20話 立入禁止区域 - ガウント - (3)
「何が起こって……?」
なぜか直前で、停止していたツタ。
少女達の様子をみるに、意図的に止めたわけでもなさそうだ。
じゃあなぜ――疑問に思ったその時、
「早く倒しちゃいなさいよ、ルーリー!」
「わ、わかってるわよもう!」
止まっていたツタが、重い腰を上げるようにして、再び動き始めた。
再度それは、地面を滑りながら、僕へと襲い掛かかる。
「ちょ――」
今度こそ本当に終わった――はずだった。
「……っ!?」
だがそうして襲い掛かってきたツタは――またしても、当たる寸前の位置にて、停止していた。
まるで、見えない何かに阻まれるようにして。
「こ、こいつ……まさか防御魔法持ちなの!?」
「まってルーリー! でもあいつは、魔力を一欠片も持っていないのよ!?」
そう、その通りだ。
相手の言う通り、僕に魔力なんてものも無ければ、異能の力など使えるわけでもない。
――そう思っていた。
だが思い返してみれば、この世界に来てからだった。
ピンチの時に、都合よく状況が好転するという、おかしな事が起こるようになったのは。
はじめは偶然、もしくは奇跡だと思ってた。
でも今、確信した。
――この現象は、僕が引き起こしているのだと。
「まさか……」
疑念を確信へと変えるべく、僕は目の前のツタへと軽く触れてみた。
「わっ!?」
瞬間、ツタは光の粒子となって、どこかへと消えさってしまった。
やっぱりそうだ、間違いない。これは僕自身の力なんだ。
「あ、あれっ!?」
目の前でツタが突如消え、少女が驚きの声をあげる。
そんな少女を横目に、僕は一目散にメディンの元へと駆け寄る。
そして今もなお、メディンを押さえつけるツタに、僕はそっと両手で触れた。
「頼む……!」
僕の願いが通じたのか、その刹那――メディンをがっちりと固定していた巨大なツタは、一瞬にして消え去ってしまった。
そして次の瞬間――。
「動くな」
解放されたメディンは、まさに一瞬にして、少女達の背後へとまわった。
「今すぐ手を引け、さもなくば――」
「ひっ……」
メディンのスピードに反応できず、遅れて、自分たちの今の状況を理解した少女達。
やがて少女らは負けを悟ったのか、
「わ、分かったわ……分かったから、今すぐその物騒な物をどけてちょうだい……」
その言葉を聞き、静かにナイフを下げるメディン。
「ふ、ふんだ! こんなラッキーでいい気にならない事ね! 行きましょうルーリー!」
「う、うん!」
負け惜しみにも近いセリフを吐き捨てながらも、少女はポケットから、見覚えのある、ダイヤモンド型の小道具を取り出した。
そして次の瞬間、少女達の姿が、強い光へと包み込まれていった。
そのまばゆさに目を細めていたのも束の間、少女らは一瞬にして、目の前から姿を消してしまった。
「ふぅ……」
一気に体の力が抜けていく。
一時はどうなるかと思ったけど、僕らの依頼もクリアしたし、結果オーライかな。
……いや、結果オーライでもないか。一歩間違えれば死んでたし……。
「あー……とりあえず助かったよ」
ふいにメディンが、どこかバツが悪そうに言った。
そんなメディンに僕は、
「いや、こっちも、お礼を言わなきゃ」
「なぜだ?」
メディンは心の底からなぜ、と。
「ほら、僕がやられそうになった時、止めようとしてくれたでしょ?」
「……あぁ。一応預かり物であるお前に何かあったら、またボスに小言を言われるからな」
「あ、そういうこと……」
僕は少しがっかりする。
「そういやお前――いや、帰ってからでいいか」
「?」
何かを言いかけて、途中で言いやめるメディン。
気になるが、僕も特には追求しない。
「さて、目当ての物も手に入れた事だし帰るか。そろそろ30分経った頃だろう」
ポケットから、ダイヤモンドのようなものを取り出すメディン。
僕はそこでようやく、少女達がさっき使っていたこの小道具が、テレポート用の道具だという事を知る。
「準備はいいか?」
唐突に、メディンは僕の手をとった。
「えっ、ちょ――」
あれ、またこのパターンですか。
「"起動"――」
もはや、お決まりとなった光が、僕らを包み込んでいく。
視界が白く染まる前に、僕は目を閉じ、ひとときの瞬間移動へと身を委ねた。
いやぁ……。人間の慣れって恐ろしいものだね。




