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俺の腹パンは人を殺せる

 ──この世界は貞操逆転世界。


 リスナーのほとんどが女性で、別に男性の趣味嗜好が入れ替わってるとかも無い。俺の知ってる女性像がこの世界でも適用されている。

 違うのは性的価値観とか権力……?


 勿論女性の中にも剣術が好きな人は勿論いるだろうから、恐らくコメントで数少ない称賛をしてくれているリスナーは、そういうことなのだろう。


 だから剣術の食いつきが悪いのか……ッ。

 なんたる不覚。見るべきところを見誤っていた。



 これは俺の下調べ不足と、この世界に対する認識が甘かった証拠である。熱意が先行するあまり、大局を見ることができていなかった。


 じゃあ尚更……剣術だとかワクワクする冒険にハマらせるチャンスってことだよな? 

 俺は腹パンだけに頼りはしない。一つのコンテンツは、飽きられると同時にオワコン化してしまう。

 永遠に同じネタを擦る配信者に未来はない。


 だけど……腹パンを嫌悪することも無いな。あくまで俺が提供するコンテンツの一つだという認識を持っておけば問題はない。


 感情的には嫌だけどな!!!!!!


 というわけで、俺は剣を鞘に納めた。

   

 同時に現れるゴブリン。

 一体どれほどお前たちの同胞を屠ってきたことだろうか。

 

 雑魚キャラ扱い。しまいには職人たちの手によってパンにされたり音MADにされたりする始末。

 だがお前たちは探索者を殺すことにいつだって必死だ。


「その敬意に評して、ここからは拳で抵抗させてもらう」


 ──俺が《即撃》の自動腹パンしかできないと思ったか?

 確かにスキルではないから威力は落ちるが、それでも何千何万と腹パンをしてきた。


 その動きは体が憶えている。


「グギャァ!!」

「ふんっ──!」

 

 俺の頭をかち割らんとゴブリンが放った棍棒を左手でむんずと掴み、俺は気合いを入れて奴の土手っ腹に拳を叩き込んだ。

 

「グギャァァァァア!!!!」


 別に回転を加えたわけじゃないのにクルクル高速回転して吹っ飛んだゴブリンは、無事に(大嘘)壁に体を激突させてご臨終した。


コメント

・うおおおおおお!!!

・これは美しい腹パン

・腹パンを愛し腹パンに愛された男

・何だかんだ言って腹パンが好きなんだな、やっぱり

・BPM!BPM!BPM!Foooooo!!!!!


 コメントが盛り上がる中、トラップルームの罠はまだまだ続く。

 続いて現れたゴブリンを見て、俺は声高らかに宣言する。


「かかってきな。どいつもこいつも俺の拳のサビにしてくれるわ!」


コメント

・ノリノリ……じゃない!?コイツ泣いてる……よほど剣のサビにしたかったんだろうな……

・めっちゃ苦渋で草

・この部屋じゃ拳が一番効率良いもんな……わかるよ

・お前は誰に腹パンしてるんだ?それはきっと……自分だ

・泣きながら腹パンしてる構図面白すぎでしょwww


 ぜったいコイツらに剣の良さを教えてやるゥ……!!!!

 俺は固くそう誓った。


 


☆☆☆


「脱出完了」


 予定通り《《三階層》》くらいスキップできたな。

 ってことはここは十四階層か。


コメント

・トラップルームのクソすぎる点って、自動で何階層か奥に飛ばされるところだよな

・普通は一階層ごとに対策立てながら進むのにw


 俺としてはありがたいけどな。

 勿論まだ余裕のある階層だからそう言えてるだけで、中層を超えた先の深層で同じ罠にハマったら余裕で死ねるわ。

 悪辣な罠ほど人間心理を突いてくるんだよな。


「ここは……森のフロアか」


 中層の厄介ポイントPart2。

 俺の前世の記憶が通じない点である。


 浅層ではフロアを記憶していたこともあって、サクサク攻略が進んだのだが、中層は入る度に構造が変わるという害悪な仕様がある。

 それでも出現する魔物は変わってないのがギリギリありがたい点か。


コメント

・そういえば夢咲ってパーティー組まんの?

・ソロで中層ってSランク探索者以外あんまり聞かんよな

・パーティー組めば良いのにw


「なんでソロって? まあ、初配信で言ったように実力を証明するのに丁度良いってのが一つ。あと、これで女性探索者と組んだら、俺が否定したことと矛盾してしまうのもある」


 俺は世に蔓延る寄生型茶番男性配信者を否定したくて、この場に立っている。

 貞操逆転世界の価値観を把握した今、あのような茶番が需要あるということは理解はできるが、感情論として嫌だ。


 そのため、俺が女性探索者と組んでいたら、世の男性配信者と同じように見られるのは当たり前だ。たとえ組んだ女性探索者に実力があっても。



 ──まあ、これ実は建前でな。



「俺がパーティーを組まない最大の理由はな」


コメント

・もしかして女性にトラウマあるとかか……?

・言いたくなかったら言わなくても良いんだぞ

・さすがにデカい理由ありそうだな


「──俺の自動カウンタースキルってね、味方の放った流れ弾を回避した時も判定あんの。だからな、俺がパーティー組んだらメンバー腹パンしちまうの。おけ?」


コメント 

・心配返せやカス

・こ こ で も 腹 パ ン

・明らかに腹パンが縛りなの草なんだが

・メンバー腹パンは草

・絵面が面白すぎるなw

・デメリットスキルすぎるwww

・初 配 信 で 言 え


 うるせぇやい!! 俺だって昔は憧れてたんだよ!!

 パーティーで探索して、友情や絆を深め合いながら強大なボスを倒したり、時には友情を超えて恋愛に発展したり……とかさ!!


 俺の最大なトラウマはな!!

 スキルを把握してない前世の初心者時代に、組んだパーティーの女の子を思いっ切り腹パンしちまったことなんだよ!!!!


 女の子には誠心誠意謝ったお陰で快く許してくれ、俺が女子に腹パンをしたという炎上案件の問題が世間様に出回ることは無かったが、もしこれがスキルレベルを上げても気付かなかったら……ゾッとする。

 俺の腹パンは人を殺せるからな。


コメント

・お前だから配信時間いっつも《《深夜》》なんだな

・深夜にダンジョンに潜るやつ普通はいねーからな……

・無作為に抽出ならぬ無作為に腹パンする危険性とかw


「そういうわけで、俺はソロ配信者で生きていくわけよ。みんなもダンジョン内で俺と出会ったら全力で逃げてくれよな!!」


コメント

・自制の効かないタイプの殺戮兵器だ

・フロアボスよりたちが悪い

・確か人に向かってスキルを放った場合って思いっ切り威力軽減するんじゃなかったっけ?


「お前、あの威力軽減したところで病院待ったナシだろ」


 できればダンジョンで他の探索者と出くわさないことを祈るしかないな!!

 まあ、渋谷ダンジョンは意外と過疎ってるし平気やろ。



 

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