やはりモザイク……ッ! モザイクが全てを解決する……ッ!
「俺だ」
コメント
・うわぁ!!
・誰だよお前
・見えねぇ……! 何にも見えねぇ!!
・画角調整しないと全部モザイクで草
BANされた夢咲氷織です。
貞操逆転世界ってことをすっかり失念してたよ、マジで。
前世に置き換えたら女性配信者がいきなり上裸になるってことだもんな。
そらBANされるわ。これから俺のことはBAN咲って呼んでくれ。
とりあえず配信サイトに問い合わせして、色々諸々便宜を図ってもらって、俺は無事に自身のアカウントを復旧することができた。
ただし、次に同じことしたら容赦なく永久BANされるとのお触れがあったため、俺は【暴力的コンテンツのモザイク化】を発動させた上で配信をつけたのだった。
……うん、全身モザイクだわ。相変わらず。
まさかモザイク機能を真の意味で使うことになるとはな。何にも見えねぇけど。
「とりまアカウント復旧したから配信やってくぞ。色々な事情があって、この階層は全部モザイクな。お前らは広大な海でも見て楽しんでくれ。巻で攻略すっから」
コメント
・うそだろ……全部モザイク……?
・腹パンにモザイクなんていらないよなぁ?
・ちょっといかがわしくなってて草
・広大な海に似つかわしくないモザイク
「見づれぇと思うけど、まあ、俺のことはモザイク壁画だと思ってもろて」
コメント
・無理だよ(迫真)
・モザイク画に謝れ
・どこに芸術のげの文字があるんですか?
・腹パン壁画は黙ってもろて
腹パン壁画ってなんだよ。
圧倒的非難がコメントで繰り広げられているものの、海階層を攻略する上で泳ぐことは必須だし、下手に重装備で行くと自重で沈むから結局上裸になる必要は出てくる。
んでもって、モザイクを付けねぇと永久BANされるから仕方ねーよ。……いや俺の存在が【暴力的なコンテンツ】扱いされてんのはマジで納得してねぇけどな!?
「ちなみに今の俺はパンツ一丁です」
コメント
・お、そうか
・急にいらない情報出てきたな
・全身モザイクのどこに興奮要素があるんですかね
・しかもモザイクが濃いんよ。シルエットすら歪んでんねん
・私たちがその情報に心躍ると思うなよ
……明らかに男性配信者扱いされてない件。
いや、それを望んで配信してるから別に何とも思わんが。パンイチなのは本当。腹パンが効かなかったら死ぬけど、海階層の魔物は耐久力が低いから平気だと思う。フラグじゃないヨ?
「夢咲を広大な海へシューッ!」
バシャーン、と着水すると同時に俺は水魔法でちょちょいと操作し、目に空気の膜を作ってゴーグル代わりにした。
んなことできるなら息吸えんじゃん、って思うかもしれねーけど、ところがどっこい。あくまで保護膜代わりにしてるだけなので、鼻とかに作って吸ったら一瞬で消えます。
コメント
・おお、モザイクさえなかったら海綺麗だね
・モザイクさえなかったら……!!
・これ途中で何らかの理由で暴力的なコンテンツじゃない、って判断されたら夢咲詰むよな
・大丈夫。夢咲はいつでも暴力的だから
「もごもごもごもごっ!!(俺のどこが暴力的だってんだよ!)」
コメント
・何言ってだこいつ
・お前目に膜張れるくせに口に張れねーのかよ
・配信者として失格すぎるw
そういや喋れねーじゃん、と思いつつ、どのみちモザイクがある時点で配信者失格なんでサクッと攻略していく所存。
そんな感じで俺はモゴモゴ言いながら泳ぐ。
海の中はダンジョン内で無ければ幻想的な光景だと片付けられるほど、透き通った空間が広がっていた。
サンゴ礁が彩っていて、魔物ではないただの魚が悠然と泳いでる姿は、まさしく平和そのもの。
──クソデケェ鮫が近づいてなきゃだけどな!!!
泳いでいると、突如空気が歪むようなゴォォォ!! という音が聴こえてきた。
前を見ると、俺に向かって歯をむき出しにする巨大ザメが近づいていた。
ただのサメが風魔法を使うわけないし、何かよく分からない一本角みたいなのが頭に生えてるため確定で魔物。初っ端から海の洗礼を浴びる形になるが……俺には生憎と腹パンがある。
コメント
・サメやん
・夢咲のモザイクのせいで全然見えねぇ
・お前一回動くな
・てか海中でどうやって高速で回避するんだろ
・こう……人魚のように……鮮やかに……
身体能力が強化されているとはいえ、地上と同じような動きが海中でできるわけがない。
現に体に纏わりついている水が、俺本来の速度を封じ込めていた。このままだと俺はでっかい角で腹に穴を開けられて死ぬしかない。新手の腹パンで死ぬの普通に嫌だけど。
──だけど、俺には【回避】があった。
サメが迫る刹那俺の体が自動で動くと、股関節が人体の限界を超えた動きで超絶開脚を披露する。
股割りすらしてない俺にとっては激痛だが、その痛みに耐える間もなくサメが俺の股間を通り過ぎた。
「もがもご!(タマヒュンやんけ)」
そして、回避が成功したことによりサメの動きがピタッと止まり、俺は拳に力を入れていつものように叫んだ。
「もごもご!(【即撃】ッ!!)」
「ぐがぁぁぁぁあ!!!!」
拳がサメの(推定)腹に突き刺さる。
生憎と腹パンはスキルの効果により地上とまったく変わらない速度と威力で繰り出すことができる。水の抵抗も拳を止めることができない。
突き刺さった拳はサメの腹を抉ることができ、悲鳴を上げた数秒後には絶命した。
コメント
・キッショ
・ごめんけど夢に出そう
・唐突に人体の限界を超えるな
・ギュイン!! って足が上に上がったよね!?w
・なんで!!!! 足だけ!!! モザイク解除したんだよおおおお!!!!
・見たくなった……見とうなかったよ……
・なまじ足以外モザイクだったせいで余計にキモい……
なんてタイミングでモザイク解除すんだよおい!!!!
……どうやら俺が人体を超えたあの一瞬だけ何故かモザイクが外れたようで、コメント欄ではリスナーによる俺の罵倒合戦と悲鳴が繰り広げられていた。
画面を見ると再び足はモザイク化されている。
……いや、冷静に考えて、開脚速度が異常に速かったせいでモザイクが追いつかなかったとか……? 【回避】による回避はご覧の通り軽く人体の限界を超えた動きをするので、モザイク機能がそれに対応できなかった説はある。
まあまあ……別に俺は悪くないし……。
そんな言い訳をしながら、俺は再び泳ぎ始めた。