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激録!腹パンマンの素顔とは!?

 俺はふて寝した。

 再び手に入れたパッシブスキルがゴミカスすぎる事実に、俺の精神は耐えることができなかったのだ。


 うむ、やはり睡眠は良い……。  

 ショックなことがあった場合、俺はすぐに寝ることにしている。


 うじうじ悩んで解決することなんて万に一つくらいしかないし、一旦寝ることで頭をリセットすることが大事だと俺は思っている。

 まあ、俺は一晩寝るくらいじゃショックから解放されないので、気が晴れるまで無限に寝てるんですけど……。


「クソスキルを手に入れてから三日……普段の俺だったら一週間は寝込んでいるところだが、今日は給料日!!!」


 自宅で俺は叫んだ。

 隣人は出払ってるので騒音は問題なしっ!


 給料日だ。そう、給料日だ。

 配信者にとっての給料日とは、謂わば配信の収益が入る日を指す。


 別にドロップアイテムとか魔石を細々と売ってるから収益が一切ないというわけではないのだが、恐らく今日入る収益は桁が違う。

 今や俺の登録者は二千万人を超え、配信のアーカイブの再生回数はどれも一億近い数字を叩き出している……インフレすぎてやべぇぜ。


「ショック療法は散財なんですよね」


 何か落ち込んだ時に盛大に散財すると、俺は結構心が晴れやかになるタイプだ。

 凄まじくコスパの悪い趣味だと言われれば何の申し開きもできないけども、使い切れないくらいお金が入ったのなら使っちゃって良いじゃない、という心持ちですわね。


 俺はウキウキしながらスマホで口座残高を確認すると、そこには81,114,514円との数字が刻まれていた。

 

 お、おお……暴れんなよ……暴れんなよ俺の右腕。

 見たこともない数字である。


 配信した回数がたったの五回で八千万円の振り込みだ。……毎日配信なんてした月には十億くらい行くんじゃねぇかな……。

 なかなか現実味が無い数字だが、紛れもなくこれは俺が血と汗を流しながら稼いだ────うん、腹パンして稼いだお金だな。


「とりあえず装備を買いに行くか」


 流石に軽装すぎてそろそろマズイ。

 二十階層を超えてくると、いくら高レベルでもダメージを通してくるタイプの魔物が増えてくる。

 魔道具の購入は不可能でも、ドロップアイテムを利用して作られた高耐久の装備類なら買うことができるだろう。


 ヨシ! 行くか! いざ街へ!!



☆☆☆


 そんなわけでやってきました。新宿です。

 ジロジロと好奇の目線だとか、舐めつけるような視線が移動中俺に浴びせられていて、俺は再びここが貞操逆転世界であることを思い出した。


 やれやれ、この世界じゃ俺もモテてしまうのかね。


「あの人って……」

「ああ、伝説の腹パンマンだ……」

「発光しながら高速移動して腹パンしてくる物の怪の類……」

「普通に電車乗ってる……痴漢したら腹パンされそう」

「色んな意味で近寄れない」

「意外とカッコいい……」


 ──全然そんなこと無かったですわ。

 やっぱりコイツらって俺じゃなくて俺を通して腹パンを見てるよな。だって、応援してるの俺じゃなくて腹パンだもん。

 俺を見ろ俺を。

 多分リスナーは腹パンを見てるし、剣を見ろって言ったら字面通り剣しか見ないだろうからな。なんだコイツら。


 途中からはすべてを諦めて聞き流していたけれど、どうやらこの世界で俺がモテることは無さそうである。

 ……どのみち目標を達成するまで色恋沙汰に手を出すつもりは無いんだけども。


 ……せめて俺を知らない人がいれば良いんだけども、連日地上波のニュースに取り上げられているし、それは儚い希望と言っても差し支えはないだろう。


 ため息を吐きながら電車を降りると、ふと何かのメモを持っている黒髪ポニーテールの女性に話しかけられた。


「あ、あの! 夢咲氷織さんでしょうか? わたくし、週刊ストマックの田中です。少しインタビューをお願いしたいのですが……」

「あー、まあいいですよ」


 週刊誌の記者らしい女性は、ぱぁと顔を輝かせるとワタワタと慌てながらメモを確認していた。

 インタビュー系は面倒だからネット記事の類は全部断っていたが、現地取材とかなら別に気にすることもない。

 ある意味有名税でもあるし、これで俺の目標や熱意が世に広まるなら御の字みたいなとこはある。


「あ、ありがとうございます! それではあの……好きな食べ物はありますか?」

「え? あ〜、アンパンですかね」

「なるほどなるほど……」


 いきなり飛び出してきた学級新聞のような小学生質問に時が止まる俺だったが、まあ、人柄を知りたいならこういう質問もあるか……と己を納得させて答える。

 すると、女性は、たった一言しか喋ってないのに高速でメモを取り始めた。


 アンパンが好きってだけなのにそんなメモすることある……?


「続いての質問ですが……趣味はなんですか? できればダンジョン探索以外で……!」

「趣味……読書ですね。ミステリとかSFとか読んだりしてますよ」

「ほ、ほう……! ミステリ! SF……なるほどなるほど」


 再び凄まじい勢いでメモを取り出す女性。

 こんなこと聞いてどんな記事にするつもりなんや。


「では……子どもの頃なりたかった職業とかはありますか?」

「えぇ……? 医者っすかね。内科の」

「それはまたどうして……?」

「過敏性腸症候群なんで」


 お腹を下しやすい病気である。

 小学生の時は、それこそ授業中によく腹を壊してトイレに駆け込んでいたこともあって、理解の無い教師にズル休みかと疑われていた。

 だからこそ内科の医者になってこの病気のことを広めてやる、という謎の思想をもとに将来の夢を設計していたことがある。


 ──お腹が弱いのに人のお腹を破壊する人間になるとは昔の俺も思ってなかっただろうよ。


「ほほう……医者……」


 残像かというくらいの速さでメモを取る女性。

 一体何がしたいんだってばよ……。


「それでは好きなアニメや漫画などはありますか?」

「好きなアニメか……」


 この世界にも前世と似たようなアニメや漫画が存在することは確かめた。

 でも、細部が違ったり……性別が違ったり……貞操逆転世界ならではの差異が見られたりして、あまり触れていない。


「まあ強いて言うならア◯パ◯マ◯ですかね……」

「やはり……!」

「やはりってなんやねん」


 腹パンマンとの相関関係は無いぞ。

 というかマジでさっきから何を聞いてるんだ……合コンの会話デッキみたいな質問を繰り返しされている気がするんだけど。


「最後の質問です……! 好きな女性のタイプはズバリ!」

「控えめな人」


 前世のアレ的にグイグイ来るタイプの人間には苦手意識があるんじゃ……あとは腹パンに引かない人が良いかな……控えめな人ほど腹パンに引くだろ、というツッコミは野暮です。


「ありがとうございました!! 良い記事が書けそうです!」

「何を書くつもりなんですかね……」


 女性はぶんぶんとポニーテールを揺らしながら凄まじい勢いで去っていった。来る時も勢いよかったけど去る時もうるさいな……。



☆☆☆


────

【激録! 腹パンマンの知られざる素顔を大公開!】


・好きな食べ物はアンパン

→某パンメーカーのCMを口ずさんでいたこともあり、パンと腹パンには相関関係がある……?


・趣味は読書(SFやミステリ)

→より多角的な視点での腹パンを研究している……?


・子どもの頃になりたかった職業は医者(内科)

→医学的にお腹を研究し、より効果的な腹パンチをできるようにしている……?


・好きなアニメや漫画はア◯パ◯マ◯

→言う事無し


・好きな女性のタイプは控えめな人

・大人しい人を腹パンするのが趣味……?

────


「クソ捏造してんじゃねーか!!!!」


 

  

 

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― 新着の感想 ―
腹パンマンがアンパン好きな時点でアウトなのにアンパンマ◯まで好きとかもう…w
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