25話 ルート:バッドエンド (3)
動け。動け。動け、頼む、動いてくれ――。
僕は必死にもがき、体を起こそうとする。
だがどれだけもがこうと、体は恐怖によって縛り付けられ動けずにいた。
「じゃあ早速だが――死ねぇ!」
刹那、振り下ろされた大男の拳が、スローモーションの景色となって流れてゆく。
――そんな、まさに間一髪の瞬間、
「わぁっ!!」
僕は体を大きくひねり、なんとか直撃をまぬがれる。
しかしそこでホッとしたのも束の間、
「――っ!?」
拳が大地に叩きつけられたその反動によって、気づけば僕は宙へと投げ出されていた。
やがて重力へと従い、地面へと乱雑に叩きつけられる。
「ぐぅっ!?」
背中に激しい痛みが走る。体の内に溜まっていた空気が口から一気に排出される。
痛みと苦しみから逃れようと、無様に地面をのたうち回る。
「おっとはずしちまったか。こりゃいかんいかん」
僕は体を引きずり、大男から距離を取ろうとする。
だがそうやって僕が地面を這いつくばっていた、その時だった。
「……?」
ぐちゃり、と。
右手に濡れるような感触が伝った。
手探りで右手を動かしてみるも、それが何なのか分からない。
「な、ん……」
僕はおそるおそる、それの正体を確認する。
そう、見てしまったんだ。
「あ……あ、あ、あ、あ」
そして後悔した。
なぜなら今、右手で触れたそれというのは――。
「うわああああああああああ!!」
――変わり果てた姿の、メディンだったからだ。
あちこちに折れ曲がった骨。辺りに散らばる血痕。どす黒い赤で塗りつぶされたそれは、間近で見てやっと、メディンだと分かるものだった。
「う……オェェ!!」
不快感が一気に噴出し、僕はたまらず嘔吐する。
怖い。死ぬ。本当に殺される。いやだ。生きたい。死にたくない。
僕は半ばパニック状態で、地面の上でもがき、這いずり回る。
「たす、けて……」
生まれて始めて味わう、生きたいという一つの感情が大きく芽生える。
だけど僕は遅すぎたんだ。そんな当たり前の感情に気がつくのが。
「あばよっ――!」
まさに眼前――大男の拳が、勢い良く振り下ろされる。
「あ――」
僕は悟った。自分の死を。そして静かに目を閉じた。
永遠にも思えるこの時間の流れの中、僕は後悔していた。
間違った選択をし続けてきた、この人生を。
「――」
ぐちゃり――と、何かが潰れるような音が、頭の中に鳴り響いた。
そして、プツリと途切れるように、僕の意識はそこで途絶えた。




