カイテイシンデン!? カイテイシンデンじゃないか!
「あ〜、こういうパターンか」
俺は水浸しになった衣服や装備類を手で絞りつつ、全裸のまま目の前に広がる《《神殿》》を見てため息を吐く。
どうせモザイク掛けるし良いや、ってことで全裸です。決して俺が変態とかそういうわけじゃないです。モザイク強すぎて肌色かどうかすら分からんしな。
「やけに途中から魔物少ねぇしフィールドが狭いなと思ったら……こん中に次の階層の入り口があるわけだ」
途中までは順調に泳ぎながら腹パンを繰り広げていたものの、海階層と言うにはやけにフィールドが狭かった。
次の階層の入り口と関係ない場所まで進むと見えない壁にぶち当たるという特徴があるダンジョンだが、この階層だと泳ぎ出して二十分くらいで壁にぶち当たった。
狭すぎるし魔物は変なサメしかいねーし、どうも変だと思った俺が海中を探索すると見つけたのがこの荘厳な神殿だった。
「くっそ、パンツまでビショビショじゃねーか」
コメント
・コイツ全裸だったのか……
・絶対無意識なんだろうけど私らが意識する言葉選びばっかしやがって……!!
・嫌だ……抜きとうない……コイツで抜きとうない……
・腹パンシーン見る度に正気に戻るワイらである
・モザイクがゲッダンしてるの怖すぎる
・良い加減次元バッグ買えよ……
次元バッグとは通常のバッグとは違い、見た目にそぐわない圧倒的な収納量と耐水性を兼ね備えた魔導具のことだ。
時を止める効果とかは一切無い。人力で作成できる魔導具の性能には限度があるってことだな。
「次元バッグなァ……高ぇんだよ」
コメント
・安いやつでも一億くらいするんだっけ?
・買えるやん
・なんか必需品ばっかり買わないよなコイツ
「俺が欲しいと思ったものが必需品なんだよね。あと剣を買ったから次元バッグは買えません。次回の給料日に検討します」
コメント
・黙れよ
・お前の需要は聞いてないんよw
・剣と次元バッグがほぼ等価値なのおもろいwww
・検討するな
まァ、次元バッグがあったらなぁ……みたいなシーンは多々あったりする。
俺は普段食糧とか色々必要なものを入れるためのバッグを持ってるんだけど、容量不足で魔石が入り切らないこともあるし、不便であることに間違いない。
そんなことを考えながら脱いだ衣服をササッと着ていく。
もちろんずぶ濡れの衣服を着ていることもあって感触は最悪だが、折角空気のある場所に来たんだ。いつまでもモザイク配信じゃリスナーが飽きちまう。
「モザイク!! 解除ォォ!!!」
徐ろに叫びつつ【暴力的コンテンツのモザイク化】の解除ボタンを押すと──モザイクだらけだった俺の配信画面が、ようやく見たまんまの俺の姿を映した。
コメント
・スケスケじゃねーか!!!
・一生解除すんな
・またBANされるよ?
「モザイク!!!」
俺はコメントを見て速攻でモザイク化した。
……なるほどな? 前世で言うと女の子がスケスケのまま配信しようとしてるってことやんな? それだったら普通喜ぶはずなのに、なんかリスナーガチでキレてるけどなんで??
コメント
・草
・霧が晴れていくようにゆっくりモザイクが消えたと思ったら一瞬でモザイクが
・私たちは何を見せられているんだ……?
・修正版夢咲氷織
・普段は無修正……ってコト!? いらね
・ナーフしろナーフ!!
くっそ、またどうでも良いことに時間が費やされる!
一先ず乾くまで待ってから海底神殿を探索することにしよう。……俺の水魔法のレベルが高ければ一瞬で水分を抜くこともできたかもしれねーけど。
☆☆☆
二時間が経過した。
モザイクのまま雑談していた俺は、徐ろに衣服に触ると、少し湿ってはいるものの乾いていたことに気がついた。
よっこいしょ、と腰を上げて再び【暴力的コンテンツのモザイク化】を解除する。
コメント
・お、やっと探索か
・最早モザイクのほうが見慣れたまである
・モザイクの方が本体なんじゃ?
「誰がモザイクだ!! 良いからさっさと進むぞ!! ただでさえ冒険が待ってる神殿の前でお預け食らってんだぞこっちは。楽に腹パンされると思うなよ」
コメント
・ずっと苦しいだろw
・お前に繊細な腹パンができるわけねーだろ!
・繊細な腹パンってなんだよ
・こう……撫でるように……優しく……
コメント欄の罵声を華麗に無視しつつ、俺はいざ神殿に足を踏み入れる。
外側を囲むように空気の膜ができていた神殿だが、内部もしっかり空気があるようで安心。ここでいきなり水が逆流してきても文句が言えないのがダンジョンという場所だ。
まあ、流石に初見殺し過ぎるからあり得ねぇとは思うが。
「普通に考えたら次層の入り口はここにあると考えて良いと思う。だけど、ただ入り口を探すだけじゃ勿体ない。どうせなら宝を持ち帰ってこそ探索者よ」
コメント
・コイツ毎回こんなこと言ってピンチになってるよね
・危険という腹パンを受けに行ってる
・ロマンと危険を同等に考えてるよなw
「危険あるとこにロマンあり! それすなわち、危険に飛び込むことこそロマンに通ずる道である!! って誰かが言ってたわ」
コメント
・せめてお前が言えよ
・そんな夢咲みたいなやつおるんか
これは俺の師匠の言葉だ。
誰よりもロマンを追い求めていた師匠は、この言葉を吐きながら罠に毎回突っ込んで行っていた。完璧に真似することもしねーし、実力を履き違えるわけにもいかん。
この言葉を吐けるのは《《実力者》》だからだ。
実力もねぇやつが追い求めるロマンは蛮勇。自分が生き残る確かな自信と実力があるからこそ、求める夢も利益も大きくなる。
未だに師匠に及んだとは思っていないが、少なくとも危険に飛び込めるだけの実力と自信は付けられたと思っている。
だからこそ俺は──何が待ち受けているか分からない海底の神殿にワクワクしている。
どのみち次層への手掛かりはここしかない。
「よっしゃいくぞ!!!」
俺は叫びながら神殿内を小走りする。
期待と夢で胸を膨らませる俺は──カコン、という何かを踏み締めた感触を覚えた。
刹那、ゴトンッッ!! と何かが落ちてくる音がする。
振り向くとそこには、明らかに毒々しい色をしたトゲに覆われた鉄球があった。
そして、予定調和のように俺の方向に向かって一気に転がってきた。
「──あぁぁぁああああ!!!!!」
ここ平面なのに!!! ここ平面なのにぃ!!
なんで追いかけてくるんだよ!!!
コメント
・草
・言わんこっちゃねぇw
・毒々しい鉄球とか初めて見たぞwww
・紫色に鉄球は草
「こういう罠に毒は邪道だろうがボケェ!!!」
全力で足を動かす。
神殿内の通路は狭いことはないが、いかんせん鉄球が大きすぎて通路を覆っている仕様上逃げ場はどこにもない。……くっそ、浮かれすぎて普通に罠踏むとは思わんかったわ!
よくよく考えたら神殿に罠があるのは普通でしたね、はい!
「クソッタレ腹パンさせろやクソ鉄球ぅぅう!!!」
コメント
・初めて物理で解決できないタイプの敵が来たな
・敵(己で踏んだ罠)
・球体のどこに腹があるんですかね
・お前もう一周回って腹パンのこと好きだろ
テンポ遅いけど、次話からバリバリ動かしていくゾ!