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TAMASHII・リレーション  作者: 後藤十蔵
第一章 車椅子の少女
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09話 要塞近傍、迎撃戦

 チューブライナーは凄まじく混雑していたが、スクランブルモードで運行されているので、一方通行で次々と列車が到着し、ハンターをバーガベイト港へと運ぶ。

 俺たちはそこでも出遅れた。タイカが一緒なだけに、あまり無茶は出来ない。かといって、それを理由にも出来ない。歯噛みする気持ちだけが先行する。


 結局、ハクロオドに着いた頃には、接敵まであと精々3分といったアナウンスが流れる始末だった。

 タイカをハクロオドの管制室に座らせ、自分はハンガーにある、愛機(ストレガ)へと急ぐ。


 「シュリ!ストレガは敵から奪ったトゲが付けっぱなしなんだ。それは今、ボルトオンしているから、パージできない。機動力はかなり低下してるから、接近戦は避けろ。それから、絶対にトゲは使うな。まだ何が起こるかわからない!」


 ストレガのコックピットに収まり、神経接続を行った瞬間、タイカの声が響く。さっきまでのオドオドした感じはどこへやら。二人きりだと、若干居丈高な何時ものタイカだった。これを内弁慶と言うべきなのかどうなのかは、正直わからない。

 でもそれが、俺だけの時なのだとか思えば、良い悪いはともかく、素直に嬉しいのは誤魔化しようがないことだった。


 「わかった、気をつける。差し当たって遠距離からの狙撃に徹することにするよ。レーザーは直ってんだろ?」


 「うん。だけどリチャージユニットが破損してたからあり合わせで作ったユニットでバイパスしてる。多分大丈夫だと思うんだけど、連続砲撃の時は気をつけて欲しい。特にヒートシンクに注意。オーバーヒートするかもしれない」


 「わかった」


 つまり機体の状態はあまり良いとは言えない。前回の出撃から時間がなさ過ぎた。タイカもまさかこんなに早く出撃が掛かるとは思わなかったのだろう。

 補助駆動装置を稼働させ、各管制装置を起動させる。その間に、ハクロオドの側面ハッチが大きく開いた。その向こうに慌ただしく出撃していく何機もの戦闘機が見える。それを横目で見ながら、キャノピーを閉じた。瞬間、コクピット内は暗闇に包まれる。


 「……既に先頭集団では交戦を開始している。かなり敵が早い。シュリ、乱戦に巻き込まれないで。バーガベイド管制からの指示は変更なし。要塞砲は既に射撃終了。戦域指示なし。全空間戦闘許可」


 タイカによって次々ともたらされる情報を聞きながら、機体の状態をチェックする。全システム問題なし。ただし、トゲが付いている分だけ機体バランスが変わっている。機体制御系に補正をかける。

 回収されたときと同じように、接続されたままのアームによって、機体はハクロオドの側面ハッチから外に振り出された。同時にセンサー系を稼働させる。光学系作動。有視界戦闘―――目を開く。


 「……!」


 途端、広がった視界に映った光景に、俺は息を飲んだ。

 バーガベイドの向こう側。タイカが言ったとおり、既に戦闘が開始されているのだろう。ビームかレーザーかの光線が閃き、そして早くも、幾つもの火球が宙を彩る。未だ戦域外の俺としては、それが仲間のもので無い事を祈るばかりだった。

 それにしても、それは悪夢のような光景だった。バーガベイドから、戦闘の様子が直接に見えるなんて。こんな事は俺がここに来て以来、初めての事だった。


 そして悟る。

 いきなりの事で理解出来ていなかったが、つまり俺たちがここで敗北することは、終局を意味するのだと。

 バーガベイドは強力な要塞ではあるだろうが、空間戦闘機を失って敵の攻撃に耐えられるかはわからない。


 「ストレガ、ランチシークエンス完了―――シュリ―――」


 「―――点火(イグニッション)!出撃する!」


 タイカの続く言葉に耳を塞ぎ、ストレガのメインエンジンを点火させた。アームを切り離し、そのまま、戦闘速力へ。

 タイカの言葉はわかっている。


 無理をしないで。

 絶対帰ってきて。


 でもそれは、今回は聞けないかもしれない。

 バーガベイドを、ハクロオドを、タイカを―――守る。

 その為には、あらゆる手段を行使する。

 例え主人の言葉であろうと、聞くわけにはいかなかった。






 「あっは!やっと来たね!シュリ!」


 何時もと違って戦域が存在しない為に、俺は適当に機体を走らせて、交戦宙域ギリギリの後方へと機体を制止させた。

 途端、通信に割り込みがかかる。視界を向けると、そこに赤黒い機体が占位しているのが見えた。それは見る間に、その取り付けられた長大な電磁加速砲(レールガン)に稲妻を走らせ、亜光速の弾丸を放った。


 「……ミララルディか。遅くなった!光学データリンク頼めるか?」


 その電磁加速砲だけの特徴ある機体と声に、直ぐに誰かわかった俺は、挨拶もそこそこにデータリンクを要請する。

 ミララルディ、さっきネストに居た俺と同じクラス7ハンターだ。

 ということは、さっきあの場所に居たハンターはもう殆ど上がってきているのだろう。本当に出遅れだった。


 「いいよー、あはっ、貸し一つだね!」


 軽口を叩きながらも、ミララルディから直ぐにデータが送られてくる。

 それをシンクロさせながら、最大望遠で敵をロックしていく。とはいえ、ストレガの火器管制装置はマルチロックに対応してないし、対応していたとしても、そもそも大口径レーザーは連続して撃てないので意味は無い。


 「タイカ、バックアップ!交戦密度が低い場所を頼む」


 俺はハクロオド内で同期しているはずのタイカに解析を回す。

 ストレガの火器管制系などを司るAIの能力は、実はかなり低い。これは、機体を組み上げる際、結果として優先度が低かったせいで、AIに回す前に純粋に金が尽きた事を理由としている。

 あまりにもお寒い事情ではあるが、取りあえず戦える機体ということで作成された事もあって、仕方ない事でもあった。


 その代わり、余程そうした設備が整っているハクロオドと、その操作に熟練したタイカのリアルタイムの支援を受ける事が出来る。

 ストレガ側で捉えた映像などを、ハクロオド側も同時に確認出来るというわけだった。もし俺を完全なる機械と考えるならば、それは、タイカによる遠隔操縦と言えなくもなく、そうであるならタイカ戦闘団がタイカ一人というのも、実はそれなりに説得力がある話だった。


 その一方で宇宙空間の事、殆どバーガベイドから動く事が無いハクロオドと、実際戦闘を行うストレガの間は、結構な距離が開く事がある。というか、今回のケースを除くと、殆どの場合、ウン万キロという距離が開く。

 にもかかわらず、殆どどころか全くタイムラグ無く、タイカ側と同期出来るのはあまりにも不思議な状態だった。そうした方面の知識というか、成績があまり優秀で無かった俺ですら、それは色んな物理法則に反しているという事ぐらいはわかる。


 「わかってる―――シュリ、データ送る。撃ちまくって!」


 「おう!照射開始!」


 だが、それは実際に何も問題なく今も運用されている。

 この謎システムについて以前タイカに聞いてみると、「うへへ、秘密なんだよ」と言って教えてくれなかった。

 どうやらこの世界でも、それはかなり異質なシステムらしく、その辺はタイカの科学者としての能力が遺憾なく発揮された結果によるものということのようだった。


 「敵撃破!温度管理はこっちでトレースしてるから、どんどん撃って」


 「やるじゃん、シュリ!ボクも負けてらんないねっ!」


 どんどんとは言うが、大口径レーザーのリチャージは32秒。いかに一撃必殺できるとはいえ、焦れることこの上なかった。ターゲットはいくらでも居るというのに。

 まごまごしてる間に、ミララルディの機体が電磁加速砲を放つ。余程強力なジェネレーターを積んでいるのか、リロードが早い。それに当たりさえすれば撃破確実なのは、電磁加速砲も同じだった。今日、ミララルディは相当スコアを伸ばす事が出来るだろう―――無論、負けなければの話ではあるが。だが。


 「ああ、負けられるかよ!」


 ミララルディの言葉に返すように、俺は吠えた。

 同時にリチャージが終わったレーザーを照射。一機撃破、そしてその先の一機にかすらせる。


 「え……?」


 そう、負けられない。何があっても負けられない。

 守るべき者を守る。どんな手段をとってでもだ。


 敵をロック。リチャージが完了した。

 集中する―――シズナプラッタの伝説を想起する。一発のレーザーで二機を貫いたというアレだ。それは、自分も機動しながらなので、有り得ない程の技巧なのだが、制止しての狙撃であれば、俺でも可能なのかも知れない。


 リチャージが長いなら―――一石二鳥、一撃二殺を狙う。


 敵の攻撃を回避するのと同じように、俺の脳内にビジョンが交錯する。照準に捉えた敵と、そしてその近傍を機動する敵。

 それが―――重なる。


 「照射」


 それが当然のように、俺はレーザーを放った。

 命中確認は必要ない―――必ず当たる(・・・・・)


 「……そんな。信じられない……!」


 「え、なに?今の何?」


 撃破確認を担当しているタイカはそれをはっきりと見ただろう。目の良いミララルディも視界の片隅には見えたかも知れない。

 そんな二人の動揺した言葉は、まともに頭に入ってこない。次の敵を、ロック。

 集中。更に集中する。

二機目のビジョンを捉える。そして三機目。リチャージが完了する―――今。


 「照射」


 自分でも恐ろしいほどに、精神が研ぎ澄まされていくのがわかる。

 既に撃破確認すら、必要ない。感覚が、教えてくれる。

 三機抜きは、失敗した。二機目を貫いたレーザーが減衰して、三機目の機体表面を焦がす程度に終わっている。

 それに、タイミングを合わすのに時間が掛かりすぎた。チャージ終了の瞬間間髪入れず照射出来なければあまり意味は無い。

 二機で十分―――狙う。撃つ。


 「……しゅ、シュリ……?」


 ターゲットロック。チャージ終了。重なる。撃つ。


 「……うそ、だろ?」


 ターゲットロック。チャージ終了。重なる。撃つ。

 ターゲットロック。チャージ終了。重なる。撃つ。


 「……シュリ!ヒート限界だよ!」


 「……!」


 俺はタイカの叫び声に、我に返った。

 慌ててヒートゲージを見ると、確かにゲージが表す数値はもうレッドゾーンに突入していた。後一発でも撃てば、多分強請シャットダウンがかかっていただろう。


 「……ふう」


 「ふう、じゃないって!何それ?百発百中……じゃなくって百発二百中なの?!アリエナイんだけどっ?!」


 トリガーを解放し、集中を切って俺は弛緩するように息を吐いた。直ぐにミララルディから叫び声のようなツッコミが入る。


 「ミララルディ、手が止まってるぞ」


 「わかってるよっ!」


 そうツッコミにツッコミで返してみると、思い出したように電磁加速砲が閃いた。

 それがハズれる。

 さっきまでは自分の射撃の事ばかり考えていたのでトレースも何もしていなかったが、今はヒートシンク中で手持ち無沙汰だったため、その先をつい追ってしまった。


 「あ」


 「あ、って何!?ボクだって外す事ぐらいあるさっ!大体シュリがおかしいんだって。何、さっきの。ボクの目がおかしくなったの?!」


 「いや、いけるかなって思って」


 「あほか!馬鹿にしてんの?!」


 割と本気で言ったつもりなのだが、ミララルディにはふざけてると取られたようだった。

 とはいえ、実際そうなのだから仕方ない。ただ、きっとそこを重ねて言えば、多分より彼女は不機嫌になるだろうことはわかりきっていたので、仕方なく口を紡ぐ。


 「……シュリ?」


 「……ん?どうした、タイカ」


 そうすると交代するように、今度はタイカが話しかけてきた。

 それはいかにもタイカらしい。俺が他の人と話している間は、何か言いたくても控えていて、話しかけてくるのは何時もその後だ。


 「あ、う、ううん。なんだか、さっきのシュリが、えっと、その……」


 「なんだよタイカ、俺に遠慮すんなよな」


 珍しく言い淀むタイカに、俺はちょっとだけ不機嫌に返した。

 理由は簡単。少なくとも、俺にだけは気を遣って欲しくなかったから。当然、言って直ぐに後悔する。

 ああ、だめだ俺は案外小さいな。


 「……何でも無い」


 案の定、そう言ってタイカは黙ってしまった。


 ……あとでちゃんとフォローしておかなければ。

 今でも良いんだが、まだ戦いは続いている。しかも、かなりの重要な戦いの。

 比較的安全な後方とはいえ、こちらの攻撃が当たる場所である以上、逆もまたあり得る。ついこの間、応射を食らったばっかりだし。

 過熱仕切ったレーザーが冷えるまでは待機するしかないとはいえ、緊張感は保っていたかった。

 なんにしても、今は負けるわけにはいかない。負けてしまえば、何もかもが意味が無いものになってしまう。


 俺は複雑な心境になりながらも、望遠モードで周囲を警戒する。多分、タイカも同じようにしてくれているはずだ。心中はわからないが。


 「ん……?」


 望遠で戦場を見渡していると、視界の端に三機でチームを組んで飛ぶ戦闘機が見えた。

 それは見事な連携でしっかりとした編隊を組み、確実という表現がピッタリくる戦い方で敵を仕留めていく。


 それが一体誰のものなのか、俺は知っている。ラルカクイントと、その仲間二人だ。


 本人はあんなに好戦的な性格なのに、戦い方は驚くほど堅実なんだなと感心する。正直ラルカクイントに隠れて殆ど印象が無い他二人も、こう見ると先頭を行くラルカクイントの両脇をしっかりと固めて、編隊を崩すこと無く飛んでいる。それはそれなりの技量の確かさを表していた。


 ヒートシンク完了まで、あと15秒。

 緊張感を保ったままと言いながら、結局することも無くぼんやりとそれを眺めていた俺は、突然脳裏に割り込んだビジョンに、一気に覚醒した。


 「―――っ!なんだ?!」


 「?どうした、シュリ?」


 ラルカクイントの側、その空間。何かが割り込んでくる―――歪み(ワープ)、大きい!


 「タイカ!空間跳躍だ!何かがワープアウトしてくる!解析!」


 「え、え?どこ?」


 「来る!」


 言った瞬間、注視した空間が大きく歪む。そしてセンサーが時空震を捉える。かなり大きい。それは見る間に歪んだ状態から形を成し、その巨大な姿を現した。


 「ちゅ、中型戦闘艇?!直接ワープアウトだなんて!」


 「おおあああっ!何あれ!何あれっ!?」


 流石にそれに気付いた二人も、それぞれな叫びを上げる。

 ただ、見てるものはひょっとしたら違うかも知れない。センサーに表示された時空震は、俺の今目の前で出現したそれだけではない。少なくとも8を超える。ハンター担当の左翼だけでそれだ。当然、軍の右翼にも出現してるに違いない。

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