表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

俺の周りに変態しかいない

「ボクのクソみたいな嫉妬が原因で夢咲様を殺そうとしたことについては、何の申し開きもせずにボクが悪いよ。でもね、アレが無ければ、ボクは腹パンという素晴らしいスパイスと伝道師夢咲神に出会うことができなかった。──今となっては良い思い出さ」

「あの事件から一週間も経ってなかったような……」

「時間は関係ないね」


 この人ヤバいな……とアイリスは至極当然のことを思った。

 なにせ、夢咲のことを語るユキヤの表情は恍惚としており、見るからに変態臭がプンプンとしている。

 あとから追いついてきたユキヤの仲間二人も、ドン引きしているアイリスの姿を見るなり、ポンッと彼女の肩に手を置いて、


「「アレは放っておいて良いよ」」

「えぇ……」


 と口を揃えて言った。仮にも仲間である。

 ドン引きが止まらないアイリス。


 倒れ伏した夢咲を囲んで話している今の状況はカオスそのものであり、ユキヤは頬を染めてトリップしているし、仲間二人はニコニコしながら悟った表情をしてるし、アイリスは未だにドン引きしている。

 

 そんな混沌を打ち破ったのは、ゴゴゴ……! と音を立てて登場したフロアボスことストーンゴーレムくんである。

 

 フロアボスは十五分ごとにリポップする。

 前回のリポップ時もしっかり夢咲が寝ながら腹パンして倒したため、これで計八回目の登場だ。


「フロアボス……! ユキヤ、ここは陣形を──」

「了解。まったく、夢咲様との逢瀬を邪魔するなんて……」


 《強運》持ちのユキヤの仲間が彼に警戒を促し、ユキヤとパーティーメンバーは急いで戦闘態勢に移る──が、それを止めたのはアイリスだった。


「──必要ない。もう、倒したから」

「「えっ」」


 パチン、と指を鳴らす。

 音に遅れて約二秒後、意気揚々と登場してみせたストーンゴーレムは、一瞬にして何かの圧力が掛かりバラバラになった。哀れ。


「噂のSランク探索者……そうか、君がアイリスか」


 仲間二人が動揺する中、アイリスの一連の仕草を観察していたユキヤは粛々と納得していた。

 

(高レベルだから……じゃないね。恐らく魔法系……潰れ方からして重力魔法の類かな? 汎用スキルに重力魔法が無いことから固有スキルと予測できる。……もしボクが戦うとしたら……うん、無理だね。余程の防御スキルを積むか、魔法が効かないレベルまで上げるか……どのみち現実的じゃない。夢咲様に仇を成すなら容赦はしないけれど……敵に回すべきではないか)


 心の中で思考を加速させるユキヤは、一旦の結論を下すと、アイリスに向かってベストスマイルショタ顔を送った。


(胡散臭い……)


 アイリスは顔を顰めた。

 数々の女性を騙してきたユキヤの笑顔だが、前科がありすぎてアイリスには通用しなかったようだ。


「いやぁ、すごいね。さすがはなんの恩恵も無い称号を与えられているだけある」

「バカにされてる気がする……」


 Sランクは謂わば名誉の称号であり、世間的な信用と信頼を得ることはできるが、特段これといった恩恵というのは無い。

 そもそもSランクまで辿り着いた探索者は、思考や私生活のほぼ全てをダンジョンに傾倒しているがため、地位や名誉に興味のない者が多い。

 アイリスも割とその類であるゆえに、ユキヤのほぼ罵倒だろ、という言葉に痛苦を抱くことは無けれど、なんでこの人初っ端から喧嘩腰なんだろうとは思っていた。


「それより……彼を治さなくていいの」

「おっと、ボクとしたことが」


 倒れている夢咲をアイリスが指を指すと、ユキヤは慌てて懐からポーションを取り出す。


「ふんふふーん。ボクが治したって言ったらご褒美くれるかな?」


 ユキヤはルンルンと足取り軽くポーションの蓋を開けて、そんなことを宣う。

 そして、ポーションを夢咲にぶっかけようとした瞬間──降り落ちるポーションを凄まじい速度と勢いで躱しきった夢咲の拳がユキヤのお腹に吸い込まれるようにして撃ち放たれた。


「──これこれこの感覚ぅぅうう!!!!」


 Foooooooo!!!! と叫びながらユキヤは吹っ飛ばされた。

 当然血反吐は吐いてるし紛れもなく重傷なのだが、頬を染めて表情は恍惚としている。

 

「完全に痛みを快楽に変換してるコイツ……」

「所属するパーティー間違えたかも?」


 仲間二人は血反吐を吐きながら吹き飛ばされたユキヤを見て、ドン引きしながらコソコソと相談していた。

 まったくユキヤの心配をしていない辺り、完全にこのシチュエーションに慣れたと言っても過言ではないだろう。


「傷の回復も回避の対象になるんだ……キミも、なかなか厄介なスキルを持っているね」


 アイリスは吹っ飛んだユキヤに目もくれずに、冷静に状況を観察していた。


(起きてからポーションを自力で飲んでもらうしか無さそうかな)



☆☆☆


「あの時助けていただいたユキヤです!!」

「動かしたら……危ない」


「んぎゃぁぁぁぁあ!!!」


 そして今に至る。


☆☆☆



 ど、ど、ど、どうしてだってばよ!

 強敵と熱い死闘を繰り広げて気絶したかと思えば、起きたら目の前に化け物二人が顔を覗き込んでやがる。

 俺が長男じゃなかったら間違いなく引っ叩いてるぞ、コイツら。


 ……いや落ち着け。

 ユキヤは化け物だけど、アイリスはこの世界の俺とは関わりがないはずだ。まだお腹差し出しモードになってないし、前世だったらもう耐えきれていない頃合い。

 つまりは、アイリスはまだまともだということだ。


 じゃあなんでここにいるの? って感じだけど、たまたまダンジョン攻略中に出くわしたのか? 何にせよあんまり近づきたくない相手ではあるな。


 ……ってか痛ぇ!! 体中がアホ痛ぇ!!

 そりゃ幾ら探索者と言っても、ちょっと寝たくらいで折れた骨が治るわけないか。……このまま帰還するの結構キツイんだけどな……。

 なんてことを思っていたら、徐ろに満面の笑みのユキヤがポーションを差し出してきた。


「夢咲様、どうぞ♡」

「お、おぉ……良いのか?」

「ええ、前に使っていただいたお礼だと思ってくれれば!」


 俺の腹パンが原因で怪我したんだし、若干マッチポンプなような……と思ったが気にしないのが吉。

 近づきたくないランキング不動のNo.1のユキヤだが、今だけは厚意に与るとしよう。


 にしてもコイツの装備、お腹だけ穴空いてるし血だらけなんだけど余程ここに来るまでの戦いが大変だったんかな?

 まあ良いやとポーションをぐびっと一飲みすると、瞬く間に体中の傷がすべて治り痛みが消え失せた。


 相変わらず性能がバグってるぜ。


「ふぅ。サンキュな。ところで何でお前らここにいんの?」

「私のこと……知ってる……?」

「エッ、あぁ……俺がダンジョン入場前に会っただろ?」


 そうだった。この世界じゃ関わり無いんだったわ。

 焦りながら返答すると、アイリスは特に疑問に思うことなく納得したようだった。


「ボクは夢咲様がピンチだと知って居ても立ってもいられず……!! ……来ました♡ 後ろの二人はボクのパーティーメンバーです」

「お、おう……」

「こんにちはー、変なのに付き纏われてドンマイです」

「こんちゃー、右に同じくドンマイ」


 戸惑いながら返事をすると、後ろにいたユキヤのパーティーメンバーが苦笑しながら挨拶をしてきた。

 この世界の男性のパーティーメンバーって大概男を信奉してたりするもんだけど、ユキヤの奇行を散々見てきたからか妙に斜に構えた態度だ。


「私は……Sランク探索者としてエクストラボスの対処に来た。……遅かったみたい、だけど」

「そっか。まあ、ありがとな」

「ううん」

 

 なるほどな。Sランク……え、Sランク?

 マジで?? 前世のアイリスってダンジョン攻略より俺の腹パンを食らうことに命賭けてたから、強さ自体は化け物じみてたけどSランクには辿り着いていなかったはずだ。


 ……俺が足枷だった説あるか??

 俺がアイリスに腹パンをするかしないかで、こんな並行世界っぽい分岐をするとは思わんかったぜ……。


「ってか、Sランクのこと隠してたんだろ? 今配信中だけど大丈夫か?」

「どのみち近日中に公表するつもりだったから……大丈夫」


コメント

・お、やっとコメント表示したか

・謎のSランク探索者ってこの人だったんや

・さっきストーンゴーレム一撃で倒してたけどヤバくね?

・その後吹っ飛んだユキヤwww

・アイツがいるだけでオチが着く



 ……俺またユキヤに腹パンした?

 まあ、寝ていたしノーカンということで……。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ