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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
25/50

24話 ルート:バッドエンド (2)

 夜もふけ、辺りは完全に静まり返っていた。

 そんな静けさの中、僕らは再び、ガウントへと来ていた。


「さむ……」


 まるで真冬のように寒い。前回来た時は、ここまで寒くなかったはずだが……。


「そんな格好じゃ、寒くて当然だ」


 そう言うメディンの格好は、いつもの黒装束ではなく、少し着込んだ防寒着のような服装だった。

 対して僕はというと、シャツの上に軽くパーカーを羽織っているだけという、ラフな格好だった。

 でも僕だって、好きでこんな格好をしているわけじゃない。


「この服しか持ってないんだから、どうしようもないでしょ……」


 旅行気分で、この世界に来たわけじゃない。となれば、当然、他の服なんて持っているわけがない。

 

「服がないのは、自業自得だろう」


 どこらへんが!?


「まぁいい……。手っ取り早くこれ(・・)を届けて、帰還するぞ」


 小汚い小さな巾着袋を、指にぶら下げ、メディンは言う。

 それは、今回の依頼で届ける予定の物だった。

 というのも、今回の依頼、表向きは(・・・・)運搬という事になっているらしい。


「……それと」


 やがてメディンは巾着袋をポケットにしまうと、


「おそらくこれは……ボスが言っていた通り罠だろう」


「……だろうね」


 罠なのは、もはや確定的だった。


「つまり、目的地点で何者かが――あるいは、集団が待ち構えている可能性もある」


「集団……」


 そうか、敵が一人だとは限らないのか。

 そこまでは想定していなかった。


「そうなれば――後は分かるな?」


 そう言うとメディンは、僕に何かを手渡してくる。

 僕はそれを、反射的に受け取る。


「これは……」


 ダイヤモンド型の小さなアクセサリーのようなもの。

 それは、この世界に来てから何度も見た、テレポート用の道具だった。

 そこで僕は、メディンが言おうとしている事を察する。


「危なくなったら、逃げろって事……?」


「そうだ」


「……メディンはどうするの」


 分かっていた。どんな答えが返ってくるか。

 それでも僕は、本人の口から聞くまで、納得できなかった。


「私は――」


 メディンは少しの間を置き、息を呑むようにして、


「――もちろん、逃げない(・・・・)


 その答えの意味、それは――。


「……つまり、死ぬってこと?」


 僕の質問に、メディンは押し黙ってしまう。

 息が詰まりそうなほどに、重い空気の中、


「……そうだ」


 メディンはポツリと、小さくこぼした。

 それでも、諦めきれなかった僕は、


「危なくなったら一緒に逃げれば――」


「だめだ。それじゃ、組織に迷惑がかかる。そうなっては結局、みなが路頭に迷ってしまう」


「……」


 そんな事わかっている。でも僕が言いたいのは、そんな事じゃない。

 なぜ、メディンが死ぬ必要があるのかという事だ。


「……色々考えた。でも結局、最適解は見つからなかった。安いものじゃないか。私一人の命で事が済むのなら」


 強がりを見せるメディンだったが、その声は間違いなく、震えていた。

 そして――その瞳には、微かに涙が滲んでいた。


「あ……」


 頭がグラグラっと揺れる。心がズキズキとする。

 何か言葉をかけなきゃ、そんな焦燥感が僕を襲う。

 でも今更、彼女に何が言えるというのか。

 今、目の前には、どうしようもない現実が立ちふさがっていた。

 そして、僕に今あるのは、ひたすらに膨大な虚無――ただそれだけ。


「……そろそろ目的地点だ」


「っ!?」


 メディンの言葉で、一気に現実へと引き戻される。

 気づけば僕らは、目的地点の近辺まで来ていたようだ。


「……」


 メディンが振り向き、無言で僕にアイコンタクトを送ってくる。

 僕はそれの意味を理解し、近くの瓦礫の影へと身を隠す。

 そして、メディンだけが、おそるおそる慎重に前を歩いてゆく。

 そうしてメディンが足を踏み入れたそこは、大きくひらけた、見通しの良い場所だった。


「誰かいないのか……?」

 

 その時だった。


「おうおう。おせぇじゃねぇか!」


 僕は思わず息を呑んだ。

 なぜならメディンの前に突如現れたそれは、軽く2mは超えるであろう、大男だったからだ。

 男の風体を一言で表すなら、山賊とでもいうべきか。


「おめぇがメディンだな?」


 男はぶっきらぼうに、メディンへと問いかける。


「……そうだ」


 と、メディンは一言。


「そうか。……なら、もう分かってるな(・・・・・・・・)?」


 一歩、二歩と、大きな歩幅で、メディンとの距離を詰めていく。

 やがてあっという間に、メディンの至近距離にまでたどり着き、


「じゃあ始めるとすっかぁ!!」


 突如、地面に思い切り拳を叩きつける大男。


「っ!?」


 強烈な振動が、辺り一面の大地に拡散される。

 瓦礫の山は崩壊し、地割れが四方八方へと伸びていく。

 揺れは収まるどころか、次第に強くなっていく。

 気持ち悪い。それが今の僕の率直な状況だった。縦、横と大きく揺れ、まるで内側からかき回されているような感覚が僕を襲う。

 そしてとうとう、僕は耐えきれず、意識を失った――。




――――――

――――

――




「うう……」 


 自分が地面に横たわっている事に気がついたのは、揺れが完全に収まってからだった。

 あれからどれだけの時間が経ったのか、そして何が起こったのか、僕には全く分からなかった。


「メディン……?」


 僕は倒れ伏したまま、視界を上下左右移動させ、メディンを探す。

 辺りに散らばる、瓦礫の残骸。そして不規則に広がる、地割れの跡。

 やがて僕の視界は、とんでもないものを映し出してしまった。


「あ……え?」


 それは、どす黒い赤に染まっていた。

 それは、壊れた人形のように転がっていた。

 それは、この灰色の世界では不気味なほどに、存在感を放っていた。


「メ……ディン?」


 信じたくなかった。信じられるはずもなかった。

 だって、ついさっきまで。


「う、そだ……そんな……」


 強い不快感と、強烈な吐き気が、体の内を渦巻いていく。

 しかしそんな猶予さえも、僕には少しも与えられなかった。


「なんだぁ、もう一人いたんか?」


 完全に失念していた。あの大男の存在を。まだ、こんな近くにいたということを。


「おめぇが例の付き人か。おめぇには興味ねぇから、さっさと――んん?」


 僕に対して興味がなさそうにしていた大男が、突如表情を一変させる。

 その瞬間、僕は背筋が凍った。


「おめぇ、白の人間か!」


 それは眩しいほど、満面の笑みだった。

 でも僕は、その笑みの理由わけを知っていた。なぜ、あんなにも嬉しそうなのかも。

 なぜなら、その表情は、この世界に来てから何度も見てきた、


「だったら――死んでもらうしかねぇよなぁ!」


 狩人が獲物を見つけた時の表情だったからだ。

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