにメディンは言う。
すると、少女達はまるで小悪魔のような笑みを浮かべ、
「クスクス。私達よりも級が下のメディンが何か言ってるよ、フィリア?」
「クスクス。それじゃあ無理やり奪っちゃおうか、ねぇルーリー?」
少女がそう言った、次の瞬間――。
「なんだ――!?」
ゴゴゴ――と、何やら足元から地鳴りのような音が響く。
だがその音はやがて、すぐに収まり――。
「いったいなにが……」
再び訪れた静寂。
安堵しかけた、次の瞬間――。
「いっけぇ~!!」
少女の合図によって、地面から突如現れた異形物。
それはなんと、ざっと数十メートルはあるであろう、大きなツタだった。
そしてそれは、容赦なくメディンへと襲い掛かった。
「ぐっ!」
まさに一瞬の出来事だった。
メディンは無抵抗のままツタの餌食となり、そのまま壁へと叩きつけられ、ツタによって拘束されてしまう。
「メディン!!」
僕はとっさに叫ぶ。
だけど分かっていた。こんなの、自分なんかが割って入れる状況じゃないと。
だがそれでも、ジッとしているわけにはいかなかった。
「い、今助けるから――!」
僕はメディンの元へと駆け寄り、なんとかツタを外そうと試みる。
だが、メディンを抑えつけるようにして固定された大きなツタは、僕の力ごときじゃびくともしない。
「あら? そこのゴミは何をしているのかしら?」
背後から、少女の冷たい罵声が突き刺さる。
どうやら"ゴミ"というのは、僕の事を指しているらしい。
いや、この際、どう呼ばれようがどうだっていい。
「め、メディンを離して…………あげてください」
情けなかった。年下の少女に、このような形で懇願する自分が。
でも仕方がない事だった。力関係では、完全に向こうのが上なのだから。
「どいて。じゃなきゃ捻り潰しちゃうぞ☆」
「っ……」
だがそんな願いもむなしく、交渉は即座に決裂する結果となった。
甘かった。話が通じるような相手じゃなかったんだ。
どうする。こうなったら土下座でもするか。
でももし交渉失敗したら、あの大きなツタで僕も……。
脳裏に浮かぶ最悪のビジョン――それは死。
どうしても、それだけは避けたい。
「……」
きっと僕は今、命を賭けた選択を迫られているのだろう。
メディンを救うか、少女達の言いなりになって、この場を見過ごすか。
おそらく生存ルートは後者だろう。邪魔さえしなければ命までは取られないはずだ。これもまた根拠のない考えだが。
「あれ、聞こえない? どいてって言ってるんだケド?」
だめだ。時間が無い。タイムリミットが刻々と迫ってくる。
空気が張り詰め、押しつぶされそうな重圧の中、僕が導き出した答えは――。
「わ、わかりました……」
「そ、お前はそこでただ、無力に眺めていればいいの」
僕は言われた通りツタから離れ、壁にへたれこむ。
……これはしょうがない。しょうがないことなんだ。
僕なんかがどうこうしようってのが、そもそもの間違いだったんだ。
「じゃあフィリア。早速オールドメタルをもらっちゃいましょう!」
「そうねルーリー!」
フィリアと呼ばれる少女がメディンへと近づき、その手に持っていたオールドメタルを剥ぎ取るようにして奪い取ってしまった。
「やったー! これで依頼はクリアねルーリー!」
「えぇそうよフィリア。じゃあ私達はこれで――」
「ちょ、ちょっとまって!」
少女達がこの場から立ち去ろうとするのを、僕は思わず静止する。
「め、メディンを離してやってくれないか……?」
「え? あぁ、そうだったね」
さっきまでの態度とはうってかわり、少女は案外すんなりと了承してくれた。
もはや目的の物が手に入ったから、僕らの事なんてどうでもいいのだろう。
「えい!」
少女は右手を、上から下へ大きく振った。
すると、メディンを拘束していたツタは、一瞬にして消え去ってしまった。
「それじゃあ、ごきげんよう」
目の前の少女達が、突如まばゆい光へと包み込まれていく。
瞬きをした次の瞬間――そこにはもう、少女達の姿は残されていなかった。
「はぁ……」
僕は安堵し、メディンの方へと向き合う。
「……メディン……大丈夫?」
「……あぁ」
メディンは苦虫を噛むような表情でうつむいていた。
当然だ。せっかく見つけた物を、こんな形で略奪されたのだから。
「その……ごめん……」
こんな言葉しか出てこない。
「いや、あの場面でお前に出来ることは何もない。……そう、何もなかったんだ」
分かってはいた事だが、面と向かってはっきりと言われる心に刺さるものがある。
僕は無力だ。無力がゆえに今、どうしようもない虚無感に襲われている。
「……依頼は失敗だ。ひとまず帰ろう」
「うん……」
かくして僕らは――苦い思いを胸にしまい、立入禁止区域"ガウント"を後にしたのだった。




