19話 立入禁止区域 - ガウント - (2)
この場の空気を壊すようにして、突然鳴り響いた、軽快な電子音。
それは誰でも一度は耳にしたことがある、ありふれた着信音だった。
「な、なんなの、この音は!?」
「見てルーリー! あいつから鳴っているわ!」
突如鳴り響く電子音に、少女達は慌てふためいていた。
「う、ぐ、ぐ……」
そんな少女らを無視して、僕は電話に出ようと、自身のポケットへ手を伸ばそうとする。
すると目の前の少女が、
「ちょっと! まさかあんた能力者だったの!?」
「……えっ」
突拍子もない事を言いだした。
どうやらこの少女は、この音が、僕の能力的なものだと勘違いしているようだった。
だったら――と、僕は賭けに出る。
「……そ、そうだ。だから一回離してくれないか?」
当然、僕にそんな異能の力はない。
だがそんなハリボテの嘘でも、少女達には効果てきめんだったようで、
「ど、どうしようフィリア……?」
「そ、そうね……。じゃあ一回離してあげましょう……」
やはり歳相応というべきか、能力者であろうと、中身は少女なんだなと実感する。
「えいっ!」
少女は片手を縦に、大きく振った。
すると、僕に巻きついていたツタが、一瞬にして光となり、消え去ってしまった。
「おわっ!?」
空中に投げ出された僕は、そのまま地面へと着地する。
そして、すかさず携帯を取り出そうとするが、
「ちょっと待ちなさい! 何をしようとしてるの!?」
「な、なにって、別に何もしないから!」
僕はポケットに手を突っ込んだ状態で叫ぶ。
「う、うそよ! 絶対うそだわ! そんなの信じられるわけないじゃない!」
「そ、そうよ! その隙に、魔法を使う気だわ!」
だめだ。全くらちがあかない。
僕は半ばやけくそ気味になりながら、
「あーもう! 本当に何もしないったら!」
「うそようそよ!」
「絶対にうそだわ!」
まさに水掛け論。
そうやって僕らが言い合っていた内に、とうとう電話が――切れてしまった。
だがそこで、僕が落胆したのも束の間、
『あーもしもし。聞こえる――よな?』
突然、携帯のスピーカーから、ノイズ混じりの声が聞こえてきた。
「な、なにこの声は!?」
「見て! あいつのポケットからよルーリー!」
少女達にも聞こえるほどの音量で、その正体不明の声は、ひとりでに喋り始めた。
『えーと――とりあえず今大変な状況ってのは分かって――そのまま聞いてくれ』
僕はポケットに手を突っ込んだまま、静聴する。
『今、その――をアップデートしておいた。使い方は――を――すれば大体は分かると思う」
電波状況が悪いのか、ところどころうまく聞き取れない。
それでもその声は、一方的に続ける。
『お前はそこで――絶対に死な――。だからひとまず安心し――。他にも言いた――あるけど――時間が――――』
唐突に、声が途切れる。
しばらく待ってみるも、その声が再び聞こえてくる事はなかった。
「な、なによ今の声は……?」
「さ、さぁ……?」
呆然とする二人の少女を横目に、僕はすかさず携帯を取り出す。
「あっ! ちょっと何勝手に動いてるのよ!」
少女を無視し、僕はスマホの電源を入れる。
頼む、なんでもいい。ここから逆転できる何かを。
そんな願いが届いたのか、なんと電源があっさり入った。
すると、真っ白な背景のディスプレイに、
――体の内のエネルギーを解放しろ。
たったそれだけ。意味不明な一文が表示されただけだった。
「は……?」
ディスプレイをタッチしても、その状態のまま、いっこうに変化しない。
「ねぇフィリア……。もしかしてあいつ、魔法なんて使えないんじゃ……?」
「そうねルーリー……。何よりあいつからは魔力の反応がしないわ……」
不穏な空気が漂い始め、少女達は勘付き始める
「い、いや! 使えるから! えーと……魔法!」
僕はスマホを上に掲げ、精一杯の虚勢を張った。
だがもう、時は既に遅し、
「騙していたのね……許せない」
少女が怒りをあらわにした――その時だった。
突如、少女の足元から、さっきまでとは比べ物にならない大きさのツタが、姿をあらわした。
「死んじゃえ!」
「っ!?」
そしてそれは、大きく振りかぶり、勢い良く僕の体を薙ぎ払った――はずだった。
「ちょっと! なにしてるのルーリー!?」
「ち、ちがうのよ! 私は止めるつもりなんて……!」
何やら少女達の様子がおかしい。
だが、それもそのはず。襲いかかってきたツタは、どういうわけか――。
「止まって……る?」
まさに当たる直前で、停止していたのだから。