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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
17/50

17話 幼女《ボス》

「ここは……?」


 気がつけば僕は、どこか見覚えのあるスラム街に立っていた。

 どういう事だ? さっきまで僕は、西部劇風の町にいたはずだ。

 一瞬で視界が切り替わったとでも言うべきか。

 でも、これは誇張じゃない。本当の事だ。

 まばゆい光に一瞬目を閉じ、次に開けた時にはもう切り替わっていたのだ。


「着いたぞ。この建物だ」


「え、ちょ」


 特に説明もなく、目の前の建物へと、一人入っていく彼女。

 そして、一人取り残される僕。

 いや、なんというかさ。もうちょっと、説明とかしてくれても、いいんじゃないですかね。


「はぁ……」


 もはや発言権すらもなくなった僕は、仕方なしに、その後を付いて行くのだった。



――――――



 建物内は思った通り、まさに廃墟そのものだった。

 明かりもなければ、置物一つもない。内装は全てコンクリート製。

 だだっ広い殺風景な部屋が、目の前に広がっていた。

 本当にこんな場所に人がいるのだろうかと、そう思ってしまうような空間。


「ボス、例の白の人間(・・・・)を連れてきました」


 奥の方から、彼女の声が聞こえてくる。

 室内が暗いせいでよく見えないが、誰かと話をしているようだった。


「メディンか。ご苦労だったな」


 返ってきたのは、少女の声だった。

 僕はその声をたよりに、部屋の奥へと、足を進めていく。

 すると、ほどなくして、彼女と小さな人影を発見する。


「あぁそこの君が――」


 やがて、その小さな人影は、僕の前へと姿を現した。


「えーと、白崎守君だったかな?」


「えっ――」


 僕は思わず目を見張った。

 なぜなら、その小さな人影の正体が――。


「どうだ、傷の方はもう癒えたか?」


 ――年端もいかない幼女(・・)だったからだ。


「えーと……」


 確かにここは異世界、何が起こっても不思議じゃないだろう。

 現に魔法(スキル)なんてものが存在する。

 

 だけど、だ。

 流石に、この子がボスって事はないだろう。

 どこの世界に、幼女がボスを務める組織があるというのか。

 つまりこの子は無関係――そう確信した僕は、


「えーと、もしかして迷子かな?」


 そんな僕の問いかけに、幼女が満面の笑みを浮かべた――次の瞬間。


「うぐぁ!?」


 なぜか僕は床に叩きつけられていた。


「はぁ……やっぱりな」


 一部始終を見ていた彼女はとくに驚きもせず、むしろ呆れるようにため息をついた。


「青年、口の利き方には気をつけるものだぞ?」


 目の前の幼女が、これでもかと言わんばかりに、僕を見下しながら言う。

 その様子はどこか楽しげだった。


「えーと……もしかしてあなた様が、ボスとやらですか……?」


 僕はうつ伏せのまま、おそるおそる問いかける。


「見れば分かるだろう」


 いや、見ても分からないから聞いてるんですが、という心の声は抑える。


「……まぁいい。次はないからな?」


「はぁ……」


 僕が砂ホコリをはたきながら立ち上がると、幼女は腕を組み、


「さて、早速だが単刀直入に言おう――」


「お断りします」


 嫌な予感しかしなかったので、先に断ってみた。

 すると、幼女は首をかしげながら、


「気でも触れたか? まだ何も言っていないぞ?」


 それはまるで、ゴミでも見るような目だった。

 そして、幼女はわざとらしく咳払いをし、


「まぁようするにだ」


 何がようするになんだ。


「君にはぜひ、我々の組織に入ってもらいたいのだ。どうかな?」


「いや、人の話を――」


「ああ、君に拒否権はないので、そこのところよろしくたのむ」


「……え?」


 ぽかんとする僕に、幼女は指をさし、


「もう一度言うぞ? 君に、拒否権は、ない」


「…………え?」


「む、聞こえなかったか? ではもう一度言うぞ。君に――」


「分かった! もう分かったから!」


 僕はたまらず折れる。


「でも、どうして僕がその組織に入らなきゃならないのさ」


 さぞかしそれなりの理由が――。


「とくに理由は無い」


「んえ!?」


 流石にそれは予想斜め上すぎた。


「だったら、僕が組織に入らなきゃいけない理由だってないよね!?」


 そんな僕のもっともな抗議に、幼女は腕を組み直し、さらなるドヤ顔で、


「何度も言うように、君に拒否権はない」


「…………」


「聞こえなかったか? 君に――」


「ああもう! 分かったから! 入るから! 組織入るから!」


 とうとう僕が観念すると、幼女は表情を一変させ、


「なに? 是非とも組織に入らせてくださいとな? いやぁそこまで頼まれては、こちらとしても断れないな」


 それはようやく垣間見えた、子供らしい一面であり、汚れのない純真無垢な笑顔だった。


「……はぁ」


 そんな幼女の表情を見ている内に、なんかもう色々とどうでもよくなってしまった。

 ……もう好きにしてくれ。どうせこの後行く宛もないし。


「というわけで、今回の依頼はこの白崎守君とこなしてもらう。いいな、メディン?」


 すっかり機嫌の良くなった幼女は、肩に下げていたカバンから、小さなダイヤモンドのようなものを取り出すと、それを隣の彼女へと手渡した。


「了解です。ですが大丈夫でしょうか……?」


 彼女は一瞬僕の方を見て、心配そうに言った。

 ……いや、大丈夫じゃないと思うんですが。


「なに、今回の依頼はただの調達だ。危険が及ぶことはないだろう」


 ……だったらなおさら、僕が付いて行く理由が無いと思うんですが。


「はぁ……そうですか」


 彼女はどこか納得がいかない様子だった。

 当然だ。当事者の僕が、納得いってないのだから。


「そしてこれが今回飛んでもらう場所だ」


 今度は丸まった紙を手渡す幼女。

 小さく広げられたそれは、地図のようなものだった。

 というか、僕が行く事はもう決定事項なのね……。


「……ガウントか」


 地図を見て、彼女はどこか鬱々としたように呟く。

 この時点で、既に嫌な予感が漂っていた。


「では早速だが、頼んだぞ」


「了解です。ほら、行くぞ」


 そう言うと彼女は、僕の手を取り、


「"起動"――」


「ちょっとま――」


 僕が言い終える前に、まばゆい光が視界を覆い尽くしていく。

 そして次の瞬間、僕らはひときわ強い光に包まれ、二回目となる瞬間移動テレポートに身を委ねた。

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