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TAMASHII・リレーション  作者: 後藤十蔵
第一章 車椅子の少女
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04話 ハンターズシティの朝

 「シュリ……離れないでおくれよ」


 「わかってるって、タイカ」


 出撃から三日後の朝、俺たちは前の作戦で稼いだ戦績を金に換える為、二人揃ってハクロオドから降り、バーガベイドへ乗り移った。

 バーガベイド港の係留方式は、地球での飛行場のそれに似る。所謂ボーディングブリッジが係留艦船に無数に伸びていて、少なくとも係留されている限り、船からバーガベイドに乗り移るのに、全く支障は無い。

 少なくとも、物理的には。


 「ほら、行くぞ、タイカ」


 「ああうう、そんな急かさないでほしい……シュリはもっと私に優しくしてくれてもいいと思うんだ……」


 「十分優しいだろ、ほらっ」


 「うう……」


 幾ら経ってもボーディングブリッジの終点から出てこようとしないタイカの車椅子を俺は押して、無理にバーガベイド側に進む。

 当のタイカは、お気に入りらしいつばの広い帽子を目深に被り、さらにつばの両脇を手で持って顔を隠していた。なので、表情は見えないが、発する声から察するに、あまり景気の良い表情をしているわけではない事は明白だった。


 タイカ―――二人で居るときは、ある意味普通なのだが、ハクロオドから出たり、知らない人に会うとおおよそこんな感じになる。

 過去何があったかとかそういうのを取りあえず置いといてみると、タイカはつまりガチな引きこもりであって、そう当てはめて考えてみると、今の行動はとても理解しやすい。

 つまり、タイカは自分の家フネから出たくなくて、絶賛駄々コネ中だった。


 「うう、クレジット(戦績金)とか、データリンク処理でいいじゃないか……」


 「タイカそれもう俺、50回ぐらい聞いた愚痴だからな……仕方ないだろ。そういうシステムなんだし、不正防止の為だって話しだしな」


 「面倒くさいなぁ」


 散々文句言いながら、「じゃあ俺だけで行ってこようか?」などと言ったら、必ず「一緒に行く」とタイカは言う。その辺何か、彼女の中で複雑なようだ。

 慕われているのか、というと微妙だ。

 以前、面倒になり本当に一人で換金しに行ったが、帰ってきたら半泣きで怒られた。曰く「主人を置いて行くなんて!」だ。

 遠慮無い口ぶりはするが、タイカは主人、俺は従者。そういう関係でしかない。

 俺としても、まだ一年しか経っていないこの世界。不慣れなところもあれば、そこまで親しい知り合いもない。

 そういう意味ではタイカだけが頼りで、主人と従者という関係も、なんとなくではあるが受け入れているというのが現状だった。


 「だいたいハンターに登録しているのは、俺じゃなくてタイカだからな。俺が行っても換金出来ないんじゃしょうがないだろ。それに今回はボーナス有りだからな」


 それは事実だった。実際、二人しか居ない俺たちは、『敵』を狩る狩猟者ハンターとしての、書類上の登録はタイカのみになっていたりする。

 機械である俺は、現在のところ道具という扱いだった。なので、バーガベイド内での立場はかなり微妙だったりする。

 見た目的に人間らしきモノなので、小さな商店とかだと普通に買い物も出来る場合もあるが、少し大きめな、取引と称されるほどの売買は、俺一人ではどうにもならない。

 ましてや、この『敵』との戦闘に関しては結構しっかりした契約が必要となるため、怪しいロボット単体など、登録してくれようはずも無かった。


 それにわりと最近知ったのだが、この世界、意外にも俺ほどに、或いは人並みの知性を有するコンピューターというものが存在しない。

 科学者であるタイカに聞いたが、『どうがんばっても、心らしきものが作れない』らしい。具体的に何がネックになっているか、さっぱりわからないが、あまりにも意外な話だった。

 宇宙にこれだけのものを浮かべる技術があるのだから、当然のように心を持った自立型ロボットとかも居るだろと思っていたんだが。

 逆を言えば、この世界に、意思と呼べるほどの自我をもったロボットは、たった一人、俺だけだということになる。

 わかってしまうと、案外この事実はセンセーショナルなのだが、現状、その方面ではそれなりに知名度がある『科学者タイカ』がおかしなモノを作ったという話で通っている。

 事実を鑑みるに、それは半分当たりで、半分は違うが。


 とにかくそんな理由で、登録名『タイカ戦闘団』は、書類上タイカ一人の、ぼっちハンターチームという状態だった。


 「ボーナス欲しい…」


 俺の提示した、ボーナスという餌に釣られ、少しだけ大人しくなるタイカ。

 そこは、現実だった。なにしろ、タイカ戦闘団。実はお金がないどころか、借金がある。しかもそれなりの額の。支払いが滞れば一体何を差し押さえられるかわかったもんじゃない。


 「だろう?じゃあ、頑張って行こうぜ。ちゃんと俺も居るし。守ってやるからさ」


 「っと、とうぜんだろ!シュリは私の物なんだから、主人を守るのは当たり前だっ」


 何故か一層帽子を深く被って、車椅子の上で義足をパタパタさせるタイカ。

 なんにせよ覚悟が決まったみたいなので、今のうちとばかりに車椅子を進める。


 ハクロオドと繋ぐボーディングブリッジの向こうは、デッキになっていて、朝早い時間だからか人通りは今のところ無い。

 デッキは外が展望できるようになっていて、そちらを見るとハクロオドを含む、大小様々な艦船を見る事が出来る。こうして見るとやはりハクロオドは小さく、古くさい。

 まあ、その更に横に着いて並ぶのが、ハンターチームとしては現在三本の指に入る戦闘力と規模を誇る、カリョピン旅団旗艦アマルウェンディなので仕方ない。こちらは所詮工作船。向こうは本格的戦闘艦なのだし。正直比べるのも烏滸がましいだろう。


 デッキを抜けると、駅に着く。


 全長100キロを超えるバーガベイドの中には、移動のためリニア・チューブライナーが縦横にその艦内を走っていて、所々に駅がある。要するに、電車と駅そのものだ。

 何しろ要塞内が大きすぎる。考えてみても、その大きさは俺が知る日本のどの都市よりも多分大きい。そりゃ、電車も必要になるだろう。


 その電車に乗って、三駅ほど。俺たちはハンターシティに降り立った。





 ハンターシティ。

 正式な名前は、第207ブロック外部人員居住区なのだが、そんな名前で呼ぶ者は、少なくともここに来る者には居ない。

 ここは、傭兵とも言える『敵』を狩る為の外部人員の為の、商業区域となっている。


 「早く来て良かったな。まだ人は少なそうだ」


 「眩しい……うん、ぱっと行ってぱっと帰ろうじゃないか」


 ホームには今はあまり人は居ない。だが、もう数時間もすれば、ここは溢れそうになるほどの人が集まってくる。


 ホームから見える景色は、普通にどこかの街並みだった。そこには、倉庫のような建屋が建ち並び、その隙間に緑さえ見える。そして驚く事に、青い空がある。

 太陽らしきものは何処にもないのだが、光の加減からすると、なるほど朝と呼んで差し支えない風景だった。


 こうした場所はバーガベイド内に幾つかある。勿論、何人居るかわからないバーガベイドの住民の生活のためだった。

 当たり前なのだが、誰もがこのバーガベイドで生まれ育ったわけじゃない。あらゆる星系、少なくとも殆どがどこかの星の出身だった。だからこそ、そうした生活になるべく近い環境を再現するため、こうした区画が設けられている。

 このハンターシティは、どちらかと言えば地球の平均的なそれに近いと言える。とはいえ、出身星系によっては、例えば極寒の氷だらけとか、灼熱の砂漠と荒野だらけとか、そういった場所を生まれとする者も居るが、そうした話まで考慮するときりが無い。

 話によると、ここは奪われたダリアナガンの環境にあわせてあるのだそうだ。


 そして、時間。

 宇宙空間に浮かぶバーガベイドでは、少なくとも昼夜などという概念はない。宙はいつだって星空だから、そういう意味では夜しかない。

 とはいえ、それでは生活のリズムが保てない。どんな者であれ、殆どのものがどこかの星系で、そしてその時間は様々にしても、一日という単位で生活を送っていた者ばかりだ。

 だからこそ、こうした生活に関係ある区画は、わざわざ昼夜を人為的に作り出している。それは1回当たりの戦闘期間が長い、巨大要塞ならではの配慮と言える。


 「とはいえ、時間的にまだネスト開いてないんだよな……」


 電車が混むので早く来ただけで、それ以外の事は何も考えてないというのが正解だった。

 ハンターの報酬は、狩猟者の巣(ハンターズネスト)と呼ばれる場所で換金される。それは駅からは少し離れているものの、歩いても直ぐの場所にあった。

 それは、ある意味当然だとも言える。

 なぜなら、ここに訪れる者のほぼ九割以上はハンターだし、そしてそのうちの更に九割以上が、そのネストに用事があるのだ。なので、立地的にも駅のすぐ近くにある。

 とはいえ、その営業も艦内時間ともいえる昼夜に影響されて、普通に夜は閉まる。なので時間的にまだ開いてないはずだった。


 「シュリが急かすからだろ」


 「そんな事言ったって、ラッシュに乗ってきたかったか?タイカ、前にそれ乗って、気持ち悪いって泣き言ばっかり言ってただろうに」


 「そ、それはそうだけどさ」


 「取りあえず公園ででも、時間潰すか……そんな待つほどでもないしな。朝飯も食ってないだろ。カカロゼのとこ寄っていこうぜ」


 駅の正面は、それなりに広い公園で、その向こうにネストはある。ネストに行こうとなると、必然的に公園を通るが、そこではこの時間からでも幾つか露天が並んでいる。

 カカロゼの店は、その中の一つで、ワゴンで軽食を売っている。こうした場合、何時も俺たちは利用していた。


 「カカロゼ、苦手なんだよ……遠慮無いし」


 「むしろタイカの苦手でない人がいないだろ。ほら、いくぞ-」


 「む、そういう意味じゃなくってだね―――もうっ!」


 なにかを言いたそうにしているタイカを無視して車椅子を押し出し、駅を出て公園へと足を踏み入れた。


 意外にも、緑を愛でるという習慣は、何処にでもあるようだった。でなければ公園などというものが成立しない。

 とはいえ、そこに植えられているそれは、かなり地球の、というか日本で見た植物とはかなりかけ離れている。植物なのは間違いないのだが、なんというか、気を抜くとそのツタでグルグル巻きにされて美味しく頂かれるようなフォルムはしている。

 ただ、俺が知らないだけで地球でもアマゾンの奥地ではこんな感じなのかもしれない。


 公園はそんな植物で間切られていて、ちょっとした迷路のようにもなっていた。

 俺はなんだか微妙にふてくされたタイカの車椅子を押しながら、その中心部に進む。公園は中央部が開けていて、大抵の露天はここに出るからだ。


 「よう、カカロゼ。おはようさん」


 幾つかある露天の中、目的のワゴンに近付いた俺は、そこで忙しなく何かしらの準備をしている店員に声を掛けた。

 その、声を掛けた女の店員は、俺の声を聞いて一瞬ぴたりと止まると、ぱっとこっちを向いて顔を綻ばす。


 「あー、シュリじゃない!タイカも。久しぶりね!」


 彼女は、さっきまでの忙しさなど忘れたように、ワゴンの向こう側からパタパタと小走りで駆けてきて、その勢いのまま俺に抱き付いた。


 「んなっ!?」


 引いてる車椅子の上から、タイカが小さく叫びを上げる


 「今日はラッキー!朝一からシュリに会えるなんてっ!おはよ?!食べていくんだよね?タイカも」


 「ああ、何時もの頼む」


 抱き付かれたのもそのままに、俺はカカロゼにそう言った。


 カカロゼ。当然なのだが宇宙人だ。

 まあ、俺を含むみんな宇宙人なので、一々言うべきもないのだが。

 とはいえ、カカロゼはタイカと同じく、見た目は俺が知る地球人のそれに殆ど変わりない。唯一違うと言えるのはその耳で、平たく言ってみると、ファンタジーで良く言うエルフのそれだった。なので、俺は内心カカロゼの事をエルフさんと呼んでいる。

 その一方で、雰囲気といえば俺が知るエルフの理知的な雰囲気なんかじゃなくて、どっちかといえば南国風味の女の子然している。

 バーガベイド内で日焼けもなにもないはずなので、地なのだろう浅黒い肌と、出るとこ出たグラマラスな肢体を、かなり露出高い服で包んでいる。その様は、裸エプロンなのかと最初思ったほどなのだが、実際にほぼ裸エプロンだった。

 顔立ちも俺視点で十分美人の範疇に入る。それは人形のような整った美少女であるタイカとは全く違い、生き生きとしていて瑞々しい健康美に溢れている、という感じだった。


 「えへへー、シュリー、今日もいい男ね!あー、ホントラッキーだわ。おねーさん今日一日頑張れそう」


 「わかったから離れろって」


 「うぐぐぐぐ」


 言いながらも、むっちり腕に絡み付くカカロゼの胸の感触が素直に嬉しい。

 おおよそ毎回のことだし、以前はそれでも慌ててたものだが、ロボットになった影響なのか割とあっさり慣れてしまった俺だった。それ以上にいく事も有り得ないわけだし。

 そうかと言えば、車椅子に座ったまま俺を見上げるタイカの視線が、何かをもの凄く訴えかけているので、カカロゼの体を引き離しに掛かる。

 タイカ的には何かを言いたいのだろうが、未だ俺以外にははっきりと思う事を言えない。ある意味、カカロゼはそれをわかっていてやってるフシがある気がする。


 「あっは、相変わらずつれないわね、シュリ。しょーがないか。タイカ居るしね!おねーさん的には偶に甘えさせてくれると嬉しいな」


 「うううー!」


 やっぱわざとなんだろう。ちょっと涙目なタイカを見ながら、そんな事を言う。あんまりタイカをいじめないで欲しい。

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