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最愛の舞姫とつかみ取った星降る夜。愛が完結する。

星降る国物語 最終話 星降る国物語


アンテは星の宮に他人が浸入したのに気づいた。ミズキの寝台に近づくとミズキの肩をつかんだ。

「ミズキ。賊が侵入してきた。もしもの時はこれを使え」

そういって小刀を握らせた。

「アンテ?」

不安そうなミズキにアンテは一瞬抱き寄せる。

「大丈夫だ。私がついている」

そういうと入り口の壁に身を潜ませた。

一人…二人…三人…か?

アンテは暗闇の中で目測する。

一人目が勢いよく突入してくる。それを一瞬で切り交わす。

ちっ、と小さな舌打ちが聞こえたかと思うとミズキの悲鳴が上がった。

「来ないで!」

「ミズキ!」

とって返すが時間が間にあわない。

ドサリと音が聞こえる。ミズキが殺されたかと胸をわしづかみされたように感じた。

近寄って倒れた人間を抱き起こす。

「ミズキ?!」

「私は生きてるわよ」

震えた声が聞こえる。

殺された賊には先ほど渡した小刀が刺さっていた。急所をついたらしい。

ミズキを黙って抱き寄せる。

しかし無事を喜んでいる暇はなかった。

すぐ近くに気配を感じたアンテは切り返すと一刀両断した。

三人の賊の退治は終わった。まだいるのか?

気配を研ぎ澄ますが何も聞こえない。

終わった。アンテは胸をなで下ろす。そのときミズキが嘔吐する音が聞こえた。とっさに駆け寄ると背中をさする。ミズキは初めて知るむせかえった血の匂いに耐えられなかった。

「大丈夫だ。すべて吐き出せ」

ミズキはアンテに服が汚れると切れ切れでいう。

「こんな汚れはすぐに洗い流せる。大丈夫だ」

アンテの言葉にミズキは安堵したが生理現象は終わらなかった。やがて嘔吐が収まって来ると今度は涙がこぼれてきた。

「いや…」

ミズキの小さな言葉にアンテは耳を傾ける。

「もういや…。家に帰りたい。お父さん…お母さん…助けて…」

繰り返して言う言葉にアンテは耳を疑った。

「両親がいるのか? どこに住んでいる?!」

アンテはすぐにでも願いを叶えてやりたくて問いかける。

「この世界には…いないわ」

途切れ途切れにミズキが言う。

「お前は転移者なのか?」

アンテの意外そうな言葉に意識がぼんやりしてきたミズキが反復する。

どういうこと?

ミズキは遠い意識の向こうで思うが言葉にならず意識を手放した。


目が覚めるとそこはいつもの星の宮の部屋ではなかった。正確に言うと人馬宮ではなかったという事であるが。

「青竜宮?」

ぼんやりと言葉にすると離れたところからアンテの声が聞こえてきた。

「その通りだ。しばらくこちらに居を移すことにした。人馬は今清掃中だ」

清掃中という言葉に血を思い出したミズキは知らず知らず体を抱きしめる。

「大丈夫だ。一連の事件はさっそく警備の手が届いている。そのうちに宮殿内の一味が一掃されるだろう」

「知ってたの?」

「まぁ。優秀な皇太子だからな。意のままにならない私と身分の定かでないお前のことがうっとうしかったのだろう」

「優秀って自分でよく言うわよ」

思わずつっこむ。

「いつもの調子に戻ったか」

朗らかなアンテの声にミズキも安堵する。

そういえばとミズキは回想する。

「転移者って?」

「流れる星につかまってこの国に落とされる人間のことだ」

「それが私ってこと?」

「恐らく、はな・・・」

「この国には幸せな恋人たちの間に星が降るといわれている。それにちなんで星降る国とも言われている」

「って私たち恋人たちじゃないわよ」

「手痛いな。そこそこ情は移らないか?」

「まったく」

「私は・・・」

もごもごとアンテがつぶやく。

「なに?」

「なんでもない」

きっぱりと言ってアンテは顔を上げる。

「調べ物をしてくる」

その言葉に一瞬不安げな顔をミズキはしたがすぐに元に戻した。

「大丈夫だ。警備は厳重になされている。もともと星の宮の警備は宮殿以上だ」

そういってアンテはあっという間に星の宮を後にした。

「アンテのいけず。ここに一人残していくなんて」

ミズキの瞳から一滴涙がこぼれた。

朝出て行ったアンテは夜中になって戻ってきた。

「何してたのよ」

「起きてたのか」

「当たり前でしょ。鉄砲玉みたいに飛び出したんだから」

「すまない。思い出したものがあったから」

そういってアンテは古めかしい箱をミズキに差し出した。

「箱?」

「開けてみるといい」

ミズキがそっと箱を開けるとそこにはほのかに光り輝く石があった。

「これは?」

「わが王家に代々伝わる星の石だ」

「星の石?」

「この石はこの国に降りてくる星の意思を表しているという。星の意思に強く願えばなんでも叶えてくれるそうだ」

「叶える・・・?」

「お前をもとの世界に戻せる、と思う。私とお前が強く願えば」

「どうしてアンテが願えるの? 落とすんじゃなかったの?」

「そんな賭けはもう捨てた。お前には苦労をかけたからな。お前さえよければそれでいい。私はお前を大切にしたい。それだけのことだ」

「アンテ」

「さぁ。こっちにこい」


「今からするの?」

「早いほうが何事もいい」

薄明りのもとで立っているアンテの表情はなかなか判別しにくい。どんな顔をして言っているのか気になったがとりあえず寝台に上に身を起こしていたミズキは降りてアンテのもとへ歩いた。

アンテは優しい表情をしていた。少しさびしげな子犬のような瞳がミズキには痛かった。このままこのアンテを放り出していっていいのか。ミズキは悩む。

「どうした。帰りたくないのか?」

ぶんぶんとミズキは顔を横に振る。

星の石を二人で持つ。それは少し軽くて本当に星の石なのかわからないとミズキは思った。だがせっかくのアンテの心を無駄にしたくない。ミズキは痛む胸のことを無視しながら帰郷の念を込めた。

「どうか。元の国に帰してください」

「すべてはミズキの思うままに・・・」

二人の声が重なる。すると星の石が急速に輝き始めた。ミズキは体がひっぱられる感覚に襲われる。

「アンテ!! 私は・・・」

言いかけた言葉はアンテに届かなかった。

ミズキは何度失ったであろう意識を手放した。


ぽとり、雫がミズキの額に落ちた。

朝だった。見慣れた天井ではない。森の中にいた。木々から落ちた朝露がかかったのだ。

「ここは・・・」

知っている。私の国だ。世界だ。幼いころから遊び場にしていた森。

ミズキは裸足であるのも構わず森を飛び出し家に向かって走って行った。


一人、星の宮にアンテは残された。人知れず我慢していた涙が流れる。

アンテの手の中には割れた星の石があった。半分はミズキの手の中なのだろう。

行ってしまった。あの美しき舞姫は。

もう誰も好きになれない。ミズキの代わりはいない。それでよかった。

ミズキさえ幸せなら。アンテは涙をぬぐって星の宮を後にした。

宮殿に戻ったアンテは誰の制止も聞かずがむしゃらに政務をこなしていた。

まるでぼろぼろになるのを待っているかのように。

そんな日々が続いていたがふっと傍らに龍笛が落ちていた。

ミズキ・・・。

声にならない声で名を呼ぶ。

いつしかいつもの定位置で龍笛をアンテはふいていた。胸を焦がすような切ないさびしげな旋律をアンテは奏でる。

佳境に入ったところで音色は急に止まった。力なく龍笛がころんと落ちる。

「なにしてるのよ。舞えないじゃない」

目の前にミズキがたっていた。転がった龍笛を拾ってアンテに渡す。

「帰ってきたわよ。あんなにびーびー泣くんだもの」

「だれがびーびー泣いていた」

「嘘よ。私がびーびー泣いたの」

「ミズキ?」

「両親には会えたけどそこにはあなたがいなかった。偉そうで勝手で傲慢なあなたが。何かがちがったの。一座にいるときに思っていたのじゃない。あなたと過ごした星の宮の生活が恋しかった。アンテともう一度けんかしたかった」

ミズキのほほに涙が伝う。

「無性に会いたいと願ったらいつしか星の宮に戻ってきていたの。そしてあなたを見つけた。もう二度と離れたくない。残念なことにね。指一本触れないで落としたのよ。私を。ここまで聞いてわからないの?」

ミズキ! 一瞬アンテが叫んだかと思うと次にミズキはアンテの胸に抱かれていた。アンテが強く抱きしめる。その存在を確かめるように。

「会いたかった。会いたかったんだ。ずっと」

アンテの肩が小さく震える。泣いている。

ミズキはおずおずと背中に手を伸ばす。その時ミズキの手の中にある星の石のかけらが光った。アンテの懐に入っている片割れがふよふよ浮いたかと思うと合体した。とたんにまばゆい光が二人に降り注ぐ。

「星だ。星が降ってくる」

アンテとミズキの上ならず国中で星が降った。民はみな知った。新たな王と王妃の誕生を。伝説の支配者の誕生を。

「よくやった」

不意にアンテたちの茂みの後ろから声が聞こえた。アンテの父親。現王だ。

「ミズキというのだったな。ありがとう。息子に星を降らせてやって。私と正妃ではできなかった星降りを成し遂げてくれて」

「父上・・・?!」

アンテがびっくりして問い直す。

「私もこの茂みの抜け道は知ってるんだよ。アンテ。私はこの星の宮を熟知している。お前以上にな。星が降って近道を使ってここに来た」

「では候補から星を降らせたら正妃なるという式は・・・」

「ないのだよ。そんな式は。王家には簡略化した伝統はあるが星など本当には降らない。伝説の王と王妃の誕生以外には。私と正妃は簡略化して言い伝えとなった式を執り行っただけだ。お前に教えた式はただの形だけなのだよ。ほら。よく見ておきなさい。お前たちの手で降らせた星を。この国を平和に導く星を」

星はいつまでも降ってくる。まるでアンテとミズキを祝福するかのように。

二人はずっと微笑みながら見つめあっていた。幸せが胸いっぱいにあふれる。つらいこともあった。怖いことも。だがそれ以上に通じ合った心が忘れさせてくれていた。


アンテとミズキが降らせた星はいつまでも長く降りつづける。

この星を目撃した国民が宮殿近くに集まり始めていた。

「この星は朝には消える。今から国民に挨拶してきなさい。宮殿に多く駆け付けているはずだ」

アンテの父王は優しく促す。

はい、とアンテが強くうなずく。

「行こう。ミズキ」

ひっぱった手をミズキが握りなおす。

「別にあなたがどうしてもっていうなら話は別だけど?」

「どうしても」

笑いかけながらアンテはミズキに言う。

ミズキも微笑う。

「じゃ行ってあげる。その前にドレスぐらいプレゼントしてよね。このままの服じゃ恥ずかしくて出られないわよ」

「服ならすでにある。ミズキ。私が星の宮が開かれた時から準備していたものだ。アンテから受け取りなさい」

「王様?」

「年老いた王の贈り物だ。受け取りなさい」

「ありがとうございます。アンテ早く頂戴よね。シュリンはいるの? 着方法忘れたんだけど」

「ああ。シュリンをすぐ呼びにやる。だからいい加減歩いてくれ。国民が待ちくたびれてる」

「わかったわよ」

アンテとミズキは歩き始めた。星がもたらした少女は王となる青年と恋におち無事星を降らせた。

この国の平和はしばらく約束されたものになった。


星降る国の幸せは今にもアンテとミズキの手から零れそうだった。

多くの幸せを分け与え平和な国にするという王と王妃の物語はこれから始まる。


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