32話 廃墟の街 (4)
「あぁ? メディンじゃねーか。こんな所で何してやがる」
「依頼で近くまで来ていただけだ。……それよりこいつらは?」
メディンと呼ばれるそれは、黒のフードの奥から淡々と答える。
今気がついた事だが、その声は明らかに女性のものだった。
「あぁ、こいつらは白の人間だ。たまたま、このビルの中を探しに来たら二人もいやがった」
男は機嫌が良さそうにペラペラと喋り始める。
……というか白の人間ってどういう意味だ?
「それでよぉ、あろうことかこいつら、俺に奇襲を仕掛けてきやがったんだぜ? 笑えるだろ?」
「へぇ……」
黒装束は、床に倒れ伏す僕らを軽くいちべつすると、
「白の人間にも、まだそういう奴が残ってたんだな。とくにそこの男なんて――」
黒装束は何かを言いかけたところで突然、僕の方を見て固まる。
「…………」
無言の視線が痛いほどに突き刺さる。
「あぁ? なんだよ、どうした?」
男は怪訝そうな表情で黒装束に問いかける。
すると黒装束は我に返ったようにして、
「……あ、あぁ。いや、なんでもない。なんでもないんだが……」
だがその視線は今もなお、僕の方へと向けられていた。
「……あ」
僕は何かを言おうとして、か細い声が漏れる。
でも僕はいったい、何を言おうとしたんだ? この初対面であるはずの黒装束へと。
「お前は……」
表情こそ見えてこないが、黒装束の方も僕と同じような戸惑いを見せていた。
そうやって、無言のまま互いに見つめ合うというシュールな光景の中、先に口を開いたのは黒装束の方だった。
「こいつは――こいつらは、私が預かる」
この場にいる人間全員が、意表を突かれたようにして驚く。
「はぁ!? 何言ってんだ。こいつらは俺が見つけた獲物だぞ!?」
冗談じゃないと言わんばかりに男は抗議を申し立てる。
「……では報告した後、この二人の所有権をもらう。それでどうだ?」
「はぁ? それなら別にいいけどよ。そんな事してお前に何のメリットがあるんだよ?」
そんな男の問いに、黒装束は表情を隠すように、フードを下へと引っ張りながら、
「……少し、気になる事があってな」
男はどこか腑に落ちない様子だったが、
「……まぁいいけどよ。じゃあとりあえず俺はボスの所に行くけど、お前も来るのか?」
「あぁ」
そう言って男と黒装束は、同時にポケットから、何やらひし形の小道具のようなものを取り出すと、
「おっさんは俺が連れて行く。ガキの方は頼んだ」
「分かった」
なにやら話が勝手に進んでいく。
何か言わなきゃ、そう思ったその時だった。
「行くぞ」
「っ!?」
突然、黒装束が僕の手を握る。
その淡々とした振る舞いからは想像できないほどの、柔らかな感触――じゃなくて、これから一体何が始まろうというのか。
「――起動」
黒装束が隣で小さく何かを呟いた、次の瞬間――。
「え――」
突如、目の前が真っ白な光で埋め尽くされていく。
「っ――」
あまりの眩しさに僕は思わず目をつむる。
だがそうして目をつむり、次に開けた時――僕は狐につままれたような感覚に襲われる事となった。
「……え?」
なぜなら今、目の前に映る光景は――。
「あ、れ……?」
ほんの数秒前までの光景と、大きくかけ離れていたからだ。
 




