派遣聖女は公表しない 〜責任はお取りしませんが、そのバグ(魔力回路)、なおしておきましたわ〜
「……ふぅ。これでよし。07:10の爆撃(予約投稿)、完了ですわ」
魔力端末(PC)のエンターキーを静かに叩き、私は満足げに息を吐いた。
王国魔法訓練校、Eランク治癒術士のユリカ。それが私の表の顔。
だが真の姿は、夜な夜な禁書(WEB小説)を執筆し、魔力回路を書き換える『聖女』。
私の目的はただ一つ。責任の重い正社員になどならず、時給2,000魔石の派遣仕事で「執筆時間」を死守することだ。
「ちょっと、ユリカ! またそんな難しい顔をして魔導端末を睨んで。あなたみたいな『無能』が、そんなの使いこなせるわけないじゃない」
背後から突き刺さる、耳障りな高笑い。クラスメイトのステイシアだ。
彼女は借金まみれのくせにプライドだけは高く、大公家の正社員の座を狙って血眼になっている。
「ええ、ステイシア様。私、派遣希望の身ですから、難しいことはよく分からなくて……今日も勉強させていただきますわ(棒)」
「ふん、自覚があるならよろしい。私はあなたと違って、大公家の正社員になって『特別魔石』で人生一発逆転するんだから!」
……ああ、ステイシア様。
大公家の現場は「冬は極寒、夏は灼熱」の魔力炉。責任だけは一丁前で、一度入れば二度と出られない終身刑のような場所。
借金返済のためにそこへ突っ込むなんて、まさにバグだらけですわね。
「それでは、本日の実技試験を始める! 課題は『魔力回路の修復』だ!」
教官の合図とともに、ステイシアが鼻息荒く端末に向き合う。
だが、数分後。
「な、なによこれ! 画面が真っ赤!? 動かない! 意味がわからないわよ、このポンコツ端末ぅ!!」
ステイシアがパニックになり、デタラメにキーを叩く。
魔力回路が過負荷で火花を散らし、暴走を始めた。
教室中にアラートが鳴り響く。
「ひっ、暴走!? 誰か、誰か止めて!」
教官たちが駆け寄るが、複雑に絡み合った古代語のバグを前に立ち尽くす。
私は、おどおどしたフリをしながら、掃除用のハタキを持って彼女の端末の横を通り過ぎた。
(……やれやれ。メイン回路がオフのまま、タイマーだけが空回りしていますわね。美しくないわ)
私はハタキを振るうフリをして、指先で一瞬だけ端末に触れた。
脳内で古代語をチェックし、一撃で書き換える。
――修正完了。
「……あれ? 止まった?」
ステイシアが呆然と画面を見つめる。
暴走は収まり、回路は何事もなかったかのように、グリーンライトを点灯させていた。
「す、すごいぞステイシア! まさかこの複雑なバグを一瞬で直すとは!」
「え? あ、あ……ええ、そうよ! 私の隠された才能が目覚めたみたいだわ!」
教官の絶賛に、ステイシアが速攻で手柄を横取りする。
私は後ろで「ステイシア様、すごいです〜(棒)」と拍手を送りながら、心の中で微笑んだ。
(ええ、どうぞその手柄、持っていってくださいな。おかげで大公家への『推薦』は確定ですわね)
三か月後。
ステイシアは意気揚々と、地獄の魔力炉へと旅立っていった。
「さよならユリカ! あなたは一生、安い派遣でくすぶっていなさい!」
私はその背中を、慈愛に満ちた目で見送った。
時給2,000魔石。残業ゼロ。責任なし。
私は、執筆のためだけに用意された「最高の現場」へと向かう。
「さて、今日の現場も最高にドロドロしていましたわね。これを『禁書』の悪役令嬢のエピソードに書き換えれば……またPV(魔力)が跳ね上がりますわ」
ダメなら、別の現場へ行けばいいだけ。
私は自由な翼を広げ、今日も07:10の爆撃に備えるのだった。
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
責任ある立場も素敵ですが、私はユリカのように「自由」と「執筆時間」を愛する生き方に憧れます(笑)。
もし「派遣聖女ユリカの次の現場が見たい!」と思っていただけましたら、評価や感想をいただけますと幸いです。




