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魔力ゼロの迷い人  作者: お茶
ルートⅠ
11/50

11話 牢獄 (2)

 暗い地に閉ざされた牢獄。

 そんな絶望的とも言える状況下で今、壁を隔てた作戦会議が行われていた。


「――では、それでいいかね?」


 わずか数分ほどで、あらかた作戦を聞き終える。


「分かりました……。でも本当にこれ成功するんですかね……」


「まぁ五分五分といったところかな」


「五分五分……」


 聞かなきゃよかったと若干後悔する。


「じゃあその時になったら頼むよ。えーと――」


「白崎です」


 ここで僕は、初めて相手に名を名乗る。


「白崎君か! 私は矢内(やない)。私たちは今から運命共同体だ。絶対にここから脱出しよう」


 こうして僕ら運命共同体は、来るべき時まで、各自備える事にした。



―――――

――――

―――

――

 

 あれから半日ほど経っただろうか。

 何もすることがない僕は、牢屋の隅でひたすらにじっと横になっていた。 


 眠気でうとうとしかけた頃。

 カツッカツッと、遠くの方から足音のようなものが聞こえてきた。


「……!」


 地面に耳を当て、神経を研ぎ澄ませる。

 間違いない、完全に足音だ。足音から察するに一人か。

 その足音はやがて隣、つまり矢内さんのいる牢屋の前で止まった。


「おい、出ろ!」


 怒鳴りにも近い男の声と共に、不快な金属音を鳴り響かせながら、鉄格子がひらかれる。


「もう少し丁寧に扱ってくれんかね」


「うるさい黙れ! いいからさっさと歩け!」


 よし、やるなら今だ。

 僕は指示通り、鉄格子の前へと移動し――。


「あああああああああああ!!」


 おもいっきり大声で叫んでやった。

 ……今思えば、別に大声じゃなくても良かった気がするが。


「な、なんだ貴様――」


 そうして看守がこちらへと振り向いた瞬間、


「ぐぁ! な、なんだお前……!」


 とっさに矢内さんが看守の背後を取り、一気に首を絞めていく。

 最初は必死に抵抗していた看守だったが、次第にその声は小さくなっていき、


「や……や、め……」


 やがて気を失ったのか、看守はぐったりと、地面に倒れ伏してしまった。


「……よし、うまくいったぞ!」


 結局のところ、魔法スキルなんて物騒なものが使えようと、使わせなければ、ただの人間同然。

 そんな、矢内さんの発想から生まれた作戦だったが、まさかこんなにもうまくいくとは思わなかった。


「なに、体の仕組みと、少しばかりの経験があれば容易いものさ」


 そんなわけあるか、と心の中で吐露する。


「さて、準備はいいかね? 白崎君」


 目の前の鉄格子がひらかれる。

 僕は一瞬伸びをしてから、ゆっくりと外へ出る。


「……行きますか」


 なんにせよ、これで第一段階はクリアだ。

 


―――――

――――

―――

――



 牢屋を抜け出す事に成功した僕らは、建物の出口を求め、長い地下通路を走り続けていた。

 幸いにして通路はほぼ一本道。ご丁寧にも、壁にはたいまつまで設置されている。


「君が白崎君か! 思っていたよりも若いな! 高校生ぐらいか!?」


「今そんな事言ってる場合じゃないでしょ!! それと高校生じゃなくて大学生だから!!」


 作戦はすこぶる順調だった。こうして雑談をする余裕があるくらいには。

 だからこそ、僕の中では拭い切れない不信感が漂っていた。

 だって……ありえるだろうか?

 ここに来るまで誰一人とも遭遇しない。ましてやセキュリティトラップ的なものもない。


「よし、記憶通りだ! そこの角を曲がれば地上へと続く階段があるはずだ!」


 階段が見える。

 結局僕の心配は、杞憂で終わったのか。

 そう思いかけた、その時だった。


「止まって!」


 突然、矢内さんが足を止める。


「え!?」


 つられて僕も足を止める。

 一瞬なぜと思ったが、その理由はすぐに明らかとなった。


「そこまでだ」


 前を見るとそこには、さっきとは別の、看守の男が立っていた。

 その男は腰回りに鍵のようなものを複数身につけ、後は普段着のような軽装だった。


 ここでようやく、今までのザル警備の意味を理解する。

 厳重にする必要がなかったんだ。結局ここで潰してしまえば一緒なのだから。


「お前らみたいに、逃げ出そうとする奴らが後を絶たなくてな。こちらも、その度にこうして説得に応じてるんだが」


 看守の男は肩に手を回し、だるそうにしながら語り始める。


「まぁ聞き分けが悪いもんでな。そこで俺はしょうがなーく、力の差を思い知らせてやるんだ」


 どこか嬉々とした様子で、自慢するかのように。

 

「するとどうだ。意気揚々と向かってきた奴らは途端に、許してください、ごめんなさいと命乞いの連呼だ。笑える話だろう?」


 男は邪悪な笑みを浮かべる。

 心底楽しいと言わんばかりに。


「さて、と。少しお喋りが過ぎたか。さて、もう一度言う。今すぐ牢へと戻れ、いいな?(・・・)


 最後であろう、忠告を告げられる。

 おそらくこれが、最後の分岐点だろう。

 ここから先に進めば、どうなるかも分かっていた。

 だが、それでも僕は――。


「……断る」


 一言で一蹴する。


「……そうか。分かった」


 男の両手が突如、白い光(・・・)に包まれていく。

 その輝きは次第に勢いを増していく。


「……矢内さん。何か手はありますか?」


「すまない……。完全なる手詰まり状態だ」


「……ですよね」


 まぁ分かってはいたさ。

 この世界がそんなに甘いものじゃないって事ぐらいは。

 だったら切り開いてやるさ。ここから先は、自分自身の力で。

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