10話 ジャイアント・キリング
中型戦闘艇。
その姿は、小型戦闘機も同様、何処か生物的なフォルムをした何かだった。
小型戦闘機が昆虫系であるなら、中型戦闘艇のそれは魚類のそれに近い。あえて言えば、マッコウクジラのそれに似ている。但し、『敵』全てに共通するが、色は真っ赤だった。
全体的にのっぺりとした外観なのは共通。
その曲線で構成されたつなぎ目のなさげな外皮は、如何にも防御力が高そうに見える。事実その表面には、どんな技術なのかわからないが、レーザーやビームを軽減する何かがあるらしく、それら武器での攻撃は効果が弱い。そうかと言えば、実体弾系も余程装甲が厚いのか、そうそうダメージを与えられるというものでもなかった。
そんな中型戦闘艇は、出現して直ぐに、その猛烈な火線を開いた。
装甲にところどころ穴が開いていて、そこからビームなのか、レーザーなのかを撃ってくる。一発一発は攻撃力が低そうではあっても、こちらの戦闘機を相手にするには十分な威力を持つ。事実、最初の砲火で、油断していたか驚いて動きが止まった味方の戦闘機が何機か喰われた。
「……マズいな」
敵が小型戦闘機のうちは、それなりにこちらが有利に戦えていた。
だが、中型戦闘艇が出現したと同時に、戦局はまたひっくり返ったように感じる。戦場全体に混乱が広がっている。酷くまずい状態だった。
そもそも中型戦闘艇は、数機がかりで一気に襲撃して仕留める相手だ。今の混乱した状態だと、まずそこまで持っていくのに時間が掛かる。
そしてその間に、かなりの機数が喰われてしまうだろう。
大体が、出撃前アナウンスによって、その存在が警告されていたハズだった。
見うる限りには居なかったので、どこかにまぎれているのだろう程度に思っていたが、どんな狙いなのかはわからないが、おおよそ後方で控えていて、タイミングを見計らってショートワープで割り込んできたのだろう。
俺だけじゃ無い。全体的に、これなら勝てると油断した瞬間を狙われた。『敵』ながら絶妙な戦術だった。
「シュリ!あれ……!」
タイカの声と同時に、その部分にフォーカスがあたる。
見れば先ほどまで軽快に戦場を疾駆していたラルカクイント達が、最初に現れた中型戦闘艇の火線に捉えられていた。
それでもなんとか編隊を維持したまま逃げ回ってはいるが、離脱しきれるかどうかはわからない。
「くそ……!ミララルディ!援護してくれ!」
「ど、どーするの?!」
「突っ込むんだよ!あのバカを拾ってくる!タイカ、分析頼む!」
「シュリ!?」
俺は悪態を付きながら、一気にエンジン出力を最大へと移行させ、そのまま目の前の中型戦闘艇に向かって機体を走らせる。
面倒くさくてムカツクやつだが、目の前で死なれるとあっては、話が別だった。
最大戦速に乗ったところで、ヒートシンクの完了したレーザーを放つ。
狙いは適当。取りあえず牽制のつもりで撃ったそれは、違わず中型戦闘艇に命中した。だが予想通り表皮に弾かれて効果はほとんど見られない。
そうしてる間に、ミララルディが放ったらしい光速弾が俺を追い越し、敵に命中した。こっちは目に見えてはちゃんとダメージになったようだった。命中箇所で爆発が起こる。
無論、そんな一発で落ちたりはしないが、注意は逸れたようだった。
「……シュリ!狙うなら砲撃口を狙って!多分そこには防御されてないはずだから!」
「了解!」
無茶してる俺を止めるわけでもないタイカの声は、本当に心強く思えた。同時にありがたいとも。
タイカの提言に従い、中型戦闘艇の砲撃口に照準を合わす。かなりシビアだが、当たらないことは無い。ミララルディの攻撃で敵の火線が乱れている。狙うなら今だ。
「くたばれ!!」
殆ど目視のまま放ったそれは、それでもなんとか砲撃口に命中した。明らかに先ほどとは違う爆発が中型戦闘艇を焦がす。
これなら、敵にダメージが与えられる―――
「どうわっ」
だが、それに対する反撃は熾烈に過ぎた。
ざっと確認できるだけでも10を超える砲火が俺に向かって集中する。スラスターを噴かし、ロールして間一髪に避ける。
ダメージは与えられるかも知れない。だが、あまりにもリスクが高い。
「……っ!何しに来やがった。機械ヤロウ!」
忙しい最中、火砲を逃れたのだろうラルカクイントの交信が入る。
まあ、礼なんか言わないとは思っていたが、流石にそれは頭にきた。
「うっせえ!なんでもいいから早く離脱しろ!こっちも距離を取る!タイカ!恒星弾を使う。許可を!」
必死に機体を操りながら、『敵』から見て天頂方向へ機体を離脱させる。俺の言葉に従ってラルカクイントが逃げたかどうかも確認できない。
というか、これで離脱しないようだったら、その時はもう知らん。何十条ものビームに炙られながら機体を加速させ、攻撃を振り切る。
「ラルカ!お前らも!恒星弾持ってるなら、戦列を組め!一斉発射で仕留めるぞ!」
「……っ!っ!わかった……!」
「お、おう!」
「了解ですわ!」
どこに居るかは把握出来ないが、ラルカ達もどうやらなんとか離脱できたようだった。次々に交信が入る。
恒星弾。
平たく言えば、水爆だ。核融合弾とも。
以前、恭介に聞いた話をも総合すると、太陽、つまり恒星が光るのは、星そのものが核融合で燃えているからだと聞いた。
だから、ここでは水爆の事を、恒星弾と呼んでいる。
この恒星弾を、ストレガはミサイルとして2発積んでいる。それはレーザーを主武装とするストレガの本当の切り札で、まず使うことは無い。実際、取り付けてから一度も撃ったことは無かった。
想定としては、何十機もの敵に囲まれたとか、そうした場合を考えて念のために取り付けたもので、たまたま売り出しされていたものを、折角だからと取り付けたものに過ぎない。そうで無ければこんなコストが掛かる武装を載せている道理も無かった。
無理矢理くっつけただけに、火器管制のリンクなし。つまり無誘導。ミサイルとは名ばかりの、ロケット弾に近い。
「わかった。シュリ!広域警戒を出す。恒星弾。爆発単位120。エリア警戒!」
爆発単位120とやらがどんな威力なのかはわからないが、水爆だけに効果範囲が広いのだろう。もし周囲に味方がいるなら、それを巻き込みかねない。
タイカの広域警戒は味方機に対するもので、ハクロオドから無差別に発信された。とはいえ、ほぼ振り切った場所から中型戦闘艇周辺をセンシングしても、味方の機影はどこにもなかった。何機かは、同じように逃げただろう。だが、
―――残りは、あいつにやられたんだ。
一気に頭が怒りに沸騰するのがわかる。
絶対に、許さない。必ず殺す。
「野郎……!見てろ……10倍返しだ!ラルカ、いけるか?!両翼につけ!」
「……!あい!」
「いける、撃てるよ!」
「こちらもですわ!」
何か、聞いたことの無いような言葉が混じったような気がしたが、直ぐに頭の中からそれは流れた。ラルカ達のそれはよくわからないが、こっちは無誘導。機体制御で弾道を決める必要がある。
「シュリ!出来るだけバーガベイドの反対側を狙え!それから撃ったらすぐ離脱。出来るだけ距離を取るんだ」
「だってよ、ラルカ。狙いは奴の左舷側。撃ったら即離脱!いくぞ……撃て!」
「っ!」
がくんと期待が揺れて、感覚的にも視覚的にも、恒星弾が機体からまともに放たれたことを知らせた。セール品で初の射撃だ。正直少し不安だったが、ちゃんと動作したことに安堵する。
レーザーとは違い、必ず当たるとは言い難いが、それを見ている余裕は無い。
「離脱!」
「っ!……!」
即、機体を翻して離脱にかかる。
瞬間、ラルカがもたつくビジョンが見えた。咄嗟に機体を変形させクローを展開。ラルカの機体を引っ掛けて無理矢理加速する。
「……な、う……!」
「機体に傷付けたのは謝る!急げ……!にげ―――」
そこまで言った瞬間、機体の後方で凄まじい光が炸裂した。それは見る間に火球となって、もの凄い勢いで膨張していく。
センサー類が一瞬シャットダウンし、続けて膨張する火球のデータがトレースされる。機体からはそれがセンシング出来ないはずなので、ハクロオドのタイカか、それとも、離れているミララルディの中継データなんだろう。
それは予想を超えて大きなものとなっていく。
タイカだけは、その爆発威力をはっきりと予想していたのだろう。もし離脱が遅かったなら、あの火球に飲まれていたに違いない。自分でやったこととはいえ、それはゾッとするのに十分な光景だった。
「怖え……ミララルディ、そっちから敵の様子が見えないか?」
素直にそう呟き、俺は戦果を目視出来るはずの、ミララルディに繋いでみる。
「目が!目がぁっ!」
途端、回線からミララルディの悲鳴が聞こえた。予想外すぎるその声に、心の中で思わず仰け反る。
……どうやら、火球を直視してしまったようだ。ム○カ大佐かよと思ったが、思うより深刻なのかもしれないと思い直す。ム○カ大佐も最後はラピ○タから落ちたし。
「大丈夫か、ミララルディ?下がれるならさがってろ―――ラルカ!」
「っ、なんだ?」
「お前、エンジンやられてんだろ。ミララルディを誘導して、一緒に下がってくれ」
離脱にもたついていたのは、さっき中型戦闘艇に狙われた際に被弾したからだろう。
見れば確かに機体後部に被弾した跡がある。
大きく損壊しているわけではないものの、破口があり、そこから数条の煙が線を引いて流れ出ていた。
「で、でも」
「でも、じゃねぇよ。まともに機動出来なくて何が出来るってんだ。全部かばえると思うなよ……それに目をやられたミララルディをほっとけないだろうが―――今は、お前しか頼めないことだ。頼むぜ、ラルカ」
「……う……わかったよ……シュリ」
そう言ってラルカは、未だにわぁわぁ喚くミララルディの方へ機体を翻した。
……異様なほどラルカが素直だ。それに初めて機械ヤロウ以外の言葉で呼ばれた気がする。
とはいえ、今はそんな事を考えている余地も無い。今や、火球は白煙となり、敵が居た周囲を覆っている。正直、あれで沈んでいると思いたい。
センサーはまだ、あの煙の中を捉えられない。未だかなり高温になっているのだろう。
「で、大将。俺たちはどーしたらいいんだ?」
「指示が欲しいですわね」
タイカに解析を願おうかと思っていたところに、ラルカの取り巻き二人が機体を寄せてきた。
取りあえず、ラルカが居なくなったことで、どうしたら良いのかわからなくなったのかも知れない。
それにしてもお前らなんだその手の平返し。大将ってなんだ。
だいたい何だって俺がお前らに指示しなきゃならないのか―――そこまで考えて、確かにさっき指示したなと思い直す。
「あー、取りあえずアレがはっきりするまで待機。他の中型は、他の奴らに取りあえず任せるしかないだろ。もう、武器も無いしな……」
恒星弾は使い切った。
それに気付いてみると、レーザーの機能が完全に死んでしまっている。どうもヒート気味なところに恒星弾の衝撃がかかり、どこかの回路が飛んでしまったようだった。
もちろんクローは健在なのだが、中型を相手に物理格闘戦など殆ど意味は無い。メガビームブレイドほどの長モノならある程度いけるかもしれないが、無い物を考えても仕方ない。
詰まる話、最早ストレガの継戦能力は無いに等しかった。常識的に考えて、最早帰投すべきタイミングではある。
非常時だけに、どこかで恒星弾の追加補充をしてくれる可能性も無くは無いが、元々の恒星弾は無理矢理気味にハードポイントにパイロンをくっつけ吊り下げたモノだっただけに、新たな補充を受けてもまともに撃てるかどうかもわからない。
それでも戦場に止まっているのは、単純に未だ戦闘が行われている中、再出撃でき無さそうな自分が戦場を離脱するのが純粋に後ろめたいということと、中型戦闘艇がどうなったのかが気になるだけの話でしか無かった。
「タイカ、そっちから中の様子がわか―――」
「シュリ!煙霧内に動体反応!まだ、生きてる!」
改めてタイカに解析を頼もうとした瞬間、それを遮るようにタイカの叫び声が上がった。
「なんだと……!」
ある意味それは無用の警告だった。
タイカの言葉と同時に、煙をかき分けるようにして、その真紅の巨体が出現したからだ。
それは少しずつ増速しながら、バーガベイドに進んでいく。
煙から出きってみると、流石に全くダメージが無かったわけではない事がわかった。むしろ半死半生状態に近い。
丁度狙った左舷側の構造がごっそりと消滅し、自身もそこから煙を吐き出しながらそれでも前進している。
正直、なぜ動いているのかも不明な状態だった。
「いくら何でもしぶとすぎんだろ!」
驚愕しながらも、その進行方向を目で追う。
「大将!姉御が!」
取り巻きの一人が声を上げた。瞬間、よくよく考えたら二人の名前も知らない事に気付いたが、今はそれを気にしている余裕はない。
確かにその進行方向には、先ほど支援を要請したラルカと、目をやられたミララルディの機体がヨタヨタと飛んでいる。その先には、バーガベイド。
「ど、どうしたらいいんですの?!」
動揺した声。だが、確かにどうしたら良いのかわからない。
恒星弾でも仕留めきれなかった相手だ。今、手持ちの武器でアレを止められるとは思えない。高威力の武器が欲しいが、ストレガは最早丸裸に近い。
だが、何もしないわけにはいかない。いい手など何も見付からないが、それでも機体を、煙を上げて進む戦闘艇の進行方向へと向ける。
「おい、武器は!?なんか無いか!?何でもいい、あいつに撃ち込め!タイカ!解析!」
「……駄目だ、シュリ!敵の熱源が強すぎる。それに煙でよく見えない!でも、撃つんだったら煙に向かって撃って!そこはもう防御は無いはずだから、もしかしたらレーザーでも―――あ」
あ?
あって何だ。
「どうした?」
「な、なんでもないっ!」
言いながら、その理由に気付く。
機体の状態は、ハクロオドを通してタイカが診る事が出来る。多分、今の今までレーザーが使えなくなっている事に気付かなかったのだろう。
だが、それにしてもその後の強い否定は、何の意味があったのだろうか。
「大将……!もう弾が……!」
「こっちも……ですわ!」
併走しながら散発的に、一人はバルカン砲を、一人はマイクロミサイルを撃ち込んでいた取り巻き二人の、悲鳴のような声が聞こえる。
何でも良いから撃てとは言ったが、結果はというと、目に見えるダメージは全く認められない。
それに二人とも実体弾系を主兵装にしていた事で、既に弾切れを起こしている。無論人のことなど言えない。恒星弾がもう一発でもあれば。或いは、他の何か強力な―――
「あ」
ふと、脈絡も無く俺はそれに思い至り、間抜けな声を上げた。
それは奇しくも、先ほどタイカが上げた声と、一緒だった。
きっと、タイカも同じ事を思いついたのだろう。だから、直ぐに否定し、誤魔化そうとした。なぜなら。
「……!だめ!駄目だ!それは駄目って言ったじゃ無いか!」
まだ何も言ってないにも関わらず、俺があげた声に、同じように気付いたのだろうタイカが叫び声を上げる。
―――トゲだ。
荷電粒子砲。確か、タイカは一応使えると言っていたはずだ。
それに、威力の方は、良く知っている。あの新型に撃たれたとき、粉々に砕けた小惑星は、そんなに小さなものでは無かった。
「タイカ、これしかない!―――許可を」
「駄目だ!今、バーガベイド管制に繋いで、要塞の支援砲火を要請するから、それで」
「それじゃ間に合わない!タイカ」
言いながら、射撃シークエンスに入る。恒星弾ミサイルと同じく、火器管制からは外れている。回路を追い、エネルギーバイパスを開く。ジェネレーターから直結だ。チャージ開始。
「今、出来るのは俺たちだけだ」
「シュリ……!」
チャージが進む。
ストレガのマスターコントロール権は、ハクロオドのタイカが握っている。なので、本当に駄目なら、俺の操作を超えて、チャージをシャットダウンできる。
それが行われないところを見ると、悩んでいるのだろう。
「タイカ。大丈夫だ。俺を信じてくれ。絶対に戻る。あいつを、俺たちでやっつけてだ。そしたらクラス6。ボーナスだぜ!」
あえて茶化すように言って、タイカを説得する。
実際には、本当に時間が無い。
動くだけかと思っていたら未だ健在な砲門もあったらしく、殆どめくら撃ちのようにバラバラと周囲にばらまきながら、しかし確実に前進していく。
その先には、ノロノロと、でも恐らく必死なラルカと、ミララルディ。更にバーガベイド。
タイカが言う通り要塞火砲ならば、最終的に仕留められるのかも知れないが、その前に確実にラルカ達は喰われてしまうだろう。
何故ここまで、ラルカ達に拘るのか、俺もわからない。出来る事は少ない。或いはラルカ達も、何とか逃げ切れるかもしれない。
だが、そうではないかもしれない。
そうしたとき、もしそれが何もしない結果によるモノであるならば、きっと俺は後悔するだろう。無論、そうしなくても後悔するかも知れない。
だけど、同じ後悔するなら、まだ何かをした結果のほうが、遙かにましだ。
少なくとも俺はそう思う。
「姉御!!」
「お姉様ぁ!」
未だ名前も知らない、二人の悲痛な声が響く。
めくら撃ちとはいえ、幾条かの光線がラルカ達をかすめていく。見た目には、あまりにも危険な状態だった。恒星弾を使用した結果によるものか、友軍機は近傍にはおらず、支援も期待できない。
「あ……う……」
タイカ、どうする?
俺はタイカの道具に過ぎない。タイカが主にして、俺は従。
ここまできてタイカに決断を迫るのは卑怯なのかも知れない。だが少なくとも俺はもう決めた。あとは、タイカだ。
「で、でも、もしかしたら、私のせいで、シュリが……!」
「大丈夫だ。俺を、信じろ!俺は、タイカを信じる!」
俺たちは、二人で一つ。
同じ選択で、結果を導きたい。
言葉は尽くした。あとはタイカに任せる。
感覚的には永い時間の果て、沈黙していた回線からタイカの言葉が流れた。
「………………撃って。シュリ。二人を、助けて!」
「了解!」
絞り出すようなタイカのその言葉に、俺はニヤリと口元を歪め、力強く応えた。
まかせとけ。やってやるともさ!
繋がる言葉。繋がる心。
それは見えなくとも、そこには確かに感じる信頼がある。
「お前ら、粒子砲を使う―――何が起こるかわからねぇ!少し、離れろ!」
「っ!わかった!」
「お姉様を、お願い!」
だから、応える。必ず助ける。
チャージは終了。思いたくは無いが、不安を覚えるほどのエネルギーが充填された。
機体を制御して、敵に機首を向ける。
「狙点固定。敵の左舷……!」
「シュリぃ!」
「発射ァ!」
叫ぶタイカが、何を想って俺を呼んだのか、それはわからない。
だが、最早迷いは無かった。俺たちによって撃鉄を起こした―――引き金を、引く。
「うおっ?!」
瞬間、想像を超えた閃光が機体の前面を焦がした。ミララルディじゃないが、目をやられるところだった……むしろ、機械であることが幸いした。生身だったら間違いなくム〇カ大佐だっただろう。
謎のトゲから放たれた粒子の束は虚空を貫き、違わず中型戦闘艇の破損部に命中した。
「砕けろ―――!!」
照射状態を維持したまま、敵を凝視する。ガタガタと機体がヤバい感じに揺れるが、今は我慢だ。
これで殺れなかったら、あとは本当に運を天に任せるしか無い。
がたつく機体に無理がきているのか、幾つかの制御系統よりアラートが鳴り響く。主にジェネレーター。
だが―――
「シュリ、もう―――!」
恐らく、警告の声なのだろうタイカが叫んだのが聞こえた瞬間、粒子ビームで刺し貫いた中型戦闘艇に大きな爆発が起こり、船殻に亀裂が入った。
その亀裂に沿って、内側から連鎖的に爆発が発生していく。
「―――砕けろ!」
赤く染まる視界の向こうへ、俺は駄目押しのように、再び叫んだ。
刹那、中型戦闘艇にひときわ大きな爆発が起こった。
そしてそのまま、恒星弾すら防ぎ切ったその赤い装甲をボロボロとばらまきつつ、のたうち回るように艇体をひっくり返しながら、中型戦闘艇は千々に爆裂しながら木っ端微塵となった。
「やった―――!」
「すげえ!」
「やりましたわね!」
「やべえ!」
タイカ達の手放しの歓声が聞こえる中、俺は直ぐにその機体の異変に気付いた。
チャージバイパスが閉じずに、トゲへのエネルギー流入が止まらない。トゲ自体の問題なのか、それとも伝達系の故障なのか、わからないままトゲが暴走しようとしていた。
その先にあるのは、想像するに容易だった。
―――爆発する?!
「くそ!エネルギーバイパスが―――っ!」
「シュリ!!!!」