プレリュード
初めまして、ロリコンバレーと申します。私の作品をクリックしていただいてありがとうございます。よかったら最後まで読んでいってください
———ウィーン某所、スポットライトに照らされ、鳴り止まぬ拍手喝采に包まれる一台のグランドピアノ
そこには、年端もいかない少年が一人、88本の仲間と共に佇んでいた。
***
「…おはよう、母さん」
気だるそうに自分の部屋からリビングへ降りてくる高校生
「あら、もう起きたの?おはよう鍵介」
その高校生の名は、音羽鍵介という。ごく普通の高校生のつもりらしい。彼には誰も知らない過去がある。彼には人生そのものとも言える特技がある。あった、の方が正しいだろうか
「じゃあ、行ってきます」
今日は高校の入学式。桜並木と春の陽気に背中を押され、胸が躍る。未来への希望を背負った若者たちが、新たな一歩へと踏み出す日だ。僕には別に夢も希望もないので、あまり心地の良いものではないが。
なんてことを考えていたら、もう学校の門の前だ。今日からまた鬱屈とした日々が始まると思うと、吐き気がする。でも、日本にいる以上仕方がない。少しは頑張ろう。
***
「今日はもう終わりだ、帰ってもらって構わないぞ」
担任となった先生からそう告げられる。大して中身のない雑音のような校長の話、興味もないクラスメイトの自己紹介。その他オリエンテーションを済ませた頃には、もう時計は昼過ぎを指していた。
「少し探検してみるか」
食欲もなかったので、学校を見て回ることにした。他の生徒たちは各々グループを作り、遊びに行く様子が見られた。僕には無縁な世界だ。
職員室、技術室、美術室などの設備を見て回った。平凡な学校だ。そして僕はある一つの教室が目に留まった。
【音楽室】
その教室の札には、そう書かれていた。他の教室とは一風変わった雰囲気で、少し興味が湧いた。鍵が開いていたので、教室に入ってみた。座席や楽器などが置かれており、普通なら教卓が置かれておるところには大きなグランドピアノが一台、置かれていた。
僕は気がついたら、ピアノの椅子に腰掛けていた。年季の入った漆黒の塗装、木が見えている鍵盤、長年大切に使われてきたんだろう。どんな音を奏でるのだろう、僕は気になって仕方がなかった。
ベートーヴェン 月光ソナタ第一楽章
湖畔に差す一筋の月光のような儚さが窺えるこの作品が、僕は好きだ。
演奏し終わったが、物足りない気がした。同じ月光ソナタの第三楽章も演奏してみた。激しい感情の波を表しつつも、未来へ向かった力強い気持ちが込められているこの曲。弾き終わった頃には僕はすっかり月光に飲み込まれていた。
ふと我に返り、慌てて椅子から立ち上がった。扉の方を見ると、一人の女子生徒がこちらをじっと見つめていた。
「…聴いてたの?」
僕は聞いた。
「ちょっとだけ」
僕は恥ずかしくなった。無我夢中でピアノを弾いているところを人に見られてしまった。穴があったら入りたい。
「ピアノ、上手なんだね」
「別に…」
「とってもよかったよ!月光、私好きだよ。」
「そうなんだ…えっと、その、もう帰るね」
僕は逃げるようにそそくさと荷物をまとめた。
「あ…!ちょっとまって!もうお昼ご飯って食べた?」
「まだだけど…」
「よかったらさ、どこかに一緒に食べに行かない?私友達できなくて一人でさ〜」
「…え?」
「いやだからさ、一緒にお昼ご飯食べに行こうって!」
「あ、その…えっと…」
「よし!じゃあ行こ!何食べたい?」
「…なんでもいいよ」
「じゃあ一緒に帰りながら探そ!あっそうだ!私新沼彩絵!よろしくね!あなたは?」
「あ、その…音羽鍵介…です。」
「けんすけ!よろしくねけんすけ!私のことは彩絵でいいよ!」
「あ、はい、彩絵さん」
「さん付けしないでよ…まあいいけど。じゃ、行こ!」
***
どうしてこうなった
なぜ俺は初対面の女の子とご飯屋さんに来ているんだ。ああ…あの時ピアノなんて弾いてなければ…
「にしても本当にピアノ上手だったね!習ってるの?」
「まあ…」
「へ〜、やっぱさ〜…結構長くやってる?」
「小さい時は結構やってました…」
「羨ましいな〜!あんな上手に弾けたら絶対楽しいもん!」
「そっか」
そうだ、彼女は知らないんだ。好きなことは好きなことであって、道具じゃないことを。
ここまで読んでくださりありがとうございました。はじめてなので文章が下手くそかもしれませんが、ちょくちょく更新していくので、よかったらまた足を運んでいただけると嬉しいです。