10話 牢獄 (1)
体中が痛い。地面が冷たい。心なしか肌にまとわりつく空気も冷たい。
「……ここは」
起き上がるとそこは、狭い個室、窓一つもない密閉空間だった。
地面から天井まで続くコンクリート。広さにして5畳ぐらいか。
「はぁ……」
深いため息が漏れる。
なぜなら僕が今いる場所、それはどこからどう見ても牢屋だったからだ。
鉄格子にはご丁寧にも鍵がかけられている。……そりゃそうか。
試しに鉄格子の隙間から、外の様子を覗き込んでみる。
「……誰もいない、のか?」
外には同じように牢屋が並んでいたが、中に人はいなかった。
それどころか、見張りの人間すらもいない。
そもそもなぜ、僕は捕まっているのかさえも分からない。
「はぁ……」
どうしようもない状況に僕はうなだれ、ため息をついた。
と、その時だった。
「誰かいるのか!?」
それは小さくも、確かに男性の声だった。
「誰か居るのなら返事をしてくれ!」
隣の部屋だろうか。
壁を小さくノックする音が聞こえてくる。
「は、はい!」
僕はあわてて返事をする。
すると間髪入れずに、
「君はこの世界の人間かね!?」
「いえ、違いますけど……」
「よし! 聞きたいことは沢山あるが、まずは一緒に、ここから脱出しないか!?」
「えっ?」
こんな状況から脱出? そんなこと、本当に可能なのか?
「策はあるんですか?」
僕は隣の住人へと問う。
だが返ってきた答えは、
「ない!」
「え?」
呆然とする僕。静寂に包まれる空気。
やがてその空気を裂くようにして、
「というのは冗談だ! ガッハッハ!」
「…………」
男性の豪快な笑いが、小さくこだまする。
「そこでだ。作戦を思いついたのだが聞いてくれるかね?」
「……どうぞ」
僕は投げやりに返す。
「この場所は……おそらくだが、我々を一時的に拘束しておく場所だと推測している」
「……まぁそれは」
誰が見ても分かる。牢屋だし。
「そして、すぐに殺さないところを見るに、我々には何かしらの存在価値があるようだ」
「……でしょうね」
それも察しがついた。
あの場で僕を殺すこともできたはずだ。
にも関わらず、殺さなかったという事は、そういうことなんだろう。
「現に、この牢獄は人の出入りが激しい」
「……出入り? あの……あなたは一体どれくらいの間ここに?」
そんな僕の何気ない問いに対し、男性は平然と、
「時間をはかる物は今持ち合わせていなくてな。だが、体内時計を頼りに、ここに来てからの日数を計算するならば――そうだな一週間前後だろうか」
「な……」
軽くめまいがした。
どうしてこの人は、こんな普通でいられるんだ。
「さて、話を戻そうか」
驚く僕をよそに、話を戻す男性。
「食事は1日1回与えられる。だが食事時でも、この檻が開けられることはない」
「じゃあどうす――」
「ただ、一度だけ檻が開けられるタイミングがある。私はそれを何度も目にしてきた」
ここで僕は理解する。
この男性が何を言おうとしているのかを。
「まさか……」
息を呑む。
「そうだ。どこかへと引き渡される、または連れ出されるタイミングだ」
「……無茶だ」
あまりにも無謀すぎる内容に、僕は思わず壁になだれかかる。
「無茶……そうだな、まったくもってそうだな! ガッハッハッハ!」
そんな僕とは対照的に、男性は豪快に笑ってみせる。
「だが他に手段はない、分かるね?」
「……分かりました。話してください、その計画とやらを」
「ハッハッハ。そうこなくては」
今、一世一代の脱出劇が始まろうとしていた。