かみさまだって××だもの
人外(神様)と人(男子高校生)のやまけらし様モチーフのお話。
まずは盛大な前フリから聞いてほしい。
盛大も何も俺が実際に体験した話なんだけどな…。
◆◆◆
俺はごく普通でごく普通の男子高校生だ。でも一つだけ普通じゃない、じゃないな。面倒な事がある。
俺が通っている学校が滅茶苦茶遠くて自転車で毎日キコキコ12km位走らせて通ってる。ま、言う所のド田舎ってとこだ。通学する手段が自転車だけな訳じゃねえ。バスだってちゃんとある。…だけど悲しい事に俺の家は貧乏な部類に入るらしい。定期代なんて勿体無くて払えない。しっかりとした両の足があるならソレを使えってさ。
別に体を動かすのは其処まで嫌いじゃない。寝坊した時はかなり焦るがな。
で、学校までの通学路は二つある。
一つは街中を突っ切る起伏の無い道。ゆったり焦げるけど距離が長い。
もう一つは山越えの起伏が激しい道。体力持ってかれるが一番の近道。
夏場なんか出来るだけ汗は掻きたくない。シャツが肌に纏わりつく感触は不快で仕方ない。あのベタってしたのが嫌いでさぁ。
「だけど今日ばっかりは諦めないといけないか…はぁ。」
友達とバスケに夢中になって帰る時間が遅くなってしまった。終わった時既に辺りは日が暮れ始めてる。街中の道だと確実に日が暮れる前に家に着けない。
気分が一気に下がる下がる。だらしなく自転車を漕ぐってもんだ。
「気合い入れて山越えすっかない。」
山道と街中、二つの道の分岐点。近くのコンビニで買ったポカリを半分近くまで飲んで俺はペダルを漕ぐ力を強くした。
さて、俺的に気合いを入れて山越え始めたんだが…。正直、日が暮れ始めた山道ほど不気味でうす気味悪いもんはない。おぉう。聞えるヒグラシの声が小さくなってくのがまた何とも、怖ぇよ。
それでも俺は立ち漕ぎで越えていたらドスンって急に重くなった。思わず、よろけそうになったけど何とか持ち堪えた。でも後ろというか背中にこう何かが負ぶさってるみたいで重い。
も゛っも゛っも゛っ
耳に聞こえる意味不明の意味不明で逆に恐い声。
振り向くなんて出来なかったね。振り返ったら逆に終わるって思ってさ。だけど、肩に爪が食い込んでくるような圧が徐々に強くなってきて。最後の方は激痛に耐えながら漕いでいた。上半身を下にグッと押し付けられる感覚も強くなってきている。
も゛っむ゛む゛っ
嫌な声はずっと後ろから聞こえ続けた。冷や汗と脂汗ともいえない汗が俺の背中に滝の如く流れていく。掻くの覚悟で登ったのにこれじゃあんまりだ。
変なの背負って俺マジ涙目。足取りも気持ちも重くなって漕いでたら上り坂が終わり、峠の中腹の開けた場所に出た。
息が切れ足を着いて何となく崖側の方に目を向けてみると、小さな女の子がいた。
夕日の色でよく分からなかったけど、白っぽいシャツの上にフード付きの上着とミニのスカートと七分丈のスパッツを履いたセミロングの子。大体6~7歳に見えたかな。
車なんて滅多に通らない田舎の山道に、しかももうすぐ日が暮れてしまう山道に女の子がいるはずがない。
「(嗚呼、…ひょっとしなくても、幽霊か…。)」
と思って動かないでいると、俺の足元までタタタって走って来た。見上げてくる目はなんつーか清んでるっていうのかな?綺麗だった。くりくりっとした目にぷっくりとした頬。
幽霊にしては子供らしいと言っちゃ失礼だろうけど普通に見える、子供として。
そんな馬鹿な事を思いながら眺めてたらさ、女の子俺のことじぃーって見上げんの。終始無言って言っても10秒くらいかな?その後、急に俺の太腿を埃落とすみたいにパンパンって叩いたのよ。
『大丈夫だよ、安心して?』
ニッコリと笑った顔は可愛かった。だけど何が大丈夫なのか、何で大丈夫なのか良く分からない。埃を取ってくれたにしても色々とおかしい。
なんて考えていたら、急に女の子が崖の方に向かって走り始めたから俺かなり焦ったね。当たり前な話、崖に向かってニコニコ手を振りながら走るか?普通??
「危ないっ!」
自転車から降りて崖に向かって走る女の子の手を掴もうとしたら、こう煙を掴むっていうの?すぅって正に消えたのよ。目の前で。呆気に取られて少し停止したけど、直ぐに崖下を覗き込んだ。ガードレールに手を置いて血眼になって下を見たけど、何処にも女の子の姿もなければ形すらなかった。
その時、さっき思っていたことが頭の中に浮かんできた。
「やっぱり、幽霊…だった?」
人じゃこんな芸当は出来ない。何よりもこんな山道に女の子が一人でいる時点で人じゃないってなんとなく頭の中で考えていたじゃないか。
変に納得した俺は倒れた自転車の元に向かう。咄嗟の事で倒した自転車を起して跨ぐ。ふと不思議な事に気がついた。女の子に太腿を叩いてもらってから背中が軽い、変な声もしなくなっている。そして此れ幸いにと俺は帰路を急ぐ。
結構暗くなってから俺はやっとの思いで家に無事辿り着く事が出来た。さっきまで感じていた肌寒さも今となっては本当に蒸し暑い。鞄を早々に部屋に置き、汗を流すべく俺は風呂に入った。
暫くして俺は風呂上がりの一杯(あ、牛乳ね)を飲むため居間にラフな格好のままぺたぺたと歩く。冷蔵庫を開けて目当ての物を見つけるや正式な態勢で一気に飲み干した。
「ゴクゴクッ…っかは~生き返る。」
「ほっほ。美味しそうに飲みよるねぇ。」
俺の飲みっぷりを聞いていたみたいで居間でお茶を飲みながらのんびりとしているばあちゃんに笑われた。笑われたっつーか微笑まれた。別にいつものことだし気にとめることもない。照れ笑いしながら夕飯まで部屋に籠ろうとしていたが、先程の事を何となくばあちゃんに話した。変な声のナニカ、女の子こと全部。
そしたら急にばあちゃん立ち上って何処かに行くかと思ったら直に戻って来た。
「…なにそれ。」
「ほら、こっちに来なさい。」
何だか良く分からない木で葉っぱが沢山ついた枝を持って。言われるがまま、ばあちゃんの傍に寄ると頭から背中、腰元にかけて2,3回払われた。
一体何事なのって聞いたら、ばあちゃん曰く“やまけらし様”に俺は会ったらしい。
ばあちゃんの話によると。背中に落ちてきたモノは俺を向こうの世界に引っ張ろうとしていたかなり性質の悪いモノで、そのままだったら俺はめでたく此の世からいなくなっていたらしい。
そして峠の途中で出会った女の子が“やまけらし様”だそうだ。
“やまけらし様”は山の神様の子供で、全部で12人いるらしい。
普段は人に対して何かするでもなく、山の中を遊び回っているだけだそうだが、俺に憑いたモノが余程悪かったのかそれを払ってくれたそうだ。有り難いという気持ちと、流石っていう気持ちが産れたね。
有り難いのは悪いモノを取り払ってくれたから、流石というのは山の神様の子供であって力があるという所。
で、無邪気で純粋な“やまけらし様”はきっと、とんでもないものを背負っているお前が可哀想に見えて取ってくだすったんじゃろう…との事だった。
話を聞けば聞く程、俺は“やまけらし様”に恩返しがしたくて仕方なかった。恩返しっていうのも変だな。お礼をしたいが適切かこの場合。
「ばあちゃん、俺“やまけらし様”にお礼したいんだけど…。何がいいかな、何すれば喜んでくれるかな?」
「ほっほ。昔は12足の草履をお供えしていたと聞いた事があったの。」
「草履か…ありがとう、ばあちゃん。」
後日、テンション高めで草履を探しに出かけたけど、何処にも草履なんて売ってやしない。この現代で草履なんていう江戸の香り溢れる品物は見付り難いようだ。そもそも漸くあったとしても小さい草履でなく大人用の大きい物。
項垂れ見つけた大きい草履を憎い眼差しで睨み、俺は溜息を吐いた。さて…どうするかお礼も出来ないなんて悲しすぎるっ。
とぼとぼと自転車を漕いでいた時に“やまけらし様”の姿をもう一度思い出してみた。確か着物でなく現代風の服装で現れていたっけ…。
そこで俺の脳内に電流が走り閃いた。
お小遣いが少なくて2足しか買えなかった動きやすい子供用のスニーカー。ちょっとずつお礼をする事になるけど仕方ない。
買った次の日、早速お供えしようと鞄の中に突っ込んでいると珍しくばあちゃんが部屋に訪ねてきた。
「おや。いいお供え物が見つかったみたいねぇ。」
「うん、お陰さまで。」
「もしや、お供えした後に確認しようとしてるかえ?」
「ばあちゃん…なんで分かるの?!確かに朝お供えして、下校の時確認しようとは思ってたけど。」
「やめとき。」
何でっていう俺の言葉は次のばあちゃんの言葉で言えなくなってしまった。
「身を持って分かってると思うけど、あの時間帯に山を越えるのは良くないねぇ。気持ちも分からなくはないけど次の日の朝に確認しなさい。」
ほっほと笑いながら帰るばあちゃんに俺は無意識に生唾を飲み込んだ。表現し難い雰囲気に臆したとも言えるかな。
俺はばあちゃんに言われた通りに峠の中腹の草むらの中に靴をお供えして、次の登校中に確認する為に山を越えた。すると綺麗に2足のスニーカーは消えていた。
次の週も、また次の週も綺麗に靴は消えていた。
誰かに取られたり、捨てられたりっていう考えは思い浮かばなかったな。そんな風には見えなかったから。…根拠はないけど。
本当はちまちまとお供えしたくないが、少ないお小遣いをやり繰りしての事だから仕方ない。でもちゃんとなくなっているスニーカーを見る度に俺は喜んだ。
動きやすいスニーカーを履いて山の中を楽しそうに走り回っている“やまけらし様”を想像するだけで顔がニヤけちまう。
「また、会えないかな~…。」
淡い気持ちを抱く俺の登校ルートは自然と山越えの道になっていた。
◆◆◆
ここまでが長い前フリ。俺が体験した話だ。
次に始まるのは今現在、進行形の話し。
俺の淡い気持ちが実ってしまった話だ。
◆◆◆
長いようで短かったお供えも今日で最後。俺は最後の2足を峠中腹の草むらの最早お決まりになった場所にお供えした。
折角の最後なのでパンパンッと手を叩いて今迄のお礼を“やまけらし様”に言った。
助けてくれて有り難うなど、気に入って戴けていますかなど色々。最後の最後に疚しい気持ちが燻ぶるが何とか押えこんだ。
「おっしゃ行くかっ。」
止めといた自転車に跨って山越えを開始する俺。立ち漕ぎで叫びながら登る姿はさぞおかしなものだろうけど心の中がぽっかぽか暖かくなっている今なら全然気にしない。つか元から車も人通りも少ないから恥かしがることもないけどさ。
思えば今日は終業式だった。
軽めじゃない校長の話し、大量の夏休みの宿題。面倒なこと尽くしだったこの日は帰れる時間が早い。当たり前だって言う前に授業らしいものも無く担任からも夏休みに付いての軽い注意染みた話を聞くだけだった。
全部の事が終わるまでそんなに時間はかからない。現に午前中に全て終わったからだ。
明日から待ちに待った夏休み。はしゃぐ気持ちが自然とペダルを漕ぐ力に変わる。
「(おっ、まだ日が高いから山越えしてみっか。)」
友人と昼飯食いに行っても良かった。しかし俺は今朝お供えしたスニーカーが気になって気になってそれどころじゃなかった。適当に理由付けて自転車群から離れる。
付き合い悪な~、また明日な~って言われながら別れの挨拶してシャカシャカ漕ぎまくる。
何時の日かのようにコンビニでポカリと昼飯を適当に購入して山越えの道に自転車を走らせた。
流石に今日はまだまだ日が高い。聞える蝉の鳴き声もヒグラシじゃない賑やか通り越しての五月蠅い声が山中に響いていた。ミンミン、ジージー、シャワシャワ、うっさい。
「あ゛あぁあ!! 頑張れっ俺!!!」
幾分慣れた山越え道も峠の頂上付近はまだまだ辛い。唸る様な掛け声を上げてキコキコ立ち漕ぎ。あの事件が起きた場所も難なく通過し、息切れしながら頂上に辿り着いた。一回、呼吸を整え一気にシャーと下降する。風を付き抜ける感覚は気持ちが良いし、涼しくて好きだ。…汗を掻くのは此の際もう本当に諦めるとしてな。
甲高いブレーキ音を掛ける前にゆっくりと速度落とし停止する。
近くに足を下ろして見てみれば朝にお供えしていた靴は綺麗に無くなっていた。草が倒れた後が何ともリアル。起き上ろうか、まだ倒れていようかという微妙な態勢だった。
「持ってってくれたのかな…“やまけらし様”、喜んでくれたかな。」
俺は独りごとを呟き、自転車から降りた。そしてお供えした場所をまじまじと見ようと腰を屈める。倒れた草を撫でれば自然とニヤついてしまう。楽しげに駆け回りながら遊び回る女の子を想像して、またニヤけた。単純に嬉しいなと思ったから。
そんな俺が花を撒き散らしながらボーっとしている時に背後から大きな音が突然聞えた。
ガッチャンと自転車が倒れたらしき音に思わず肩をビクつかす。そして嫌な汗が背中に滲み出て来た。
まさか…またヤバいもんに憑かれちまった!?ってな。恐る恐る振り返る。正直見たくなかったけど自転車乗らないと帰れないっていう変に冷えた事を考えていたから余計にだ。
俺は意を決して勢いよく振りかえった。
目の前にいたのは半透明の幽霊的なものだったり、何か良く分からないおぞましいものでも無かった。
「…大丈夫、ですか?」
違う意味でオドオドと声を掛けた。
俺の声に気付いたのか女の子は俺を見詰め、ニコリと笑う。見た目も何も最初に見た“やまけらし様”が其処に居た。また会えたのは嬉しいけど、これまた不思議な場面で会ってしまった。
倒れた自転車の横に足をペタンって地面に付けて座っている女の子。明らかに走り回っている最中に衝突してしまった様子が窺えた。相変わらず、俺がキョドっていると女の子はキョトンとした顔で見上げている。そして立ち上って走り去ろうとしたのかな?パタパタとまた崖に向かって走り始めたが、直ぐに止まって蹲っちまった。
蹲るというかしゃがんだが正しいか、この場合。
理由は考えなくても見て分かる。
「靴紐、解けている…いますよ。」
流石に神様だから丁寧語になっちまう。つか仕方ない、寧ろタメ語とか恐れ多いだろ。
小さい背中越しに眺めれば靴紐に四苦八苦しているのか一生懸命、結ぼうとしていた。誰しも靴紐が解けた靴じゃ走り難くてしょうがないよな。
俺は数分悩んだ後、女の子に近付いた。
『?』
「えっと、失礼します。」
一応、一言掛けて俺は女の子もとい“やまけらし様”の傍に屈み、手を伸ばした。その間も女の子は首を傾げ此方をじーっと見詰めてくる。視線を気にしつつ、俺は若干震える指先で靴紐を綺麗に結び直した。
結び終えた途端、俺を見て靴を見てまた俺を見た女の子はニコリと笑ってくれた。良かったと思っている間にも女の子は立ち上り、俺の周りをぐるぐる駆け回り始めた。
喜んでくれているっていうのは一発で分かる。
「あ。先日は危ない所を助けて戴き有り難う御座いました!!」
呆けてる場合じゃない。折角また会えたのだから俺は早急に当人にお礼の言葉を言った。人生一番じゃないかって言う位の綺麗な御辞儀付きで。
別に目を瞑らなくてもいいのに俺はきつく目を瞑った。するとクスクス可愛い笑い声が耳に入ってくる。片目だけで前を確認すると女の子はやんわりと笑っていた。
『どういたしまして。靴、ありがとう。みんな喜んでるよ。』
俺は気付くと御辞儀の態勢のまま顔だけ前に向けていた。今思えばカッコ悪い態勢だったなと思うぜ。
そして女の子は笑いながらまた崖に向かって走り、消えてしまった。今度は恐い気持ちも焦る気持ちも浮かばない。変わりに浮かんできたのは 良かった っていう感謝の気持ち。
その後、何事もなく山を越えて自宅に着いた。
適当に荷物をベッド近くに放り投げて、そのままベッドにダイブを決めた。枕に顔を埋めれば自然と女の子の満面の笑みが浮かんでくる。
「また会いたいって思ったらバチ当たりかなー…。」
感謝してもしきれない。ずっとお礼もし続けたいけど、やっぱりまた会いたいっていう煩悩が出てきた。
夏休みもまだ始まったばっかりだ。
俺は夏休みの宿題とカレンダーを見合わせて心此処に在らず的な溜息を吐いた。頭の中はあの子で一杯だ。宿題なんか手につきそうもない。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この作品は別の投稿サイトに投稿していた作品を修正したものになります。はじめましての方は、はじめまして。この文章どこかで…って思った方引き続きよろしくお願いいたします。
では、異種間恋愛が三度の飯より大好き担々狸の作品今後ともどうぞごひいきに。




