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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートII
38/50

36話 立入禁止区域 - ガウント - Ⅱ (2)

 突如、僕らの目の前に現れた、得体の掴めない二人の少女。

 彼女らは双子だろうか。服装こそ違えど、その見た目は完全に瓜二つと言えるものだった。

 いや、そんな事よりも。

 驚いたのはその服装だった。なぜならその格好は、どこからどう見ても"着物"に分類されるものだったからだ。

 少女らはなぜこんな場所にいるのか。なぜ着物を着ているのか。そして、メディンとはどういう関係なのか。

 次から次へと、疑問点が上がっていく。


「ルーリー……フィリア……。何の用だ」


 隣にいるメディンの様子が、何やら穏やかではなかった。

 そこで僕は、この少女らが何かよからぬ存在だということを察する。


「なにってそりゃあ、オールドメタルは探しによ。ねぇフィリア?」


「そうそう。じゃなきゃこんな場所、頼まれたって来ないわよ。ねぇルーリー?」


 どうやらこの少女らも、僕らと同じようにして、"依頼"目的でここへと来ていたようだ。

 だったら何も心配することは無いか――そう思いかけた刹那、


「でも見てフィリア! メディンが私達のためにオールドメタルを見つけておいてくれたわ!」


「まぁほんとだわ!」


 思わず耳を疑ってしまうような言葉が少女らの口から飛び出した。


「な、何を言って――これは私が見つけたものだぞ――!」


 僕の心の声を代弁するようにメディンは言う。

 すると、少女達はまるで小悪魔のような笑みを浮かべ、


「クスクス。私達よりも(クラス)が下のメディンが何か言ってるよ、フィリア?」


「クスクス。それじゃあ無理やり奪っちゃおうか、ねぇルーリー?」


 少女がそう言った、次の瞬間――。


「なんだ――!?」


 ゴゴゴ――と、何やら足元から地鳴りのような音が響く。

 だがその音はやがて、すぐに収まり――。


「いったいなにが……」


 再び訪れた静寂。

 安堵しかけた、次の瞬間――。


「いっけぇ~!!」


 少女の合図によって、地面から突如現れた異形物(・・・)

 それはなんと、ざっと数十メートルはあるであろう、大きなツタ(・・・・・)だった。

 そしてそれは、容赦なくメディンへと襲い掛かった。


「ぐっ!」


 まさに一瞬の出来事だった。

 メディンは無抵抗のままツタの餌食となり、そのまま壁へと叩きつけられ、ツタによって拘束されてしまう。


「メディン!!」


 僕はとっさに叫ぶ。

 だけど分かっていた。こんなの、自分なんかが割って入れる状況じゃないと。

 だがそれでも、ジッとしているわけにはいかなかった。


「い、今助けるから――!」


 僕はメディンの元へと駆け寄り、なんとかツタを外そうと試みる。

 だが、メディンを抑えつけるようにして固定された大きなツタは、僕の力ごときじゃびくともしない。


「あら? そこのゴミは何をしているのかしら?」


 背後から、少女の冷たい罵声が突き刺さる。

 どうやら"ゴミ"というのは、僕の事を指しているらしい。

 いや、この際、どう呼ばれようがどうだっていい。


「め、メディンを離して…………あげてください」


 情けなかった。年下の少女に、このような形で懇願する自分が。

 でも仕方がない事だった。力関係では、完全に向こうのが上なのだから。


「どいて。じゃなきゃ捻り潰しちゃうぞ☆」


「っ……」


 だがそんな願いもむなしく、交渉は即座に決裂する結果となった。

 甘かった。話が通じるような相手じゃなかったんだ。

 どうする。こうなったら土下座でもするか。

 でももし交渉失敗したら、あの大きなツタで僕も……。

 脳裏に浮かぶ最悪のビジョン――それは死。

 どうしても、それだけは避けたい。


「……」


 きっと僕は今、命を賭けた選択を迫られているのだろう。

 メディンを救うか、少女達の言いなりになって、この場を見過ごすか。

 おそらく生存ルートは後者だろう。邪魔さえしなければ命までは取られないはずだ。これもまた根拠のない考えだが。


「あれ、聞こえない? どいてって言ってるんだケド?」


 だめだ。時間が無い。タイムリミットが刻々と迫ってくる。

 空気が張り詰め、押しつぶされそうな重圧の中、僕が導き出した答えは――。


「わ、わかりました……」


「そ、お前はそこでただ、無力に眺めていればいいの」


 僕は言われた通り(・・・・・・)ツタから離れ、壁にへたれこむ。

 ……これはしょうがない。しょうがないことなんだ。

 僕なんかがどうこうしようってのが、そもそもの間違いだったんだ。


「じゃあフィリア。早速オールドメタルをもらっちゃいましょう!」


「そうねルーリー!」


 フィリアと呼ばれる少女がメディンへと近づき、その手に持っていたオールドメタルを剥ぎ取るようにして奪い取ってしまった。


「やったー! これで依頼はクリアねルーリー!」


「えぇそうよフィリア。じゃあ私達はこれで――」


「ちょ、ちょっとまって!」


 少女達がこの場から立ち去ろうとするのを、僕は思わず静止する。


「め、メディンを離してやってくれないか……?」


「え? あぁ、そうだったね」


 さっきまでの態度とはうってかわり、少女は案外すんなりと了承してくれた。

 もはや目的の物が手に入ったから、僕らの事なんてどうでもいいのだろう。


「えい!」


 少女は右手を、上から下へ大きく振った。

 すると、メディンを拘束していたツタは、一瞬にして消え去ってしまった。


「それじゃあ、ごきげんよう」


 目の前の少女達が、突如まばゆい光へと包み込まれていく。

 瞬きをした次の瞬間――そこにはもう、少女達の姿は残されていなかった。


「はぁ……」


 僕は安堵し、メディンの方へと向き合う。


「……メディン……大丈夫?」


「……あぁ」


 メディンは苦虫を噛むような表情でうつむいていた。

 当然だ。せっかく見つけた物を、こんな形で略奪されたのだから。


「その……ごめん……」


 こんな言葉しか出てこない。


「いや、あの場面でお前に出来ることは何もない。……そう、何もなかったんだ」


 分かってはいた事だが、面と向かってはっきりと言われる心に刺さるものがある。

 僕は無力だ。無力がゆえに今、どうしようもない虚無感に襲われている。


「……依頼は失敗だ。ひとまず帰ろう」


「うん……」


 かくして僕らは――苦い思いを胸にしまい、立入禁止区域"ガウント"を後にしたのだった。

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