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10.後日譚:初めてのデート

初めてのデートは映画を見て、軽くご飯の予定だった。

「めちゃ降ってる」

映画館を出たところで、バケツをひっくり返したような雨に襲われた。俺も緋村(ひむら)君も傘を持っておらず、呆然と空を眺めるばかり。

「どうしようか……」

このまま軒下で雨宿りかと悩んでいると、コンビニが見えた。この距離でもギリ行ける。

「ちょっと待ってて」

緋村君を残して俺は猛烈ダッシュした。けれど傘なんて1本たりとも残っておらず。

ただ雨に濡れて緋村君のもとに戻ると緋村君はスマホを眺めていた、多数の女性に囲まれながら。

あの軒下に戻るには勇気がいるなぁと雨に濡られていると、緋村君がこっちに駆け寄って来た。

実録版水も滴るいい男になるからやめてーっと俺も緋村君のもとに近づくと、緋村君にぎゅっと手を掴まれた。

「置いてくの、ひどい」

非常にしょぼんとされてしまった。垂れ下がった耳が見えるようだ。

「ごめんね」

背伸びして緋村君が下げた頭を撫でると、

「走る」

「え?」

グイっと緋村君に手を引かれ、俺達はそのまま雨の中を走り出した。


「これ、使って」

5分ほど走ってたどり着いたのは、緋村君の家だった。びしょ濡れのまま上がるわけにはと玄関でためらっていると、浴室まで緋村君に運ばれてしまった。

「緋村君先に使って」

「俺は適当にするから。風邪ひくから、温まって」

そのままドアを閉められてしまった。俺に選択肢はないらしい。


案の定、借りた緋村君の服は俺にはぶかぶかだった。

ほかほかになってそっとリビングに顔を出すと、着替え終わった緋村君が髪をお団子にしてコンロの前に立っていた。

「あの、ありがと。温まった」

「ん」

襟ぐりの開いたシャツに髪も上げてるから、なんていうか普段より色っぽい。

見てはいけないものから顔を背けるように窓の外を見ると、まだ雨は止んでないらしい。

「そっち、座ってて」

緋村君に言われるがまま、ソファの前に座った。

「これ」

緋村君がローテーブルに置いたのは、ホットコーヒーだった。

「ありがと」

「ん」

コーヒーには生クリームが乗せてあり、それがカフェで食べた巨大プリンを思い起こさせた。

ふっと笑っていると、緋村君が首を傾けた。

「巨大プリンを思い出したから」と俺が言うと、「……あのときは俺も必死だったから」と緋村君は少しだけ照れた。

そんな緋村君に、俺も照れた。


コーヒーを飲み終わり、少しうとうとしそうになっていると、ぎゅっと体を包まれた。

「さむい……」

暖を求めた緋村君が、俺に引っ付いてきた。

「お風呂入ってきたら?」

「やだ」

駄々っ子緋村君は、長い手足を俺に絡めて来た。

どうしてだろう。お風呂に入ってないのに緋村君からはいい香りがする、コーヒーの香りだろうか。

すっかり目が覚めた俺は歯を食いしばってまっすぐに前を向いていると、俺の肩にあごをのせた緋村君に呼ばれた。

「なに?」

「こっち向いてほしい」

さすがに、前を向いたままではダメだった。

いち、に、とゆっくり緋村君の方に顔を向けたが、待てなかったようだ。

首を伸ばした緋村君に唇を重ねられた。

「……」

「遅い」

「ごめん」

額を引っ付けてきた緋村君は「もっかい」と、しばらく離してくれなかった。

「ドキドキしてる」

息が整っても俺の胸に耳を当てたままの緋村君は、そのまま顔をすりつけて来た。

緋村君は日々かわいくなる。もう離れられないくらいに。

「……今日泊まる?」

「泊まらない」

でも甘えられても、なんでも通るわけではない。

目をランランとさせ甘えていた緋村君は、ブーたれてしまった。

これはこれでかわいい。

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