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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
15/50

15話 民家 (1)

 ――さて、どうしてこんなことになったんだろうね。


 今、僕の目の前には、朝食がずらっと並んでいた。

 その中には、自分の知る食材や料理が多く存在し、中には目玉焼きや、焼き魚といったものまでがあった。

 あまり朝は食べる方ではない。なぜかと問われれば、何度も言うように、昼夜逆転の生活を送っていたからだ。

 だがこれは、誰が見ても、理想の朝食と言っても過言ではないだろう。


 窓から外を見渡せば、今日も今日とて穏やかな気候。

 最高の朝食に、最高の雰囲気。

 まさにモーニングを楽しむうえでは、これ以上にないほどの環境だ。

 でもどうして僕は――。


「どうした、さっきからぼーっとして。さっさと食べたらどうだ」


 黒装束《この人》と一緒に、朝食を食べているんだろうね。


――――――




「ここは……?」


 目を覚ますと僕は、見知らぬ民家のベッドで横になっていた。

 ここがどこなのか、何がどうなって今に至るのか、全く思い出せない。


「うーん……」


 そうやって僕が、頭を悩ませていた時だった。


「あっ」


 とてもか細い声だった。

 思わず声の方へと視線をやると、


「えと……大丈夫ですか?」


 白いワンピースを着た、物静かそうな少女が立っていた。

 この家の主だろうか? 少女は心配そうに、こちらをジッと見つめていた。


「あー……その……」


 何か言わなきゃ、そう思ったのだが、言葉がうまく出てこない。

 声が出ないわけじゃない。思考が追いついていないのだ。


「――ここは?」


「ここは私のお家。あ、そうだお姉ちゃん呼んでこなきゃ!」


 そう言うと少女は、小走りでどこかへと走り去っていってしまった。

 そんなせわしない後ろ姿を見送りつつ、僕は状況を整理し始める。


「あれからどうなったんだ……?」


 記憶は酷く曖昧でいて、かつ断片的だった。それでも、途中まではなんとか覚えていた。

 僕は確か牢屋に捕まって、そこで出会った矢内さんと脱出して……。


「それから……?」


 そもそも、脱出できたかどうかさえも覚えていない。

 でもこれだけは覚えている。

 ここが異世界である事。そしてこの異世界で、散々な目にあってきたこと。


「……そうだ、帰らなきゃ」


 思い出した。元の世界に帰ろうとしていた事を。


「こうしちゃいられない……!」


 そうして僕が、ベッドから起き上がろうとした時だった。


「あっ、こっちこっち! あの人目覚したよ!」


 さっきの少女が戻ってきたようだ。

 ちょうどいい。まずは何がどうなってこうなったのか、事情を聞く必要がある。

 あわよくば、帰る手がかりが見つかるかもしれない。

 ようやく見え始めてきた希望に、僕は心なしか高揚していた。

 ――だがそんな希望は、すぐに打ち砕かれる事となった。


「え……」


 予想を遥かに超えた展開に思わず驚愕する。

 なぜなら、少女に手を引かれて現れたのは――。


「やっと目を覚ましたようだな」


 何度も僕を絶望の淵におとしいれた、あの黒装束の女だったのだから。


「……なんだその間抜け面は」


 突然目の前に現れたそれは、平然と言う。

 対して僕はというと、


「…………」


 相手の言うように、間抜け面のまま、フリーズしていた。

 どうでもいいけど、こいつ家の中でも黒装束着てるのかよ。

 あれか、あなたは生粋の忍者か何かですか?


「あれ、あの人固まっちゃったよ?」


 固まる僕を見て、少女が指差し言う。

 すると黒装束は、少女の肩に優しく手をかけ、


「今からこの人と少しお話をするから、アイリスは先に寝ていなさい」


「はぁい」


 可愛らしい返事と共に、少女は走り去っていく。

 黒装束はそんな少女の後ろ姿を見送ると、未だ固まっていた僕を見て、ため息をついた。


「はぁ……。少し落ち着け。危害を加えるつもりはない」


 そう言うと黒装束は、ベッドへと腰掛けた。


「だからそうビクビクするな。今までの非礼も謝る」


 あの黒装束が、なぜか僕に向かって頭を下げていた。


「いや、そんな……」


 そんなことより(・・・・・・・)も、今僕が知りたいのは、ここに至るまでの過程だ。


「……説明してくれないかな、全部」


「分かる範囲内でなら」


 そして僕は聞かされる。

 あの廃墟で――あの後、何が起こったかを――。



―――――

――――

―――

――



 ……えーと、少し整理させてくれないだろうか。

 にわかには信じ難いが、黒装束が言うには、こういう事らしい。


 こいつらのボス(・・)とやらがあの場に戻ってきた時、それはもう酷い有様だったらしい。

 半壊した建物に、そこらに倒れる複数の人間。当然、その中には僕らもいた。

 しかし、そんな凄惨な状況だったにも関わらず、矢内さん含め、全員命に別状はなかったらしい。

 なんでも、治癒能力者(・・・・・)とやらが、丁度その場に居合わせていた事が幸いしたらしい。

 ……あれほどの傷を治癒できる能力者とか、もはやなんでもありの世界だな、という突っ込みはひとまず置いておく。


「それで比較的軽症だった僕は、一時的に、この家で預かってもらっていたと」


「そうだ。忌々しいことにな」


 黒装束は、あからさまに面倒くさそうに言う。


「……じゃあ目を覚ました今、僕はどうすればいい?」


「それがな……。面倒な事に、ボスがお前に興味を持ったみたいでな……」


「へ?」


「もしかしたら、お前はその……組織に勧誘されるかもしれないな」


 ボス? 組織? 勧誘?


「いやいや、ちょっとまって――」


 あまりの急展開に、思考が追いつかない。

 というか嫌な予感しかしない。


「まぁ言いたいことは分かるが、とりあえず、ボスには会ってもらうぞ。それぐらいの義理は果たしてもらう」


「……まぁ会うぐらいなら」


 ただ一つ気がかりというか、懸念する点があった。


「でも組織って、具体的にどんな組織なのさ。まさかあんな……」


 まさか僕にも、あんな(・・・)非人道的行為をさせようってわけじゃないだろうな。

 だとしたら、懇切丁寧にお断りさせてもらう。


「勘違いするな。私達は盗賊団とは違う。ただ依頼をまわしてもらい、それをこなす何でも屋(・・・・)にすぎない」


「何でも屋、ねぇ……」


 その答えを聞いて少しは安心したけど、


「でも、どうしてそんな……依頼をこなす必要があるのさ」

 

 そんな僕の何気ない質問に、黒装束はややうつむきがちに、


「……生活のためだ」


 ポツリと一言呟いたかと思えば、黒装束はそれから一切何も言わなくなってしまった。


「……?」


 ……何かまずい事でも聞いたのだろか。


「……今日はもう遅い。続きは明日だ。そのベッドはそのまま使っていいぞ」


 その答えは分からぬまま、話は終着を迎える。


「はぁ……」


 ぽつんと暗がりの部屋に、一人残される自分。

 そこに残されたのは、漠然とした不安だけ。

 

「……これからどうなるんだろうな」


 考えても仕方がないので、僕は不安を抱えたまま、深い眠りへと落ちていった。

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