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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
24/50

23話 ルート:バッドエンド (1)

 ――この、黒の世界に来て、一週間が経った。


 なぜ、そんな事が分かるのかと問われれば、簡単な事だった。

 なぜなら、この世界の法則や常識は、僕がいた世界と、ほとんど(・・・・)なんら変わりないからだ。

 西暦、日付の概念、そして言語。

 違った点があるとすれば、やはり、魔法スキルと呼ばれる力の存在ぐらいだろうか。



「はぁ……」


 朝――。

 僕は居候として与えられた、とある一室のベッドの上で、一人ため息をついた。

 もう説明不要かもしれないが、僕はあれから、メディンの家で世話になっている。

 元の世界に帰るまでという、名目の元でここにいる。


「やっぱり点かない……か」


 僕は、物言わなくなったスマートフォンを手に取り、再び大きなため息をついた。

 どういうわけか、あの着信以来、スマートフォンは再び文鎮と化してしまった。

 ……どうしてあの時だけ、電源が点いたのか。そして、あの電話主は一体誰だったのか。全てが謎に包まれたままだ。


 当然、帰る手がかりも、未だ見つかっていない。

 矢内さんと、帰る方法を少しだけ模索はしてみたが、どれも効果は無く、進展もなかった。

 つまり、今の僕の状況は、完全に手詰まりと言えた。


「本当に帰る方法なんてあるのかなぁ……」


 そうやって僕が一人、ベッドの上でうなだれていた時だった。


「おい! いつまで寝ている!」


 扉の向こうから、怒声にも近い声が飛び込んでくる。

 言うまでもない。メディンの声だ。


「はいはい……今起きますよ……」


 僕はしかたなく体を起こし、リビングへと向かう。


「遅いぞ! 今日は朝早くにボスが来ると言っただろう!」


 開口一番、言葉だけで僕へと詰め寄るメディン。

 でも彼女は別に、怒っているわけじゃない。これが彼女の平常運転なのだ。

 さすがに一週間も一緒にいれば、だいたい分かってくる。


「来るのは9時でしょ……。まだ8時半じゃん……」


 そういえば今日は、あの幼女(ボス)が、訪ねて来るらしい

 僕は特に何も聞かされてないが、おそらく組織の依頼がらみの話だろう。

 どちらにせよ、僕には関係のない事だ。


「まぁいい。さっさと朝食を食べて支度をしろ!」


「へいへい……」


 僕は適当に席へとつき、大して食欲もない状態で、朝食へとありつく。

 ……なんだか、この世界に来てから、妙に規則正しくなってしまったような気がする。……まぁ悪い事ではないんだけどさ。

 そうして僕が、黙々と朝食を食べ始めて、少し経った頃。

 トントン、と、玄関の方から、軽いノック音が飛び込んできた。


「来たみたいだ」


 メディンは小走りで、玄関へと向かう。


「やぁやぁ、朝早く済まないね」


 あの(幼女の)声が聞こえてくる。

 やがてその声の主は、リビングへと現れ、


「やぁおはよう、白崎守君。調子はどうかね?」


 やぶからぼうに調子はどうだと言われても、返しに困る。


「ええまぁぼちぼち……」


 それにしてもなんというか……この光景は、何度見ても慣れない。

 一見、可愛らしい見た目の幼女。だが中身は、おぞましい悪魔――なんて、本人の前で言ったら、酷い目に合わされそうだからこれ以上は止めておく。


「食事中のところすまないが、話を始めさせてもらうぞ?」


 僕の対面に、ちょこんと腰掛ける幼女。

 遅れてメディンも席に着く。どうやら話が始まるようだ。


「さて、話というのは、今回舞い込んできた依頼の事だ」


 やはり依頼の話のようだ。

 だがこうして、わざわざ話をしにくるという事は、


「……危険なんですか?」


 僕が思っていた事を代弁するように、メディンが問いかける。

 すると、幼女は少しうつむきながら、


「いや、なんてことない、ただの運搬(・・・・・)の依頼なんだが――少々、きな臭くてな」


「どういう事ですか……?」


「肝心の届け先が、《ガウント》なんだ」


 そこは忘れもしない、あの双子に襲われた、立入禁止区域だった。


「それは……その、間違いとかではなく……?」


「あぁ。確かに、ガウントと記載されていたよ」


 なるほど、確かにおかしな話だ。


「……罠って事ですか?」


「可能性は高いな」


 会話半ば、朝食を食べ終えた僕は、


「だったら断ればいいのでは?」


 すると隣に座っていたメディンが呆れたように、


「……そんな簡単な問題じゃない」


 補足するように幼女が、


「その通り。これは組織の信頼関係に、影響する問題だ」


「それってどういうこと……?」


 意味が分からず、僕は質問する。


「そもそも、最下層に住まう我々に、選りすぐりできる権利はないのだ。我々が断れば、依頼は他の組織に回されるだけの話。そうして行き着く先は――白崎守君、分かるね?」


「……なるほど」


 ようするに、依頼を断れば、組織全体の信用が下がり、みなが路頭に迷うということか。


「……分かりました、受けましょう」


 考えた末、メディンは受ける事を決意する。

 だが僕には一つ、素朴な疑問があった。


「その依頼は、メディンが受けないとだめなの?」


 罠だと分かっているなら、メディンじゃなく、もっと強そうな人が行けばいいのでは。


「そこが最もきな臭い点。なぜか(・・・)依頼主はメディンを名指しで指名しているのだ」


「え……」


 僕は思わず、隣のメディンを見やる。

 すると当の本人は気づいていたのか、


「……というわけだ」


 ただ一言。


「さて、白崎守君。通常の依頼であれば、いつも通りメディンに、同行してもらうはずだったのだが……」


 幼女は、どこかバツが悪そうに、


「今回は無理に参加しなくてもいい。なにせ、何が起こるかは私にも予想がつかない」


 この時、僕は内心ホッとしていた。

 なぜなら、そんな物騒な話、誰だって首を突っ込みたくはないからだ。

 だが僕は何気なく、隣に座るメディンを見て、後悔する事となった。


「……!」


 なぜならそこには、どこか悲しげにうつむく、メディンの姿があったからだ。

 あれだけ普段は強気の彼女が、初めて見せる、弱々しい部分。

 そんな彼女の姿を見てしまった僕には、もはや『行かない』というルートは存在せず、半ば強制イベントのごとく、選択肢は決定されてしまった。


「その依頼……僕も行きます」


 僕は観念したように言う。

 だがこの時、僕は知る由もなかった。

 この選択肢が、破滅へと進む最悪なルートだという事を。

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