単調な配信にしないためにすべきこと
俺は無事(?)に炎上した。
夢咲氷織史上初めての炎上である。
まあ……そんなガチなヤツじゃなくて若干ネタ成分を含んでいる炎上なのだが、どうしてフロアボスを倒しただけでここまで言われなあかんのや!
「おいおいおい、俺は死んでも復活しないけどストーンゴーレムは死んでも復活するだろ?」
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・クズのセリフやん
・お前に殺されたストーンゴーレムくんの人格は戻ってこないんやぞ
・床にハの字書いてイジケていたあのストーンゴーレムくんは!
え、そんなことしてたの?
それはちょっと見てみたかったな。でも俺の命優先です。
「まあ、気を取り直して攻略していくぞ。目指せ30階層」
三十階層は謂わば節目。
中層最後の砦であり、三十階層のフロアボスを倒すと深層への道が開かれる。
前世で俺は深層をメインにする探索者だった。
あの頃の俺にはまだ到達することができていないが、新たな固有スキルもあって、レベルが上がっていけば自ずと前世の俺より強くなるに違いない……パッシブスキルが足を引っ張らなければなァ!!
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・現状深層で活動してるのって何人くらいいたっけ?
・渋谷ダンジョンにはいないよね。Sランクは最深層行ってるし
・ユキヤきゅんのパーティーメンバー二人は深層で一時期活動してたよ。限界知って引き返したらしいけど
・中層よりも何段階も難易度上がるからなぁ……
やっぱりユキヤのパーティーメンバーって強いんだな。
会った時に何となく強者特有の"余裕"を感じたのもあって、只者ではないと思っていたけども……少なくともレベルだけ見るなら俺より上だな。スキル込みだと分からんけど。
「中層だろうが深層だろうがすることは変わらねぇ。これからもリスナー諸君には熱い戦いを見せてやろうじゃないの」
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・ギャグの間違いだろ
・熱い……戦い……?
・攻略のほとんどでパンパンしてるヤツに言われたところで……
・一度でも見たことあったっけ?w
「あれ? 混沌のゴーレム戦って俺、割とカッコよくなかったっけ?」
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・混沌のゴーレムくんの可愛さで忘れたわ
・I'll be dieで沈むゴーレムくんしか知らないねぇ
お前らさァ……!!
別にそこまでして褒められたいわけじゃないけど褒めなさすぎだろうがよ。もう少し貴重な真面目系男性配信者に優しくしても良いんじゃないですかね。
ユキヤの配信見てみろよ。視聴者ゲロ甘だぞ?
まあ、あんな感じで接されるのは普通に嫌なんだけど……。
「ハァ……ほな、攻略していくぞ」
ため息を吐きながら二十階層の階段を下る。
降りた先には──マグマが広がっていた。
「あちゃー……来ちゃったかぁ……」
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・あっ……中層で最もハズレと呼ばれている階層……
・自動生成だから己の運を呪うんだな
・リセマラしたら?
リセットマラソン。
ソシャゲ的に言うならゲームデータを削除してやり直すことを指すように、中層は階層の環境がランダム生成であるため、一回その階層を出てから入り直せば環境は変わる。
フロアボスは変わらんけども。
「嫌な環境が来たからやり直します、って配信者として失格じゃねーか、と俺は思うわけですよ」
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・お前一回だけ虫いっぱい出る階層スキップしただろ
・虫系魔物出た瞬間に脱兎のごとく逃げて入れ替えたよなぁ?
・私たちは夢咲のミスを忘れないよ
・アレはアレで配信映えしたけどねw
「お前らすぐそうやって人の粗探しばっかりするんだ!!」
チッ……こういう時だけ忘れないんだよな……。
結構忘れ物したわ……みたいなテンションでさらっと前の階層に戻ったのにしっかりバレてやがる……。
実は俺は虫系魔物……イモムシとかゴキブリ系統の魔物が死ぬほど苦手なのである。蝶とかトンボとか……ギリギリ見映えのある魔物は何とか平気なんだけども、イモムシ&ゴキブリは生理的に無理オブザ無理なのだ。
配信者としての撮れ高的にな? いつか企画で絶対に挑戦するんだけども……ただの階層攻略はスキップさせていただきたい所存なのです。
確か五回目くらいの配信でやった行為だけど、よくもまあ憶えてるもんだ……。
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・ワロタw
・重箱の隅を腹パンするのがリスナーの役目
・マジで無理なものはともかく、攻略しづらいってだけでリセマラするのは確かに配信者として失格だわな
・火山とか大体嫌だろうし
・海外の配信者で《熱無効》スキル持ってるからってマグマ遊泳を試みて窒息して死んだやつがいてだな……
死に様で後悔するタイプの失敗してるヤツおるやん。
俺が虫系をスキップしたのは置いておいて、攻略難度の観点からリセマラするのは恥だよね、と俺は思っているわけだ。
まあ、何も耐性を持ち得なくて物理的に攻略できない人は除くが。
一応俺は《状態異常耐性》を持っていて、このスキルはありとあらゆる耐性を総括しているのだが、"火傷"も状態異常の類らしく、炎熱に対する耐性は持ち得ている。
とはいえスキルレベルは1だし「あっつっ!!! きえええ!!」みたいのが「うわ、あっつ! いってぇわ……」になるくらいの軽減度かな。
十分っちゃ十分だけど。
「ま、ともかく攻略していくぞ」
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・マグマが飛んできて回避したらマグマに腹パンしに行くん?
・そういや確かにw
・マグマ跳ねたら終わりやん
「ところがどっこい。自然にある環境物……まあ、この階層で言ったらマグマなんかは回避の対象外なんよね。ただし、魔物が突如現れてマグマを飛ばしてきた場合とかは──」
──言った瞬間、目の前のマグマ溜りがザバァ! とマグマを飛ばしながら、火を纏ったトカゲ──サラマンダーが現れる。
ヤツの登場によって激しく撒き散らされたマグマが俺に当たる寸前、俺はすべてのマグマの粒という粒を不可思議な挙動で回避する。
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・キモオオオオオオオ!!!!
・この世の気色悪さを合体したかのような回避
・絶対関節イカれてんだろ
・完全にゲ◯ダンじゃねぇか……
・揺れてたし回ってた……
「ギュイッ!?」
さしもの魔物も、俺の良く分からない回避に度肝を抜かれて四度見くらいしていた。
しかしながら驚いている猶予は与えさせない。
「《即撃》ッ!!」
──ドゴッ!!
一瞬にしてサラマンダーの懐に潜り込んだ俺は、右の拳で腰の入った良いパンチを撃ち放った。
「ギュァァァアッッ!!」
鈍い音が鳴ったと同時に、サラマンダーの体は吹き飛ばされ空中で消滅した。
ミッションコンプリート。
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・これには魔物に同情の余地しかない
・登場しただけで腹パンされるなんて……
・一時停止したら全部違うポーズになる高速の変態回避で殺されるの可哀想すぎる
・これ、剣で倒された魔物のほうが名誉守ってるくね?
・夢咲最低だな
「俺を褒めろッ!!!」
……回避の仕様的にああなっちまうんだから仕方ねぇだろ……しかも1%当たって若干服が焦げ付いてるし……。
マグマの一粒一粒に当たり判定があるからな……量があるんだから当然1%が当たることもある。
「ハァ……今のはサラマンダーか。中層だったらそこそこ厄介な敵だな。ドロップは渋いしすばしっこいし、マグマを飛ばしてきたりするめんどいやつ」
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・ハァ……今のは夢咲氷織か。いつでもどこでも滅茶苦茶厄介な敵だな。ドロップはしないしすばしっこいし、気色悪すぎる回避をしながら腹パンしてくるやべーヤツ
・サラマンダーって火山階層だと一番死亡率高かった希ガス
・熱耐性持ってるなら対処しやすい魔物だけど、持ってなかったらほぼ確で死なんだよな
・相手が悪かったな、サラマンダー
・てか、拳熱くないの?
「腹パン中は無敵判定的なのがあるからか熱くねーんだよな、それが。俺の腹パンは拳じゃなくて武器だから」
腹パン中のモーション時は制限を受けないという特性があるのだが、どうにも各種状態異常にも対応してるっぽくて、サラマンダーが常時纏ってる火も無効化できたわけだ。
相手が悪いってのはその通り。俺もダンジョン内で俺と出会いたくねぇもん。怖いっすわ。
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・お前だけやってることゲームなんよ
・無敵判定ってゲームでしか聞いたことないぞw
・ナーフされろ夢咲
・普通に考えて、夢咲氷織に腹パンという武器を与えたのは今世史上最大の失敗だと思うぞ、神よ
来世なんだよなぁ。これが許されてるってことは、多分仕様的にセーフってことなんだろ。知らんけど。
リスナーは腹パンを強い強いって言ってるけど、そもそも前世だと腹パンはあくまで補助武器扱いだったしな。デフォで通じねーんだもん、腹パン。
だから剣術を鍛え上げたんだけど、今世では《反撃の心得》と《心眼》という害悪パッシブスキルに邪魔されているわけだ。
最近も腹パンばかりの配信になってしまっているし、単調な配信はコンテンツ力を低下させる要因になる。再三言ってるけど。
近々企画モノの配信でもするか……。
俺はそんなことを考えながら、再び現れたサラマンダーにゲ◯ダン回避をしてから腹パンをした。