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全体攻撃。それに対する腹パンの回答

「萎えたンゴ」


 何が腹パンだふざけんな。

 どいつもこいつもそんなに一撃で倒す瞬間が見たいんか?

 苦戦した末の勝利の快感と!! 待ち受けるスリル!!


 それこそが!! ダンジョンにおける戦闘ってやつじゃねーの!?!?


 ……まあ、俺が言っても今更説得力ないんですけどね。


「くそぅ……どうにか……どうにか《即撃》が効かないタイプの魔物が登場する階層に行かねばならぬ……」


 この前、フロアボスを一撃で倒してしまった俺は、盛大なる萎え落ちを果たし、三日間ほど自宅でふて寝をしていた。

 その間にも俺の二回目のダンジョン攻略は、明らかな悪意を持って(俺目線)切り抜かれており、無事に登録者は再び爆増した。


 1145148人→8101145人。


 まさかの登録者数八百万人超えである。

 流石に異常だと思い調べてみると、どうやら腹パン音MADが海外でひたすら大バズリを果たしたらしい。


 ──果たすなボケ。


 それにより海外ネキたちが大量に俺のチャンネルを登録した結果、意味の分からん登録者数になったのである。


 たった二回の配信でこれだけ注目されていることにビビるかと言われたら──


 ──いやビビらんわ。

 アイツら、俺を見てるんじゃなくて腹パンを見てるんだもの。


「アイツらは俺を通して腹パンというコンテンツを鑑賞してるんだ……」


 なにせ海外での俺の呼ばれ方は──、


☆☆☆


「はい、中層です。サクッと進んでいきたいと思います」


 視界に映る光景は、満天の青空に広大な草原。

 生い茂る植物たちは、空気中に含まれる《《魔力》》を吸収したことにより青くキラキラ光っていて、非常に幻想的だ。


 ここは渋谷ダンジョン十一階層。

 

 中層が鬼門と言われている理由に、このフィールドの変化が挙げられる。

 つい十階層までは石畳の広がる陰気臭いダンジョンだったのに、今広がっているのは青空と草原。


 というか何でダンジョンという地下空間で空が見えてんだ? という尤もな理由については、なんでも空間が切り取られているからだとか。

 つまりは、現実世界とダンジョンは地続きではなく、一階層ごとに別の異次元空間に進んでいる……という説が噂されている。


 まあ、そんなことはどうでもよくて、重要なのは《《中層から魔物が複数体現れる》》ようになるという点だ。


 付随して、今までには無かった罠の類も出現するようになり、全体的な難易度がかなり底上げされている。


コメント

・サクッと進めるな

・仮にも中層だぞw

・探索者の上位15%しか辿り着けない世界


 え、そんな低いの? マジで??

 男性配信者の流入で探索者のレベルが低くなったとは言っても、まさかそんなに影響あったとは……。

 前世じゃ中層は当たり前のように突破するものがほとんどだった。……確かに浅層と違って死亡率は桁違いに跳ね上がるが、それだけに地位と名誉と金のリターンが破格だった。

 

 貞操逆転世界としての違いをまさに今理解した気がする。

 

 ……女性に襲われて、貞操逆転世界なんだ! って理解する展開が普通だと思うけど、生憎大体家に引きこもってるし、家から出る時はダンジョンしか行ってないせいで実感が難しいんよな……。


 ちなみに、どうやってお金得てるの? って思うかもしれないが、実は魔物を倒すと魔石と呼ばれる石が落ちる。

 俺にはよう分からんけど、どうやらそれがエネルギー問題に一役買っているようで、受付に魔石を提出すると純度に応じてお金が貰えるシステムになっている。

 純度は魔物が強ければ強いほど高純度になっていく。


 あとは宝箱から出る魔道具だったりアイテムの換金だな。

 

 ……そんなわけで配信を始めた俺だったが、昨日の海外バズの影響もあってか、同接は50万人を記録していた。

 意味分からん数字すぎる。


 コメントは日本語に自動翻訳されるが、ニュアンスから海外リスナーも多くいるようだ。


コメント

・BPMだ!

・これが話題のBPMだね

・ジャパニーズ腹パンチマシーン!Foooooo!!!!!

・BPMってなんや?

・腹パンマン(Belly Punch Man)の略らしいで

・草


「誰だ変なあだ名付けたやつぅ!!」


 ──海外では俺はBPMと呼ばれている。

 謎にスピードが速そうなネーミングではあるものの、実態は腹パンマンの英語版らしい。……フザケルナ!


 くそっ! ジャパニーズニンジャとか言われたら普通に嬉しいのにっ! どうしてもBPMは受け入れられない……!!


 キー! と地団駄を踏んでいると、ゴブリン三人組がやってきた。


 地団駄を踏む俺。見守るゴブリン。


 すると、ゴブリン三人組は俺の真似をして地団駄を踏み始めた。


「キー!!!」

「「「グギャギャ!!」」」


コメント

・なんこれ

・中層からは魔物の知能が上がる、って言われてるけど逆に下がってんぞコレw

・ゴブリンと仲良くするなw


 何だよこのカオスな状況は!!! と正気に戻ると、同じタイミングでゴブリンたちも正気を取り戻したようで、地団駄をした際に落とした棍棒を拾い上げて、三人一辺に俺に襲いかかってきた。


コメント

・流石に一斉攻撃はヤバくない?

・カウンターって大体一つの攻撃にしか反応しないよね?


 そう、大体のカウンタースキルは、一つの攻撃にしか反応せず、同時攻撃や全体攻撃に弱い特徴を持つ。

 だがしかし、俺の《即撃》は固有スキルかつ、スキルレベル六。そんなヤワなスキルじゃあない。


 相変わらず体が硬直して先手攻撃が取れない中、俺は歌い出す。


「朝は──」


 ──パンッ! 「ギャッ!?」


 ──パンッ! 「ギャオッ!?」


 ──パッ! パンッ! 「グギャッ!!?」


 三位一体の攻撃をすべて躱しきった──と同時に発動した《即撃》によって、神速の腹パンチが《《三発同時に》》ゴブリンたちに撃ち込まれる。

 リズムに乗った拳は、そのままゴブリンたちの腹を《《順番に》》大穴を空け、呆気なく絶命した。


「俺の腹パンは──全体攻撃だ」


コメント

・人力で音MADを再現するな

・お前自分から素材提供してるじゃねーかw

・曇りなき眼だ……多分コイツ諦めてるな

・マジで早すぎて見えなかったんだが?? スロー機能で見えないのヤバいでしょw


 複数の攻撃? 全体攻撃?

 俺の《即撃》は、躱した攻撃は平等にカウンターする。

 つまりは、躱した時点で全体にカウンター判定が付与される。よって、目には目を。全体攻撃には全体攻撃となって順番にカウンターが撃ち込まれる。

 なぜ同時に攻撃判定が送られないかは俺も分からないけれど、そのお陰で人力音MADの再現に成功したためヨシとしよう。


 ……別に俺はネタに走ってるわけじゃねーよ。

 腹パンが原因で登録者が増えたからには、少しはネタにノッてやるのが配信者としての責務だと思ってる。


 だからネタに走るのはコレで最後。

 俺は真面目に剣術でリスナーを虜にするんじゃい!!!


「よし!! それじゃ気を取り直して中層を攻略す──」


 ──一歩踏み出した瞬間、足元にあったはずの草原が消え、がらんどうと空いた空間が下に広がっていた。


「ちょっと等速直線運動してきます」


 そんなことを言い残しながら、俺は中層最悪の罠──《《落とし穴》》に落ちていった。

 

 ……ニヤリと笑みを残しながら。


コメント

・加速するだろ



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― 新着の感想 ―
登録者数の数字草
一定の速度に達すると加速しなくなるけどそこまで落ちる気か。。。
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