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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートII
29/50

27話 炎に包まれた男II (2)

「あぁ? 何言ってんだ、このおっさん?」


 最初に反応したのは、金髪の男だった。


「もう一度聞くよ。キミたちは白の人間(・・・・)って事でいいんだよね?」


 場が一瞬にして、静寂へと包まれる。

 僕ら三人は、あっけにとられていた。


「ふむ、まいったね。まさか言語が通じないほどの、下等生物だったとは……」


「あ!? 今なんつった!?」


 さすがに馬鹿にされている事ぐらいは理解できたのか、金髪男が激昂し、男性の胸元へと掴みかかる。


「おい、おっさん。誰に向かって口きいてるか、分かってんのか?」


 そんな、金髪男の威圧に、男性は顔色一つ変えず、


「――離してくれないか?」


 と、ただ一言だけ。

 それが余計に癪に障ったのか、金髪男は更に激昂していく。


「あぁ!? 聞こえねぇなぁ!?」


「――と言っている」


 男性はなにやら、独り言のように呟いていた。

 そんな男性の態度に、金髪男がとうとうブチ切れ、


「てんめぇ! 今の状況分かって――」


 男性へと殴りかかろうとした、次の瞬間。


「――離せと言っているだろう。下等生物の蛆虫が」


「――あぁ?」


 なぜか金髪男が――燃え盛る炎に包まれていた。


「え?」


 後ろで見ていた僕も、目の前の意味不明な光景に、間抜けな声を漏らす。


「んだよこれ……?」


 金髪男は自分の体を二度見し、そこでようやく気がついたのか、


「あ、あ、あ、あ――あああああああああああああ!?」


 けたたましい断末魔を響かせる。


「は? は? は?」


 悠長にタバコを吸っていたもう一人の不良も、この異常事態に気がつき、動揺し始める。


「あ……」


 断末魔をあげながら、地面をのたうち回る、人だった何か。

 そんな、非現実的な光景を前に、僕は動けずにいた。

 ――逃げなきゃ。

 そんな事は分かっていた。それでも僕は、座り込んだまま、男が燃えゆく様を、ただ見ている事しかできなかった。


「あ、が……」


 やがて、のたうち回っていたそれ(・・)は、動かなくなってしまった。


「ひっ……」


 変わり果てた友人の姿に、不良の男が嗚咽を漏らす。


「あぁ、そういえば――まだ、キミたちがいたね」


 突如、ぐるりと男性が顔をこちらへと向け、僕らの方へと歩み寄ってくる。

 すると隣で震えていた不良の男が、


「こ――こいつに命令されたんです! だから、俺はなんも悪くないんです!」


「えっ!?」


 気でも狂ったのか、突然とんでもない事を言いだした。

 もちろん、そんな命令をした覚えなんてない。

 それでも不良の男は、醜くも必死に弁解を続ける。


「だから俺はわるく――!」


 だがそんな男の弁解もむなしく、


「な……え?」


 男の口が、手が、足が止まる。


「ど、どう、して――」


 気づけば不良の男は――燃え盛る炎に包まれ、静かに炎上していた。


「まさ、か……」


 そんな一部始終を後ろで見ていた僕は、ある事実に気がつく。

 突然、何もない場所から現れた炎。それが、あの男性の仕業によるものだという事に。


「――っ! ――っ!」


 不良の男は酸素を求め、苦しそうに地面をのたうち回る。

 だが業火に覆い尽くされた炎は、それすらも許さない。


「さて、と」


 男性は唐突に、パチリと指を短く鳴らした。

 すると男を覆い尽くしていた業火は、一瞬にして闇の中へと消え去ってしまった。


「最後はキミか」


 ギロリ、と無機質なフェイスが、僕へと向けられる。


「う……」


 怖い。死ぬ。死にたくない。逃げなきゃ。逃げたい。今すぐに。ここから。

 だがそれでも、僕は動けない。


「何か、最後に言いたいことは?」


 慈悲か、暇つぶしか。

 だがそんな軽い余興にも、僕は答えられず、 


「ない、と。じゃあさようなら」


 次の瞬間、燃え盛る炎が一瞬にして僕を飲み込んだ。


――――――

――――

――


「なぜ――」


 声が聞こえる。

 僕はその声に反応するように、ゆっくりとまぶたを開けていく。

 ぼやけていた意識が、徐々に鮮明となっていく。

 目を開けるとそこには――。


「なぜあなたは、あれだけの炎を受けて、生きているのですか?」


 さっきまでとなんら変わらない景色、そして、驚きをあらわにした男が立っていた。


「あ、れ……?」


 僕は遅れて実感する。

 自分が生きている(・・・・・)という事を。

 間違いない。心臓も動いてる。手足だって動く。


「なにが起こって……」


 確かに僕は、炎に飲み込まれたはずだった。

 今でもあの炎が、脳裏に焼き付いているぐらいだ。

 じゃあどうして、僕は無傷なんだ?


「あ、あ、の――」


 僕は勇気を振り絞り、男へと声をかけようとする。

 しかし僕の言葉を遮るようにして、


「キミはもしかして、白の人間ではないのかい?」


「え……?」


「キミは黒の人間か、それとも白の人間かと聞いているのだが」


 男は若干の苛立ちを見せながらも、再三、意味不明な質問を投げかけてくる。


「……い、言ってる意味が分からないのですが」


 僕は正直に言う。

 すると男は、ポケットから一枚の小さな用紙を取り出し、


「ふむ……。まぁ亀裂は収まったようですし、これでよしとしますか」


 やがて何かに納得したのか、用紙を再びポケットへとしまい、


「では青年、ごきげんよう」


 突如、男の体がまばゆい光へと包み込まれていく。

 その光はやがて、男の姿を完全に覆い尽くし――。


「っ!?」


 次の瞬間、それはひときわ強い光を放ち――。


「え……」


 次に僕が目を開けた時には――そこにはもう、男の姿は残されていなかった。

 この場に残されたのは、呆然と立ち尽くす僕、ただ一人だけ。


「そうだ携帯は――」


 僕はとっさに携帯を取り出そうとするが、


「……点かないんだった」


 電源が入らないという、残酷な現実を思い出す。


「誰か人は……」


 誰かに道を聞こうと、僕は周囲を軽く見渡す。

 ――だが周辺には、人がいるどころか、人の気配すらなかった。

 そもそも、民家すら存在しない。あるのは寂れた廃墟だけ。


「どうしてこんなことに……」


 どうしようもない虚無感にさいなまれ、僕は電柱へともたれかかった。


「はぁ……」


 ただ、コンビニに行こうとしていただけなのに、どうしてこんな事になっているんだろう。

 理不尽すぎるこの状況に、思わず泣きたくなる。


「……あ」


 そんな中、僕は今更ながらに気づいてしまう。

 例の失踪事件。どうして被害者が、誰一人見つからないのか。

 その答えは簡単だった。みんなこの世界に迷い、そして死んでいったからだ。


「……いや、ちょっとまて」


 でもそれはおかしい。なぜなら僕は(・・)生きている。

 ということは、だ。もしかしたら、同じようにして、生き延びた人間がいるかもしれないわけだ。

 ……探すか? でもこの暗闇の中を?

 そうやって僕が立ち往生していた、その時だった。


「……音?」


 遠くから聞こえてきたそれは、軽快な電子音だった。

 この暗闇のスラム街に、不気味なほど鮮明に聞こえる電子音。

 

「さて……」


 街灯の下、僕は考える。

 この音の正体を、今から確認しにいくのは容易だ。

 だがその後(・・・)どうなるかまでは分からない。

 つまるところ、命の保証はないという事だ。


 ……しかしそれは、この場にとどまっていても同じことだった。

 そう、ここにいても、安全だとは限らない。


「だったら……」


 僕は小さく決心し、音のする方へと歩き出した。

 暗闇の中、壊れかけの街灯をたよりに、ゆっくりと歩き続ける。

 辺りは完全なる無音。物音一つすら聞こえてこない。聞こえるのは、徐々に早くなっていく心臓の鼓動だけ。

 そんな緊張感が漂う中、かれこれ数分ほど歩いただろうか。

 次第に大きくなっていた電子音が、唐突に、ピタリと止んでしまった。


「ここは……公園?」


 気づけば僕の目の前には、どこにでもありそうな、小さな公園がたたずんでいた。

 音の発生源も、ここで間違いないだろう。

 僕は公園の入り口を見つけ、慎重に足を踏み入れていく。

 だがそうやって、公園へと一歩踏み入れた瞬間、僕は息を呑み、驚愕する。


「どうして、ここが……」


 なぜならこの公園が――自分もよく知る、近所の公園だったからだ。

 これだけでも、十分驚愕するに値するが、僕の驚愕はそこでは終わらなかった。


「よう、まもる!」


 そう言って僕の前に現れた、一人の青年。


「ちょうど今から、お前んち行こうと思ってたんだよ!」


 その青年を僕はよく知っていた。


「遊……木?」


 なぜならそこに立っていたのは、幼なじみであり、親友の、藍上遊木あいがみゆうきだったからだ。

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