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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートII
32/50

30話 廃墟の街 (2)

 公園を後にした僕は、当然行く宛も無く、ただひたすらに暗闇の中を歩き続けていた。

 さっきからずっと、人の気配を全く感じられず、おまけに、延々と路地裏を歩いているような景観が続いているせいで、気が滅入りそうになる。


「誰か~……」


 力なく叫ぶ。

 だがそれでも、返事はおろか、物音一つすらも返ってこない。


「疲れた……」


 遊木と別れてから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 時間を確認しようにも、携帯は電源すら入らない。

 体力的にも、精神的にも、疲労がピークに達しようとしていた。


 ……だめだ。これ以上歩けない。

 ひとまず、どこか休める場所を探そう。


「……と言っても」


 どこを見渡そうと、廃墟のような建物しか目に入ってこない。

 あんな場所じゃ、一晩過ごす事はおろか、風をしのぐことさえも疑わしい。

 だが、これ以上、僕に行く宛が無いというのもまた現実だった。


「仕方ない、か……」


 僕は小さく呟き、適当に目に入った小さな廃墟ビルへと足を踏み入れていく。

 入ってすぐ、まず目に飛び込んできたのは、上へと続く階段だった。

 外装ほどではないが、だいぶ老朽化が進んでいた。

 僕は慎重になりながら、ゆっくりと階段を登っていく。


「ここが最上階か……?」


 ほどなくして、最上階であろう3階へとたどり着く。

 右と左、両サイドに二つの部屋が点在していた。

 特に意味は無いが、僕は左の角部屋を選択する。


「……」


 僕は覗き込むようにして、部屋の中を慎重に確認する。

 するとそこは、物一つ置かれていない殺風景な一室だった。

 幸か不幸か、人もいなさそうだ。

 僕は安全である事を確認し、


「よし」


 そうして部屋へと足を踏み入れた、次の瞬間。


「ぐぇっ!?」


 ――突然、何者からか(・・・・・)首を絞めつけられる。


「――っ!」


 声をあげようにも、思うように息が吸い込めない。急激に意識が遠のいていく。

 焦燥感の中、僕は名も知らぬ相手の腕を必死にタップする。


「……む?」


 そんな僕の白旗が届いたのか、相手は絞めつけを一気に解いてくれる。


「……っ! ゴホッ、ゴホッ!」


 圧迫感から解き放たれた僕は、そのまま地面へとへたれ込む。


「いやぁ、すまんすまん。私はてっきり、追手が来たのかと」


 すると、なぜか声の主が僕へと手を差し伸べた。

 僕はその手に引かれ、ゆっくりと立ち上がる。


「――私は矢内やない。君の名前は――?」


 ニカッと笑みを浮かべるその男は、どこにでもいそうな中年の男性だった。


――――――

――――

――


「では、君も同じようにして、この世界へと迷いこんだ。そういうことだね?」


「えぇ……まぁ」


 突然現れた、この矢内という男性。

 それは僕と同じ、この世界へと迷いこんでしまった、言うなれば同じ境遇の者だった。

 ようやく見つけた人。それも同じ境遇者。嬉しくないわけがなかった。


「……そういやさっき、追手と間違えたとか言ってましたよね」


 下手したら、あそこで死んでた可能性もある。


「はっはっは! いやぁ、この世界に来てから、なぜだかは分からないが、物騒な人間達に追われる事が多くてな!」


 それは笑い事ではないです。


「でも、もし僕が追手だったとしたら、首を絞めつける程度じゃどうにもならないんじゃ。なんせ奴らは――」


「――異能力者(・・・・)だから。そう言いたいのだろう?」


 僕の言葉を借りるようにして、矢内さんは言う。


「確かにこの世界の人間は、どういうわけか、我々の常識の範疇を超えた異能の力を扱う」


「だったらどうして、あんな事を……」


 そんな僕の問いに、矢内さんは当たり前だと言わんばかりに、


「なぁに。たとえ彼らが異能の力を持っていようと、使わせる前に倒してしまえば、ただの人間同然。そうだろう?」


「…………」


 ……いや。確かにそれは正論であり、理にかなってはいる。

 ようは、やられる前にやれの精神の事を言っているんだろう。

 だが、たとえそうだったとしても、


「……危険すぎるでしょう。中には、炎を操る能力者だっているんですよ……」


 脳裏に浮かぶ、あの地獄絵図。そして炎を操る男。

 あんな相手、小手先でどうにかなるレベルを超えている。


「なにっ! 炎を操る者まで存在するのか! いやぁ君も災難だったな! はっはっは!」


 いや、だから笑い事じゃないです。

 ……まぁ結果的に、僕だったからよかったけど。


「それで、えーと……白崎君だったかな? 君は何か、元の世界へ帰るための、手がかりを持っているかい?」


「こっちが聞きたいぐらいです……」


 どうやら向こうも、帰る方法を知らないらしい。

 まぁ知ってたら、こんな場所にいないか。


「ふむ、困ったね……」


「……ですね」


 この時、僕の意識は眠気で朦朧としていて、この後矢内さんと、どんな話をしたのかよく覚えていなかった。

 他愛もない雑談。元の世界では何をしていたのか。たぶん、そんな、帰る手がかりとは何の関係も無い話をしていたと思う。

 でもこれ(・・)は、今でもはっきりと覚えていた。

 なんせそれは、僕の眠気を容易にふっ飛ばすほどの出来事だったのだから。

 

 ――そう。まさに僕が眠りに落ちるか、落ちないかの瀬戸際。


 カツン、カツン。

 突如、下の階から、足音が聞こえてきた。


「「っ!?」」


 僕と矢内さんは、ほぼ同時にハッとし、顔を見合わせた。

 足音が近くなってくる。どうやら階段を上ってきているようだ。


 僕は矢内さんへと、どうしたらいいのか、必死に視線だけで(・・・・・)訴えかける。

 すると矢内さんは僕の耳元で、


「――作戦がある。一度しか言わないから、よく聞いてくれ」


 逃げ道が無い状況で、即興の迎撃作戦が始まる。

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