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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
12/50

12話 牢獄 (3)

 相手の能力は未知数。とはいえ、相手は一人だ。

 だったら――と、僕は矢内さんへ一つの提案をする。


「……思い切って、強行突破でもしますか」


 そんな僕の即興の提案に矢内さんは、


「いいだろう。では、1、2、3で両端から駆け抜けようじゃないか」


 すぐに矢内さんの合図が始まった。


「では行くぞ。1、2――」


 緊張感が張り詰める中――。


「3!」


 3の合図と共に、僕らは同時に走り出した。


「はぁ……どいつもこいつも、突っ込んでくるだけ。芸がないな」


 看守は全く動じる様子もなく、ゆっくりと光輝く両手を突き出し――。


「はッ!」


 看守が短く叫んだ、次の瞬間。


「……っ!?」


 突如、目の前の空間がぐにゃりと歪んでいく。

 まるで突風に吹かれ、うまく前に進めないような感覚が全身を襲う。

 やがて――。


「ぐあっ!」


「ぐっ!」


 パァン! と何かがはじけるような音と共に、見えない衝撃波が僕らへと襲いかかった。

 結果、僕らは弾き返され、振り出しへと戻されてしまう形となった。


「力は微弱に抑えたつもりなんだがな?」


 看守の表情は、どこまでも余裕を感じさせるものだった。


「これが最後のチャンスだ。今すぐ戻れ、いいな?」


 看守が告げる中、矢内さんが小声で、


「……もう一度今の手で行こう。ただし、今度は二人同時ではない。君は私の3秒後に突っ込むんだ。3秒後だ、いいね?」


 僕はその作戦の意図が理解できなかったが、


「……了解です」


 何も聞かず了承する。


「……では行くぞ。1、2……3!」


 自らの合図で、先に一人、走り出した矢内さん。


「今度は一人か?」


 再び、看守の両手が光に包まれていく。そして先程と同じように、その両手を前に突き出す。

 そんな一部始終を前に、3秒経った事を確認した僕は、遅れてスタートする。


「ぐぁっ!」


 前を走っていた矢内さんが、衝撃波に弾かれ、地面を転げ回る。

 僕はそれを追い越す形で走り続ける。決して足を止めず、そして看守から目をそらさずに。

 そうして、気がつくと僕は――。


「えっ……?」


 なぜか(・・・)看守を追い越すことに成功していた。

 ただ何もせず、すれ違うようにして。


「そのまま行け! 白崎君!」


「で、でも矢内さんは!?」


「なに、後で追いつくさ! だから早く!」


 そう叫ぶ矢内さんの表情は、満面の笑みだった。

 でも分かっていた。それが僕に心配させまいという、配慮だってことも。

 ……だからこそ、このチャンスを無駄にするわけにはいかなかった。


「……後できっと!」


 僕は再び、全力で走り出した。

 後できっと、矢内さんも追いつくと信じて。




―――――

――――

―――

――




「……チッ。一人逃したか」


 階段を駆け上っていく一人の青年を見て、看守の男は苛立ちを見せる。


「案外余裕そうじゃないか。我々のような人間が一人いなくなっても問題ないと?」


 矢内は余裕そうに振る舞うも、その表情には明らかに疲労が見えていた。


「いやいやまさか。お前らみたいな人間でも、重要な取引資材だ。それよりも――」


 看守の男は相変わらず軽い口調で、


「やるじゃないか。たった一回で俺の魔法のギミックを見抜くなんて」


 まるで賞賛を送るようにして手を叩いた。


「……その両手の光。攻撃を放った直後は消えていたのでな」


「ほう。よく見ていやがる」


 なるほどと言わんばかりに、自分の両手をまじまじと観察する看守の男。


「でもいいのか? あのガキを一人で行かせて」


「……どういうことだね」


 看守の意味深な言葉に、矢内が焦りを見せる。


「まぁいいさ。それより、お前も人の心配をしている場合か?」


 看守の男の両手が再び、強い光に包み込まれていく。

 そしてその両手は間違いなく、矢内へと照準が合わせられていた。


―――――

――――

―――

――



 階段をあがってから、どれくらい走っただろうか。

 そろそろ体力も限界に近づきだした、その時だった。


「あっ!」


 とうとう見つけた。

 この暗い建物の中に差し込む一筋の光。

 それはまさしく出口だった。


「やった――!」


 目の前に見える希望に、僕は間違いなく高揚していた。

 だがそれは、同時に油断でもあった。


「――貴様、こんな所で何をしている」


 出口目前。

 そこに現れたのは、僕をこの牢獄へと送り込んだ、あの黒装束の女だった。

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