22話 特異体質者《イレギュラー》 (2)
「なっ――SS級だと!?」
最初に驚きの声をあげたのは、メディンだった。
幼女の方はというと、
「ほう……これはまた予想以上の……」
珍しく驚いたような表情で、感嘆の声を漏らしていた。
対して僕は、何がなんだかさっぱりだった。
「鑑定は以上です――」
肩に乗せられていた右手が下ろされる。
「あぁご苦労だった。さて、白崎守君。君にはいくつか、聞きたいことがある」
「はぁ……」
どちらかと言えば、僕のほうが聞きたい事があるんだけど、どうぞ。
「君は魔法を所有しているみたいだが、その事について、何か心当たりは?」
「いや……まったく」
あるわけがない。
「どう思うティズ?」
幼女の投げやりな問いに、ティズは眼鏡を軽く上げ、
「分からない点はいくつかありますが、やはりこれが特異体質者としての本質なのでは?」
相変わらず、淡々と答えた。
「でも彼は、向こうの人間だぞ?」
「ちょ、ちょっとまって!」
僕はたまらず、二人の会話に割って入る。
「その、向こうの人間ってどういう意味?」
「なんだ、知らないのか?」
幼女はきょとんとした表情で、僕を見ていた。
まるで常識だと言わんばかりに。
「君たちの住む世界――我々は白の世界と呼んでいる」
「しろの……せかい……?」
「君たちが暮らしている白の世界、そして我々が暮らしているこの黒の世界は、元々一つの世界だった――なんて事は、もはや常識とも言える伝記だろう?」
「なんだそれ……」
この世界と、僕がいた世界は、元々一つだった……?
「現に君は今、我々との会話が成立している」
「あ……」
言われてみればそうだった。どうして疑問に思わなかったんだ。
別世界の人間と、普通に会話ができる事に。
「……その様子だと、本当に知らなかったようだな。という事は、白の人間はみなこの事を知らないという事か」
「そうなりますね」
嘆く幼女に、ティズが相槌をうつ。
「……いや、今はそんな事より、僕にも聞きたいことがあるんだけど」
そうだ。今はそんな、世界の成り立ちだとか、そんなことはどうでもいいんだ。
僕が今、一番知りたい事、それは、
「……どうすれば僕は、元の世界に帰れるの?」
そんな僕の質問に、幼女はただ一言、
「分からん」
「分からんの!?」
一瞬にして、僕の希望は潰えた。
「別に、君にいじわるをしているわけではない。分からないのだ、本当に」
「そんな……」
幼女が嘘を言っているようには見えない。
という事は、本当に分からないんだ。元の世界……白の世界へ帰る方法を。
「逆に聞きたいのですが、白崎守さんは、どうやって、この黒の世界に来たのですか?」
質問を投げかけてきたのはティズだった。
「どうやってもなにも……気がついたら、この世界に迷い込んでいて……」
「じゃあまさに何も分からないと?」
「えーと……はい」
すると幼女は、机に片肘をつきながら、
「そういえば、白の人間が出没するようになったのも、ここ最近だな。もしかしたら、それと何か関係があるんじゃないか?」
出没……最近。
てことは、僕以外にも、同じ境遇の人がいるという事か。
「あっ!」
そこで僕は思い出す。
あの人の存在を。
「なんだ急に」
「矢内さんは!? 矢内さんは今どこに!?」
どうして今まで忘れていたんだ。
すぐ近くにいたじゃないか。僕と同じ境遇の人が。
「矢内――それは、君と同じ場所に倒れていた、あの男性の事か?」
「そう! その人!」
「彼は今、治療を終え、別の場所で療養中だ。彼に何か用でもあるのか?」
「別に用があるとか、そういう事じゃないけど。あの人もその――たぶん、白の世界から来た人だから」
僕とはまた違った視点で、帰る手がかりが見つかるかも――そう考えたのだ。
「なるほど。ただどちらにせよ、今日の所は休んだほうがいい。君も依頼をこなして、疲れただろう?」
「まぁ確かに疲れたけど――ってちょっと待った」
僕は、幼女のある言葉に引っかかる。
「なんだ」
「休むって……僕はどこで休めばいいのさ」
そんな当たり前の質問に、幼女は表情一つ変えずに、
「どこってそりゃあ、メディンの家に決まっているだろう」
「「えぇ!?」」
ほぼ同時。僕とメディンが一斉に叫んだ。
「ちょ、ちょっとまってくださいボス! この得体のしれない男と、一緒に暮らせと!?」
正論だけど言いすぎだ。
すると、蚊帳の外だったティズが、
「取り込み中のところ申し訳ないのですが、私はこの後用事があるゆえ、そろそろ失礼させていただきますね」
そう言うとティズは、もはや見慣れた、テレポート用の道具を取り出し、
「起動――」
突如、強い光が彼の全身を包み込んでいき、やがて気づけば、そこにはもう彼の姿はなかった。
颯爽と去っていった彼に、僕とメディンが呆然としていると、
「――というわけだ。頼むぞ、メディン?」
ニヤリ、と幼女。
「……はい」
観念したのか、メディンはどこか不服そうながらも、了承をする。
「えーと……よろしくお願いします……」
明らかに嫌そうな表情のメディンへ、僕は懇切丁寧にお願いする。
かくして僕は、元の世界へ帰るまでの間、居候としての身分を与えられたのだった。




