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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
13/50

13話 牢獄 (4)

 出口目前。

 黒装束は僕を見るやいなや、あからさまに面倒くさそうな表情で、


「余計な真似はするなよ。貴様はそこでおとなしくしていればいい」


 そう告げられた僕は、当然おとなしくして――。


「――るわけないだろう!」


 僕は黒装束の言葉を無視し、全力疾走で駆け出した。


「なっ!?」


 黒装束はというと、まるで意表を突かれたようにして驚き戸惑っていた。


「間に、合え……!」


 あと一歩、出口まで手が届きそうな位置。

 だがそんなあと一歩の所で、


「余計な真似はするなと言ったはずだが?」


 まさに一瞬。気づけば眼前にまで黒装束が迫っていた。


「ぐぅ!?」


 横っ腹に、軽やかな回し蹴りをお見舞いされる。

 強烈な一撃に思わず倒れてしまいそうになる――が、


「まだ、だ……!」


 なんとか踏ん張り、僕は再び出口に向かって走りだした。


「無駄だと、言ってるだろう」


「うぐっ!」


 今度は重い蹴りが、体のど真ん中へとめり込んでいく。

 さすがに耐え切れず、僕はされるがまま、地面を滑るように転がっていく。


「ゲホッゲホッ……! く、そ……!」


 それでも腹を抑え、ふらつきながらも、なんとか立ち上がる。


「何度やろうとも無駄だ。私が持つ魔法(スキル)は加速。魔法(スキル)を持たない貴様には決して追いつけない」


「そん、な……」


「……おっと、迎えが来たようだな」


 外から車のエンジン音のようなものが聞こえてくる。

 やがてその音は鳴り止み、


「やぁやぁ~おつかれさん」


 建物内に入ってきたのは、どこか南国風の、サングラスを掛けた小太りの男だった。

 明らかに場違いなその男は、黒装束を見つけるやいなや、


「あれ~? 君一人? まぁいいやブツはどこだい?」


 黒装束は僕の方を指差し、


「あそこにいるのがそうです」


「ふ~ん……」


 男はしばらくの間、品定めをするようにこちらをいちべつすると、


「へぇ~今回は随分若くて可愛い子じゃん。それじゃあ、ちょっとおとなしくしててもらおうかな」


 男がそう言った瞬間、その現象(・・)は突然に起こった。


「あがぁっ!?」


 突如、体中に走る電流のような衝撃。

 目の前の視界が急激に傾いていく。やがて僕は、そのまま地面へと横転する。


「な、に、が……」


 わけも分からず目をパチクリとさせる僕に、小太りの男は自分の右手を見せつけ、


「ごめんね~。ちょっとばかし電気でビリっとお仕置きしちゃった」


 思わず目を見張った。

 なぜなら男の右手を見るとそこには、可視化できるほどの、電流が流れていたからだ。


「あれ~? そういえば今回は二人って聞いたけど?」


 男は何事も無かったかのように、黒装束との話を再開させる。


「あぁ、それならそろそろ――」


「すいませーん。遅くなりました」


 背後から突然飛び込んできた声。

 それは聞き覚えのあるものだった。


「いやぁ、この男と、そこのガキが歯向かってきましてね」


 最悪な事にその声の主は、ついさっき対峙した、あの看守の男だった。

 

「そこのガキは逃がしちゃったんですけど、まぁこいつは捕獲しましたんで」


 言いながら何か(・・)を放り投げる看守の男。

 目の前に投げ込まれたそれを見て、僕は思わず息を呑んだ。


「なっ……」


 なぜならそれは――傷だらけの矢内さんだったからだ。


「白崎……君。すま、ない……。私のせいで、こん、な……」


 矢内さんは両手に手錠をされ、明らかに疲弊していた。

 服のあちこちには、見て取れるほどに傷がついていた。

 最悪の状況だ。まさか二人して捕まってしまうなんて。


「んん~? そこの男も逃げようとしたの?」


 唐突に、小太りの男が看守の男へと問いかける。


「ええ、そうです」


「う~ん」


 すると、小太りの男は少し悩むそぶりを見せた後、やがてとんでもない事を言い放った。


「じゃあ、そいつは罰として殺していいよ~」


 一瞬、この男が何を言っているのか理解できなかった。


「じゃあ今ここで殺しても?」


「いいよいいよ~」


 看守の両手が強い光に包まれていく。

 その両手は確実に、倒れる矢内さんへと照準が合わされていた。


「やめっ――」


 僕は思わず声をあげる。

 だがそんな静止もむなしく――それは執行された。


「ぐぁあああああ!!」


 ぐしゃっという何かがひしゃげるような音と、室内に響き渡る矢内さんの悲鳴。

 やがて悲鳴は消え、静寂が訪れる。


「……矢内さん」


 返事はなかった。

 横たわる矢内さんの体からは、とめどなく血があふれだしていた。


「……矢内さんってば……」


 どれだけ呼びかけようと、返事は返ってこない。


「うう……」


 気持ち悪い。吐きそうだ。胸が痛い。息が苦しい。頭が割れそうだ。

 ありとあらゆる不快な感情が、体の内を渦巻いていく。


「……許さない」


 もうどうでもいい。


「ん? 何か言ったかい?」


「……絶対に許さない」


 世界がどうなろうと。


「はっはっは。許さないのだとしたらどうするのかね?」


「……殺して……やる」


 壊してやる。


「はっはっは、できるものな――えっ!?」


 大笑いしていた小太りの男が、突如表情を一変させる。

 それは困惑、そして驚愕に塗りつぶされた表情だった。


「あ、あれだけの電流を喰らって、どうして――お前は立ち上がれる(・・・・・・)んだ!?」


 そして、それはまるで化け物でも見るかのような目だった。

 でもそんな事は僕にはどうだっていい。

 壊してやる。目の前にあるもの、全てを。

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