表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実の愛は……  作者: 川崎 春


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

その4

 サンフォール侯爵が捕えられ、ベスティア大聖堂に送られる半年前。


 王妃は、名をシスルと言う。

 シスルは末の姫として家族に愛されて育った。控えめでありながらも理性的な姫だった事から、大勢の信頼も集める事になった。結果、王家はシスルを何処に出しても恥ずかしくない姫として、隣国の王妃に推した。相手国もそれを信用して受け入れを決めた。同盟関係は、より円滑になっていくと誰もが思っていた。


 彼女が控えめで理性的な姫だったのは、結婚式までだった。


 同盟国の第三王子・ロウラン。王太子ゴウランと違い、絶世の美姫だったとされる母の特徴を色濃く残したその姿に、シスルは見惚れた。初めての恋が、自分の伴侶ではなくその弟だったと知った時、彼女は夫となる人の横に並び立ち、夫婦の誓いを立てようとしていた。


 ゴウランも美丈夫ではあるが、父王に顔立ちは似ており鍛えているだけあって筋肉質だった。姿絵で何か違うと感じたが、それが何だったのか、その時になって分かった。


 とはいえ、シスルは結婚を了承して嫁いだ身。ゴウランとの子は生まねばならなかった。シスルはゴウラン似の第一子を愛せなかった。ロウランの特徴が少しでも出てくれていたら……そう思ったが、そうではなかった。

 第二子は愛せた。自分に似ていて、ロウランの色を纏っている。なんて可愛い子供なのだろうと思った。抱きしめ、頬ずりをし、その笑顔に満たされた。

 やがて……彼女の中では第二子が王となり、それを見守る自分と再婚したロウランという構図が出来上がっていた。


 そのために動くシスルは、ロウランに近づく女性に容赦しなかった。

 一曲ダンスをねだっただけの令嬢が馬車の事故に遭い、流通の事で話し込んだだけの伯爵夫人の腹の子が流れた。ロウランは、やがて夜会にも公の場にも姿を現さなくなった。


 そんなシスルの夫であるゴウランは、生まれながらに王となるべく育てられた。

 国民の幸福こそ己の幸福だと考えている。それには重責が伴い、国政は己の感情よりも優先順位が上に来る。それが人として正しいのか間違っているのかは、彼には分からない。ただ、感情の起伏は穏やかで冷静な性質でもあり、その在り方に不満はない。

 婚約者には、似た価値観の者を望んでいた。隣国の姫だった頃のシスルにはその素質があったから選んだ。ところが、この国に来た途端にシスルの感情は、結婚と同時に別人であるかの如く強く出るようになった。


 おかしいと気付いても、ゴウランはシスルに強く出られない。何故なら、彼女の罪の証拠はなかなか見つからないからだ。しかも、子供は二人とも自分の子供で、しかも王子。隣国の王となった彼女の兄は彼女を溺愛していたので、いつも気にかけている。蔑ろには出来なかった。


 スパイをもぐりこませ暗躍するシスルの尻尾を掴めないまま時間が経過していき、ゴウランはシスルを自分の妻というよりも、怪物のように考えるようになっていった。とうに情はない。どちらかと言えば、嫌悪や恐怖の方が大きい。

 愛らしく大人しいが、いざという時には自分の意見を言える愛らしい姫。そう信じて縁を結んだのに何故こうなってしまったのか、ゴウランは分からなかった。


 離縁するには正当な理由が無く、第一王子はとにかく側から引き離し、ゴウラン主導で教育を施している。第二王子もそうしたかったが、シスルが手放さないからそのままになっている。


 ガウランは打つ手を模索しているが、芳しい成果はないままだった。


 いつまでも夢見る乙女のような可憐な王妃に対して、言い知れない恐怖や違和感を感じる者は、城内の武官、文官、そして貴族にも居るが、それを口に出来る者はいない。生まれてから死ぬまで王族と言う最も高貴な存在に、物申せる社会ではないのだ。

 しかし城や貴族社会の目に見えない閉塞感は暴発寸前の様相だった。


 そんな時、第二王弟だったホウランから、数か月後に帰国するという手紙が来た。

 ホウランは、ベスティア教の巫女王(みこおう)と神託結婚をした。世界一高い霊峰の山頂に、ベスティア大聖堂がある。その霊峰の麓に城を構え、大聖堂への出入を厳しく管理しているのが、ベスティア聖国である。


 国ではあるが、聖国は都市国家で、領地としては都市一個分程度しかない。

 この国には、神官と巫女となる資格のある者しか市民権を持っていない。彼らには、依り代ないし宣託を得る資質が必須となっている。つまり、ベスティア神を降臨させるか、その声を聞く能力だ。

 生まれながらにしてその能力の高い者は、神の声を聞き自然に聖国に集まると言われている。

 国の統治は、代々神託で選ばれた神官ないし巫女が王、もしくは女王となり、神託によって選ばれた伴侶と結婚することで成り立っている。これは神託結婚と呼ばれており、ホウランはこれによって今代の巫女王の王杯に選ばれたのだ。


 聖国の者は滅多に外に出て来ない為、ホウランとは今生の別れだと思っていたゴウランとロウランは、驚きながらも嬉しく思い、出迎えの準備をした。


 ホウランは数人の神官を連れて帰国した。

 王妃似でロウランと瓜二つのホウランは、笑顔で兄弟との再会を果たした。ホウランとロウランは双子なのだ。違いがあるとすれば、ホウランが眼鏡をかけているところだろう。

 シスルはホウランを見て一瞬驚いた後、慌てて王妃らしい笑みを浮かべて歓迎した。


 今回の帰国は、ベスティアの市街地再開発の寄付に対する感謝の意を示すものだった。大勢の貴族が寄付を行った事から、出身国が違う神官達はそれぞれ母国に感謝の意を伝えに旅立っていたのだ。


 宴がつつがなく終わったその夜、三兄弟は王の居室で人払いをして話をしていた。

「兄上の頼みだったので視ましたが……王妃は落ち人()きです」

 ホウランの言葉に、ゴウランもロウランも厳しい表情になる。

 落ち人憑きとは、違う世界の記憶を持って生まれて来る者を指す。

 ホウランは神官として、神の瞳を降ろす事ができる能力を修行で身に着けた。神の瞳を降ろしている際に目の色が少し変化するのを誤魔化す為に、眼鏡をかけている。


「念のためにと無理を言ったが、そうだったか」

 ガウランは酷く落胆してそう呟く。

「前世の一生分の記憶は、本来の魂の性質を歪めます。しかしその性質を隠すので、意図して見つけるのはなかなか難しいのです」

 神の目を降ろすと言うのは人の身には過ぎた力で、ホウランは使い過ぎれば失明する。他の神官や巫女も同じだ。だから、必要に応じて短時間しか使用しない。だから落ち人憑きを見つけ出すのは至難の業なのだ。


「……さて、どうしたものか」

 顎を撫でながらガウランが呟く。

 あちらは異世界という全く違う場所の知識を持っていて、それがこの世界に無い事を知っている。行動を起こされてもすぐに気づけず、あちらに主導を握られてしまう。

 それで国が混乱し、時には滅び、人が大勢死ぬ。この世界では災厄と認識されているものだ。


「落ち人憑きは、神の裁きから逃れられません。どこで死のうとも、結局はベスティア神の裁きを受けます。生きたまま裁きを受けるなら、ベスティア大聖堂に連れて来る必要があります」

「神は知っていると言うことか……」

 ガウランの問いにホウランは頷く。

「はい。落ち人憑きの運命はそういうものです。逃れる術はありません」


 ホウランはガウランとロウランを見て言った。

「王妃は、できるだけ早くこちらに連れてきて頂きたいです。ただ、穏便に済ませる方策はそちらで行ってください。私は既に聖国の巫女王の王配。一国に肩入れする事はできませんので」

 シスルは王妃だ。しかも隣国の王の妹姫でもある。更に二人の王子を産んだ国母。最終的にシスルが神罰を与えられるのは確定していても、その過程で国や人々がどうなっていくのかは現状、ガウランの采配でいいとホウランは言ったのだ。

 本当なら神の代行者としてすぐさま連れて行きたいのに、譲歩してくれているのだ。


「落ち人憑きの災厄は、できるだけ早く止めなければならんな」

 ガウランはしばらく目を閉じて考えてから言う。

「伏せたままにしたい。王子達の未来に影を落とす事になる」

 落ち人憑きの出た家系では、落ち人憑きが出やすいという迷信がどの国にでもある。実際には、裕福で地位の高い家に出やすい以外の特徴はない。特に王族や高位貴族に出やすいのは事実だ。


 だから王族は子の誕生後、ベスティア大聖堂の神官や巫女を誕生日の式典などに招待してその様子を見させるくらいだ。そこで発見されれば、神官や巫女の適性があったとして引き取ってもらう。そういう流れがあるのだ。

 しかし、ホウランが神官の素養を持っていたことから、確認をしていない。そして隣国も同じく第一王女が巫女であったことで未確認だ。神の代行者の兄弟姉妹は、落ち人憑きにならないと根拠なく信じたのだ。


 そこからの話は早かった。ホウランはガウランの親書を携え、隣国へも赴いてシスルが落ち人憑きであることを伝えた。隣国の王は酷くショックを受けていたが、すぐにガウランに協力することを了承した。

 そして分かったのが、ロウランに懸想し、第二王子をロウランの子だと妄想して育てているという狂気と、それ故に大勢を傷つける女の姿だった。


 古参の侍女達は必死に隠していたが、王に話を聞かれた事で安堵したのか、長年の苦しみを滔々(とうとう)と語った。


 彼女達曰く、特別なことのない日常が、彼女の考える幸福に含まれていないというのが最も恐ろしかったと言うのだ。それどころか、シスルは刺激を受け、強い感情がうごかない日常を不幸だと考え、人を害してきたというのだ。


 王女の時代から勤めている侍女達は、この国に嫁いだ彼女の認識をだいぶ前から変えており、誰も彼女を敬愛すべき主とは考えていなかった。


 王妃となって国から選ばれてきた当時は、栄誉とシスルへの敬意があった。

 しかし暫くして、母国からやってくる者達の何人かが、唐突にシスルの『お気に入り』になった。

 当初、古参の侍女達は密かにそれに嫉妬していた。王女の時代から慎ましく大人しいシスルは、長く仕えている侍女を特別扱いしたことがなかったからだ。

 しかし、お気に入り達は短ければ数日、長くとも三ヵ月しない内に消えていく。彼女達は気づいたのだ。……お気に入りは捨て駒なのだと。


 シスルが古参の侍女達をこれらに巻き込まなかったのは、自分の当たり前の暮らしが崩れてしまうからだった。……彼女達は、シスルが過不足なく暮らすのに必要な道具でしかないが、便利な道具は代替が利かないから物騒な事案に関わらせていないだけ。粗相をすれば捨て駒にされる。侍女達はそう認識していた。


「シスル妃殿下は、ロウラン殿下を愛しているご自分がお好きなのです」

 盤石な地盤の上で悲恋に酔って踊る王妃。神の裁きが刻々と近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ