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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートII
28/50

26話 炎に包まれた男II (1)

「お前が……この世界をこんな風にした張本人か?」


「……そうだが、なにか?」


 暗闇の中、2つの声が聞こえる。

 これは夢だろうか。


「どうしてこんな酷い事を……」


「人聞きの悪い事を言わないでくれ。私はただ、2つの世界をあるべき姿へと、戻そうとしてるだけではないか」


 なにやら、穏やかではない雰囲気だった。


「ふざけるな……。そうやって、何人もの罪のない人達を、巻き添えにしてきたんだ……!」


 その声は怒りに震えていた。

 それにしても、なんだろうか、この夢の内容は。

 全く見覚えがないのに、中途半端に鮮明だ。


「……彼らは必要な犠牲だったのだ。――そして君も、例外ではないのだよ」


「やってみろ!」


 そこで夢は、プツッと途切れてしまった。だが最後に、僕は重大な事実に気づいてしまう。

 最後の声が――自分自身の声(・・・・・・)だったという事に。




――――――――


「んん……」


 目をこすり、辺りを見渡すとそこは、見慣れたいつものアパートの一室だった。

 ……そういえば今日は、大学の補修をさぼって、家でずっとネトゲして……そのまま疲れて寝てしまったんだっけ。

 パソコンの明かりが存在感を放つ真っ暗な部屋の中、スマートフォンを手に取り、時刻を確認すると、夜の7時をまわろうとしていた所だった。


「はぁ……」


 僕はため息は漏らしつつ、なんとなしにテレビの電源を入れる。


『現在、全国で多発している失踪事件ですが――』


 緊急特番だろうか。

 それは今、全国で多発しているらしい(・・・)、失踪事件を扱ったニュース番組だった。


「……物騒だなぁ」


 事の始まりは、子供の失踪だった。

 この時点では、単なる誘拐事件として扱われていた。

 だが問題はそこからだった。

 その事件を皮切りに、一日一人のペースで、誰かが失踪するようになったのだ。

 さすがに異例すぎる事態に警察、そして国までもが緊急体制を取り、捜査に力を入れていたが、依然犯人は捕まっていなかった。


 しかし、そんな事件にもある共通点があった。

 それは――。


『ですから、一人での行動は極力避け――」


 失踪した人達みな、なんの形跡も残さず、失踪してしまったという事だ。

 つまり証拠は何も残ってない。警察からしてみれば、ほぼお手上げ状態ともいえた。


 だが、そんな恐ろしい事件に対し、世間の人々はどこか半信半疑でいた。

 当然だ。なぜなら、この事件が非現実的(・・・・)すぎるからだ。

 結局、人間という生き物は、自分が確認するまで信用できないのだ。

 

 ――僕も例外ではなかった。


「……まぁ大丈夫でしょ」


 時刻は夜の7時過ぎ。8月も残り僅か。

 うだるように暑かった気温もだいぶ下がり、半袖で過ごしやすい環境になっていた。

 そんな中で僕はいつも通り、夜食を調達するために、コンビニへと向かった。


――――――

――――

――


 何かがおかしい。

 最初はそんな小さな違和感から始まった。


「……まだ7時過ぎだよな」


 確かに、この辺り一帯は、閑静な住宅街だ。

 大通りから少し離れてるという事もあってか、人とすれ違う事もほとんどない。

 だけど、この状況(・・・・)は少しばかり異常だった。


「……ちょっと静かすぎ……ないか?」


 どこからか聞こえてくる楽しそうな声。どこからか漂う夕食の香り。

 たまにすれ違うジョギング中のおじさん。仕事帰りのサラリーマン。

 そんな当たり前の日常。それが今となっては、どこにも存在していないのだ。


「そんなはずは――」


 僕は不安になり、とっさに辺りを見渡す。

 そして、即座に息をのんだ。


「――っ!?」


 ある異変(・・・・)に気がついてしまったからだ。

 なぜなら、辺りを見渡せばそこは――。


「なんだよこれ……」


 全てが見たこともない場所だったからだ。

 知らない道に迷い込んだとか、そういう次元じゃない。場所そのものが違っていた。

 さっきまで僕は住宅街を歩いていたはずだ。それがどういうわけか、僕は今、寂れたスラム街に立っていた。


「まさか……」


 ふと脳裏によぎる、あの事件。

 嫌な予感が、僕の中を漂い始める。


「そうだ携帯は――」


 僕はとっさにスマートフォンを取り出し、現在地を確認しようとする。

 しかしそこで、またもや大きな異変に直面する事となった。


「……どうして電源がつかないんだ」


 付かないのだ。どれだけ電源ボタンを押そうとも。

 おかしい。こんなはずはない。なぜなら家を出る直前まで、ちゃんと充電していたからだ。


「……はぁ」


 僕はため息を漏らし、電柱へともたれかかる。

 ……最悪だ。僕はただ、コンビニに行こうとしていただけなのに。

 それがなんだこの状況は。


「……笑えない」


 どうしようもない状況に、僕が絶望していた、その時だった。


「おい! あそこに人がいるぞ!」


「おいマジか!」


 それは二人の男性の声だった。


「人……?」


 僕は目を細め、声のする方を注意深く観察する。

 すると、向こう側から、二人の男性がやってきた。


「あっいたいた! おーいそこの人!」


 そうして現れたのは、金髪の男と黒髪の男――見るからに不良の二人組だった。

 歳は同じぐらいか、はたまた上か――って、今はそんな事どうでもいい。

 僕はさっそく、二人の男と接触する。


「あ、あの、道に迷ってしまって――」


 だが僕が声をかけようとした次の瞬間、金髪の男はとんでもない事を言いだした。


「ねぇねぇ兄ちゃん。俺ら道に迷っちゃってさ、今困ってるんだ。だから金貸してくんない?」


「……え?」


 思わず耳を疑った。

 驚く僕を無視して、金髪の男は続ける。


「いや、だからさ、ちょーっち金貸してほしいんだわ」


「……」


 言葉が出てこない。


「おーい。しかとかー?」


 金髪の男が、顔を覗き込んでくる。

 そこで僕はハッとし、


「あ、あの、そんなことより、この状況から抜け出す方が先決じゃないですか?」


 至極当然の提案だった。

 だが男は、何かが癇に障ったのか、


「はぁ~? だから、そのための金をよこせっつってんだろうが」


 少しキレ気味で、僕へと詰め寄った。

 そんな一部始終を見ていたもう一人の不良が、


「はぁめんどくせぇ……。もうボコって終わりでいいっしょ」


「えっ?」


 それは言葉の意味を理解する前にやってきた。


「オラァっ!」


「ぐぇ!?」


 金髪男のボディーブローが、僕のみぞおちに見事に決まった。

 それは、引きこもりをKOするには、十分すぎるほどの威力だった。


「――っ! ガハッ! ゴホッ!」


 僕は痛みに耐えきれず、地面に倒れ伏す。


「もう一度言うぞ――少しばかり俺らに金を貸してくれねぇか?」


 ……確か財布の中には一万円が入っていたはず。

 それを失うのは、相当な痛手だ。

 だけど……もう痛いのは嫌だ。これを渡せば、とりえあえず暴力は振るわれなくなる……。

 だったら――。


「あ、あの……」


 そうして僕がポケットから、財布を取り出そうとした、その時だった。


「キミたち――」


 突然飛び込んできた、また別の声。

 突然、男達の背後に現れた人影。


「魔力の反応がないってことは、向こうの人間って事でいいんだよね?」


 それはどこにでもいるような、スーツを着た、サラリーマン風の男性だった。

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