35話 立入禁止区域 - ガウント - Ⅱ (1)
「どこだ……ここ……」
目を開けると目の前には、ただただ広大な灰色の世界が広がっていた。
辺りに散らばるは瓦礫の破片。立ち並ぶは廃墟の連なり。
人っ子一人存在しない。聞こえる音は風が抜けていく音だけ。
こんな場所に何の用があるというのか。
それすらも分からないまま、僕はメディンに強制的に連れられ、こんな場所へと立たされていた。
「さて、じゃあ行くか」
何やら隣で地図のような物を確認していたメディンだったが、それを読み終えたのか、ポケットへとしまい、道なき道を歩き始める。
「え、あ、ちょ」
ちょっとまって、の一言すらも言えず、僕は仕方なしに後を黙って付いていく。
聞きたいことは山ほどあった。当然だ。今の今までわけも分からず振り回されっぱなしなのだから。
だけどなんというか、今は聞くに聞けない雰囲気だった。
しょうがない。この依頼とやらが落ち着いてから聞くとするか。
そう思っていた時だった。
「――か?」
前を歩いていたメディンが何やら小さく呟いた。
「え?」
僕は思わず聞き返す。
「――帰りたいか、と聞いているんだ」
帰りたい? どこへ?
もしかして僕が元いた世界のことか?
「そりゃあもちろん、帰れるなら帰りたいさ」
だけど僕は、自分で発言しておきながら、ある疑問点にぶつかってしまう
――なぜ? と。
僕はどうして元の世界へ帰りたいんだ。
あんな退屈で絶望に溢れた世界、未練なんてなかったはずなのに。
それがどうして今は、そんな世界に帰りたいと思うんだ。
「……どうした?」
突然押し黙る僕を心配してか、メディンが立ち止まり、こちらの顔色を伺う。
「いや……。どうして僕は元の世界へ帰りたいんだろうなって思ってさ……」
僕はありのまま心中を吐露する。
するとメディンは僕に背を向け、
「さぁな。でもそれは今すぐに決めなくてもいいんじゃないのか? 時間はこれから沢山余るだろう」
何の解決策にもなっていない慰めだったが、なんだか肩の荷がスッと軽くなったような気がした。
「……そうか。そう……だよね」
そうして僕は、先を歩くメディンに置いていかれないよう、道なき道をゆくのだった。
――――――
――――
――
―
どこを見渡せど廃墟と瓦礫しか存在しないこの灰色の世界を、かれこれ数十分は歩き続けただろうか。
口には出さずともそろそろ疲労感もピークに達し、どこかで休まないかとメディンへ提案しようかどうか迷っていた頃合い、
「そこの建物が怪しいな」
突然、メディンは立ち止まり、何の変哲もない廃墟の建物を指差した。
メディンは怪しいと言うが、僕には他の廃墟と何が違うのかさっぱり分からなかった。
「見てみるか」
「あっ、ちょっ」
僕の返事を待たずしてメディンは建物内へと足を踏み入れてゆく。
僕は瓦礫で転ばないように、慌ててその後をついていく。
「あった……これだ」
メディンが奥で何やら、大きめの石のようなものを拾い上げる。
「それは……?」
とくに気にもならないが、一応聞いてみる。
「"オールドメタル"。このガウントでしか採取できないとされる鉱石だ」
「へぇー……」
……どこからどう見ても瓦礫の残骸にしか見えないが。
まぁなんにせよ、これで依頼とやらはクリアか。
これでようやく帰って休める――そんな事を僕が思った、その時だった。
「あっれぇ~? あれあれあれぇ~?」
ふいに背後から、少女の猫なで声が飛び込んできた。
「っ!?」
僕は声につられ、とっさに振り返る。
「見てみてフィリア。メディンがいるわ!」
「わぁほんとだわ!」
そこに立っていたのは、この場には全く似つかわしくない出で立ちの、二人の少女が立っていた。




