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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートII
33/50

31話 廃墟の街 (3)

 僕は矢内さんに言われた通り、部屋の一番奥、窓際へと急いでスタンバイをする。

 そんな準備動作の間にも、足音はどんどん近づいてくる。

 やがて、その音はすぐ隣、階段を上りきったところでピタッと止んだ。

 この部屋に入ってくるのも、もはや時間の問題だろう。


「すぅ……はぁ……」


 大きく深呼吸をする。だが鼓動と緊張は、少しも収まってはくれない。

 心臓が爆発するんじゃないかとさえ思うほどの緊張感の中、それはついに、僕の前へと姿を現した。


「……あぁ?」


 最悪だ。その一言に尽きる。

 今、僕に向けて鋭い眼光を向けるそれは、ついさっき、女性を連れて行ったはずの、あの金髪の男だった。


「てめぇ、こんな所でなにしてやがる?」


 男は威圧感を込め、吐き捨てる。

 僕はそんな男の迫力に押されながらも、


「い、いや、あの。気がついたら、ここにいて……何も分からないんです」


 すると、男は軽く鼻で笑い、


てめぇら(・・・・)は機械かなんかか? 同じような返答ばっかりしやがって」


「……え?」


 言っている意味が分からなかった。


「まぁいいさ。どのみちてめぇは、ここで終わりなんだからよ」


 突如、男が殺気をまとう。

 今にも殴りかかってくるんじゃないかと思った、その時だった。


「っ!」


 ――部屋の入口近く、その片隅で息を潜めていたもう一人。

 そんな、まさに死角だった位置から、


「うりゃぁ!!」


 覆いかぶさるようにして、とっさに男を羽交い締めにする矢内さん。


「な、なんだてめぇ!?」


 突然の奇襲に、男は驚き戸惑っていた。

 その間にも矢内さんは、力を込め、男の首を徐々に絞めつけていく。

 だが男もまた、必死に抵抗を見せる。

 それは、まさに熾烈な攻防戦だった。


「ぐ……く、クソがぁ……」


 しかし男の地力、そして体格は予想以上のものだった。

 若干、矢内さんが押され始める。

 これには矢内さんも想定外だったようで、


「し、白崎君! た、たのむ!」


 攻防戦のさなか、突然、矢内さんが僕の名前を叫ぶ。


「え!?」


 突然の呼びかけに、僕は一瞬戸惑いながらも、


「っ! う、うおお!!」


「ぐおっ!?」


 その言葉の意味を理解し、男の腹へと右ストレートをお見舞いしてやった。

 ――が、しかし。


「……ざけんじゃねぇぞおおおお!!」


 結果、その行為は、ただ相手を逆撫でる愚行となり、男は更に激昂してしまう。

 そうこうしている内に、やがて矢内さんの体力も限界をむかえ、


「くっ――!」


 矢内さんの手中から、とうとう男が解き放たれてしまった。


「クソがぁ! 舐めやがって! まずは一発喰らっとけや!」


「うごぁっ!?」


 ズドン、と突き上げるようにして、矢内さんのみぞおちへと、男の拳が炸裂する。


「矢内さ――」


 だが、事態はそこで終着では無かった。

 次の瞬間、僕は理解不能(・・・・)な現象に襲われる事となった。


「ごはぁ!?」


 ――なぜか自分にまで(・・・・)、殴られたような痛みが走ったのだ。

 でもそれは通常、ありえない話だった。

 なぜなら今、男に殴られたのは矢内さんであって、僕ではないからだ。


「な、にが――??」


 僕はわけも分からないまま、矢内さんを追うようにして、地面へと崩れ落ちていく。


「チッ、余計な手間かけさせるんじゃねぇよ、クズ共が」


 男の鋭い眼光が、床にひれ伏す僕らへと向けられる。


「てめぇら、まさか、これで終わりだとか思ってねぇだろうな?」


 そう言うと男は突然、その場で地団駄を踏んだ。

 ダァン、と大きな音が建物内に響く中、それは再び、不可解な現象となって僕らへと襲いかかった。


「あがぁっ!?」


「矢内さん!?」


 矢内さんは痛みに表情を歪める。


「次はてめぇ、だ!」


 そう言うと男は再び、その場で地団駄をした、次の瞬間。


「い”っ!?」


 今度は背中へと激痛が走る。


「まさ……か!」


 そこで僕はようやく、今身に起きている、この現象の正体に気がつく。


「やーっと分かったか? そうさ、俺がこうして殴る動作をするだけで――」


 説明半ば、男は右手を大きく横へと振るう。

 すると、答え合わせをするように、


「ぅ"!?」


 右頬に、殴られたような衝撃が走る。

 確信する。

 どういうわけかこの金髪の男は、直接殴らずとも、相手を殴れる――そんな非科学的な術を持っているという事を。


「この手を直接汚さずに、相手をボコボコにできるんだわ。どうだ、良い魔法スキルだろ?」


「く……」


 どうする。どうすれば、この絶望的な状況を打開できる? どうすれば、この異能力者を出し抜ける?

 そんな風に僕が、必死に次の一手を考えていた時だった。

 幸か不幸か、事態はあらぬ方へと展開する事となった。


「……あ?」


 金髪の男が眉をひそめる。

 その原因はすぐに分かった。


 ――カツッ、カツッと。

 小刻みな音と共に、誰かが階段を上ってきたのだ。


「っ!」


 僕はこの時、終わった――そう思っていた。

 なぜなら、この場面で救世主など来るはずもなかったからだ。

 あるとするならば、十中八九、奴らの仲間。そう考えるのが普通だった。

 ――だが、僕は次の瞬間、それ(・・)を見た時、全く別の感情(・・・・)を抱く事となった。


「……なんだビズか」


 突如として僕らの前に現れ、金髪の男へと話しかけるそれ(・・)は、全身が黒装束に覆われているという、どう見ても怪しい格好の奴だった。

 性別どころか表情さえも見えてこない。しかし、そんな出で立ちに僕は、不安や恐怖といった感情ではなく――。


「……なんだこいつらは」


 そう冷たく言い放つ相手に対して、なぜだか僕は、懐かしさを覚えていた。

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