SS 次の世界へ
立入禁止区域ガウント――。
そこはかつて、多くの人々で溢れ、活気を見せていた地域だった。
しかし、ある事件をきっかけに、生きとし生けるもの全てが、一斉に姿を消した。
そんな、世界から切り取られたような場所で今、人知れず惨劇が起きていた。
そして、その様子を、遠く離れた廃墟ビルの屋上から眺める、二人の男女がいた。
「……また駄目、か」
上から下まで真っ黒のフードをまとった男は、吐き捨てるように呟く。
「ねぇ、やっぱり私達が助けるわけには……」
もう一人の女も、上から下までを覆い尽くすフードをまとっていた。
唯一、男と違う点は、フードの色が純白であるという事だけ。
「……だめだ。それじゃあ行き着く先は破滅だ……」
「そんな……」
「……だが俺は諦めない。世界が――そしてあいつが生き残る術が見つかるまでは……」
男が小さな声で、それでも確かに、強く決心をする。
そんな男を、フードの奥から心配そうに見つめる女は、
「それじゃあ、また戻るの?」
すると男は、最初から決まっていたかのように、
「あぁ。当然さ」
迷う素振りを一切見せず、即答した。
「……そう言うと思ったわ」
女もまた、その答えが分かっていたかのように言う。
「……お前は無理をしなくていいんだぞ。俺一人だけでも――」
女は男の言葉を遮るように、
「何、馬鹿な事を言ってるのよ。私は自分の意志で動いてる、最初にそう言ったはずよ」
「はは……。ったく、お前は昔から本当に、あいつの事が大好きなんだな」
男がフードの奥で小さく笑うと、女は少し恥じらいを見せながら、
「……あ、あんたも人の事言えないでしょ」
「ははっ、そうだな。……本当にそうだわ」
やがて男は、芝居がかった口調で、
「……さて、準備はいいかい? 麗しきお姫様」
女の手を、そっと取った。
「いつでもいいわよ、勇敢なる王子様」
女もまた、男の手を取った。
立入禁止区域ガウント。
そこはかつて、多くの人々で賑わい、活気を見せていた地域だった。
だがそれも、かつての話、今は辺り一面が荒廃し、灰色に塗りつぶされた世界。
そんな世界にそびえ立つ、とある廃墟ビルの屋上。
確かに存在していた。だがそこにあったはずの二人の姿はもう、この世界のどこにも存在していなかった。