第11話:やっぱ鈍器でしょ
女性職員からの説明のあと、筆記試験を通った六人で連れ立ってダンジョンへと向かった。
日本探索者協会浅井支部のダンジョンは軽トラダンジョンと同じE級なので恐れる必要はないのだが、他のダンジョンに入るのは初めてなのでちょっと緊張する。
そして五分ほど歩くと無骨な建物が見えてきた。
「ダンジョンゲートはこの中にあります。以降は勝手な行動は慎み、絶対に担当試験官の指示に従ってください。従わない場合は最悪探索者免許の取得が永久にできなくなりますのでご注意下さい」
ダンジョンゲートは協会の建物の裏手にあった。
高さは三メートルほどだが、頑丈そうな塀に囲まれ鉄門が設けられており、E級ダンジョンには似つかわしくない強そうな探索者が二人、門番のように立っていた。
「お。きたきた。今日は六人か」
「平日だし、ちょっと少ないですね~」
「高木さん、高森さん、今日もよろしくお願いしますね」
最初、警備の人かと思ったが、試験官兼護衛の人たちだったようだ。
よく見ると、奥に揃いの装備を着た人が別にいるから、あちらが警備の人か。
こちらの二人はダンジョン用に開発されたバトルスーツを着ているが、お揃いではない。
「これからダンジョンの中に入るが、初めての奴はいるか?」
興味深く装備を見ていると、質問をされたので反射的に……。
「あ、はい。オレは初めてです」
と素直に答えると、みんなの視線が集まった。
あれ? 実技試験初めてなのオレだけ?
「そうか。なんかそれにしては落ち着いているな。年の功か?」
いや、まぁたしかに話しかけてきた試験官と同じぐらいの歳だろうし、多少は社会経験を積んだことも役立っているのだろうが、年の功とか言われるほどの年齢でもない。
かと言って落ち着いている理由がプライベートダンジョンを持ってるからとか絶対言えないし、不本意だが適当に愛想笑いを浮かべておいた。
「ははは。冗談だ。気を悪くしたなら悪い。だが、ダンジョン内ではいかに冷静さを保てるかというのも重要な要素なんだ。期待しているぞ」
「はぁ。まぁ頑張ります」
対応に困っていると、女性職員が話し始めた。
「高木さん、それじゃぁ引き継ぎよろしいですか?」
「あぁ。了解した」
「それでは皆さん、あとはこのお二人の指示に従って実技試験をお受け下さい。なにかあればこの二人が対処してくれると思いますが、ダンジョンでは何が起こるかわかりません。自分の番が終わったからと言って油断することのないようにお願いします」
女性職員はなにか資料を渡すと、それだけ言って引き返して行った。
「よし! じゃぁ、名前を呼ぶから返事してくれ」
顔を見て資料の名前と情報を照らし合わせているのだろう。
ゆっくりと点呼を終えた。
「これで全員だな。すぐに試験に入りたいところだが、まずは軽く説明をしておくか。霧島さんは始めてだったしな」
「はい。一通りは予習してますが、抜けがあると怖いので説明は聞きたいです」
「あぁ、わかってる。じゃぁ高森頼んだ」
「え!? 俺ですか!? 流れ的に高木さんが説明する感じじゃ……」
「つべこべ言わずに早くしろ!」
「わ、わかりましたよ。まず、試験でやってもらうのは主に三つです。それで……」
念の為に説明を聞いてみたものの、前もって調べた内容と変わりはなかった。
主な試験内容は三つ。
一つ目は索敵。
これはとても簡単に思えるが「ただし敵に見つかる前に先にこちらが見つける」という条件が付くので意外と難しいらしい。
まぁオレ、自分のダンジョンでなくても、ミニレーダーと簡易マップが使えるようなのでたぶん大丈夫だろう。
二つ目はE級ダンジョンで最弱の魔物との戦闘。
この後武器が貸し出され、その武器を使って実際に魔物と戦うことになる。
これはよほど運動神経が悪かったり、魔物を斃す覚悟ができていないとかでなければ一番簡単かもしれない。だって動きの遅いスライムとかだから。
そして三つ目が難しいのだが、人型の魔物との戦闘だ。
浅井ダンジョンだと確かゴブリンという緑の肌をした小さな子どもぐらいの魔物が相手になるはずだ。
大きさ的にはまさに大人と子供なので余裕に見えるのだが、小さくても魔物は魔物。膂力は一般的な成人男性を上回っており普通に強い。
うちのダンジョンでいうところのコボルトがこれに当たるので、試しにコボルトとはスパナで戦ってみたのだが、最初は全然歯が立たなかった……。
管理者ローブを着ていたので負けはしなかったが、普通の装備で戦っていたら大怪我をしていただろう。
最終的にはスライムでレベルをあげたので安定して勝てるようになったが、そりゃぁ飛び込みでは中々試験に受からないわけだと納得した。
ちなみに試験で怪我を負った場合は、日本探索者協会所属の回復スキルを持った職員が無料で回復してくれる。ただ、それで治らないほどの大怪我を負った場合は保証されないので楽観視はできない。
なかなか厳しい話だが、しかしこれに同意しなければ試験を受けられないので、探索者を目指すなら受け入れるしかない。
「さて、それじゃぁそこの棚からそれぞれ使いたい武器を選んでください」
「カッコつけずに自分の扱える身の丈にあった武器にしておけよ」
高木さんの言う通りだな。
本音を言えばロングソードなどの刀剣類を使ってみたいが、オレが選ぶのはメイスだ。戦闘初心者なら鈍器一択だろう。
多少でも練習したことがあるなら槍も選択肢に入るが、槍は懐に入られると弱いし、何より膂力に勝る人型の魔物と対する場合、掴まれたら終わりだからゴブリン相手の場合は他の武器の方がいい。魔物は死を恐れないために、槍などは捨て身で掴みに来るからだ。
最初は距離を取って戦えるから槍にしようかと思ってたのだが、なにそれ怖いって思ってやめにした。
というわけで、オレはオーソドックスな長さ60センチメートルぐらいのメイスをチョイスした。
手に取ると中々の重さに感じるが、今のオレならダンジョンに入ればこれぐらいなら全然大丈夫だ。
ちょっと気になったので周りの受験者を見てみると、男は一人を除いて四人とも剣を選んでいた。気持ちはわかるが大丈夫だろうか。
しかし、意外だったのが唯一の女の子の選んだ武器だ。
最初は槍を選んだのかと思ったが、よく見ると薙刀だった。
どうやら経験者らしく、薙刀を手にすると具合を確かめるように軽く振っていたのだが、動きが素人のそれじゃなかった。
「選んだな。武器を扱う時は周りに注意しろよ」
「じゃぁダンジョンに入りますよ~!」
いよいよダンジョンだ!
と言っても、オレは毎日ダンジョンに入ってはいるのだが、他のダンジョンに入るのは初めて。
年甲斐もなくワクワクと期待に胸を膨らませながら、皆の後に続いたのだった。
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