先手攻撃?禁止です
「夢咲さんですか? ……あの……腹パン、応援してます……!」
「ア、ハイ」
受付嬢に言われた言葉がコレである。
俺を応援しろよ、俺を。なんで腹パンのほうを応援してんだよ。まるでそっちが本体みたいじゃねーか。
「アレって……! 腹パンの人……!」
「すごい……! 腹パンマンだ……!」
「彼の奏でる"音"には芸術があるよ」
誰が腹パンマンじゃボケ、殺すぞ。
初配信から三日経ち、再び配信をしようと渋谷ダンジョンに行ったら嫌な注目の仕方をしている。
心なしか女性のみの探索者の数が増えているような気がするけど、まあたまたまだろう。……んでもってカッコいいとかじゃなくて腹パンの人ってなんだよ。
「いや別にチヤホヤサれたいわけじゃないから良いんだけどさ……」
人気が出ないよりはマシと思うしかあるまい。
あくまで俺の目的は、血湧き肉躍るかつてのダンジョン配信文化を取り戻すこと。尚更手段に拘ってちゃ目的を達成できなくなってしまう。
「だとしても腹パンマンは無いわッ!! ──ふんぬっ! 《即撃》!」
──ドシャっ!!
と嫌な音がしてゴブリンが爆散する。
場所は一階層。
配信を始めるのは前回の八階層からにしようと思っている。なにせ、知ってる場所を知ってる方法で倒して行く配信は飽きられてしまうからだ。
別にダンジョン探索に配信の義務は無いし、それなら前回の階層からの続き、という形式を取ったほうがいいに決まっている。
「……威力がアホみてぇに上がってる……」
俺は腹パンをした拳を擦りながら口元が引き攣っていた。
レベルアップで能力が上がるのは当然だが、当たり前のように腹パン……つまりは《即撃》も威力が上昇していた。
極めつけは《《コレ》》だ。
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《反撃の心得》……後の先を極めた者に贈られるスキル。
【効果】
・魔物とエンカウント時、このスキルの所持者は先手行動が取れない。
・回避率3%UP。
・カウンタースキルに強力な補正が掛かる。
・反撃時、全能力15%UP。
・このスキルは自動で発動する
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「カウンタースキルに《《強力な補正》》と、反撃時全能力15%UP……化け物すぎる」
先手行動が取れないとかいうクソみたいなデメリットが無かったら、まさしく壊れスキルの類であり、《即撃》が主な攻撃手段の俺にシナジーが合うスキルである。
恐らく、このスキルによって腹パンの威力が異常に上昇している。
なにせ、拳が当たる前の風圧でゴブリンが爆発四散しているのだ。
──アレ? これは腹パン回避と言っても過言ではないんじゃ……。
んなわけないだろ、という冷静なツッコミは聞かざるの精神でいかせていただきます。勿論そんなわけはねーよ。
「先手行動が取れないってこういう感じなのね……」
ゴブリンが曲がり角から襲来し、相も変わらず直線的に攻撃を仕掛けてくる。こんな愚鈍な攻撃であれば、避けるどころか先手を打った攻撃行動も可能……なのだが、俺の体はまったく言うことを聞かなくなっていた。
「グギャギャギャ!!」
そして、いざ攻撃が当たる──刹那、俺の体が自由を取り戻す。
幾ら攻撃が遅いと言ったって、ここまで接近すれば防御か回避しか不可能である。
──ここで防御は……させてくれないですね! はい!
ゴブリンのパンチを華麗な横ステップで回避し──《即撃》が自動発動する。
「《即撃》ィ!」
──グシャっ!!
……なんかこの緑の化け物、毎回腹パンされるせいで愛嬌すら感じてきたよ……さすが音MAD出演率ナンバーワン魔物なだけある。
『朝は《パンッ!》《パンッ!》《パッ!》《パンッ!》チーン(ゴブリンの遺影パンが出てくる)』
自分が使われていてもなお普通に面白くて笑った音MADを思い出す。
「とはいえ不本意に決まってんじゃボケ」
☆☆☆
「今は六階層……丁度良いからもう一つの固有スキルの検証でもしておくか……」
本来一つしか授からないはずの固有スキル。
なぜか転移した影響なのか《神速》という如何にも強そうな固有スキルがもう一つ生えていた。
《即撃》が自動腹パンというデメリットがあることから、《神速》にも何かしらのデメリットはありそうだけど……真実は早めに知っておいたほうが良いということで、まずはスキル説明を見ておこう。
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《神速》……逾槭?縺斐→縺埼?溷コヲ繧貞セ励k縺薙→縺後〒縺阪k縲
【効果】
・荳?螳壽悄髢薙い繧ク繝ェ繝?ぅ繧?20%鬮倥a繧
・譌「蟄倥?繧ケ繧ュ繝ォ縺ョ謾サ謦?鴨縺ィ騾溷コヲ繧帝ォ倥a繧九?
・譛?豺ア螻、蟆ら畑繧ケ繧ュ繝ォ
※このスキルは現在使用不可となっております。
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「なんじゃこりゃぁ……」
メタクソに文字化けしてた件について。
エラー……的な感じか? まあ、現段階じゃ検証不可能ってことか……。不気味すぎて怖いんですけど。