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神速の一撃。その名は腹パンチ

 めっちゃ体が軽い。

 体が羽毛のように軽いという表現に嘘っぱちさしか感じなかった俺ですら、この軽さを表現するなら羽毛のようにと言ってしまうほどの身軽さ。

 

 ──一部の条件を満たした。

 恐らく何かを満たしたことにより、俺のもう一つの固有スキル《神速》が限定的に解放された。

 何となく感覚的に本来の《神速》はこんなものじゃないような気がする。……限定的な解放だろうし、一部の能力を使用可能になった……ってニュアンスだろうな。

 

 ああクソ……ただでさえパッシブスキルなんてクソが多いのに、戦闘中じゃスキルの確認ができねぇのがもどかしい……!

 ゴーレムくんに「あ、ちょっと待って!」って言ってステータス開きてぇ……。


「やっと光が収まったか……微妙に発光してっけど」

  

 バ◯スもビックリのム◯カ的発光……あれ逆か?

 まあ、いいや。


 光が収まったので自分の体を見ていると、未だに若干淡い光を放っていた。

 幻想的と言えば幻想的だが、自分の体だからか、ただの変態にしか見えないのが辛い。


「GYAAAA!!!!」


 目をしばしばさせながら前を見据えると、混沌のゴーレムも目を押さえながら悶えてた。お前、目あんのな……。

 ゴーレムが攻撃してこないのはゲームの強制演出的なアレかと思ったけど、普通に眩しいだけだったようだ。ダセェ……ZE☆

 

コメント

・なんか光ってて草

・腹パン発光ニンジャ……?

・どれだけ属性加えれば満足するんだよ

・ゴーレムも眩しそうwww

・混沌のゴーレムくんに謝れよ夢咲


「俺の目も潰れたんだから痛み分けだろ」


 今のうちにステータス確認できないかな……?

 そんなことを一瞬思ったが一足遅かったようで、ゴーレムも眩しさから無事に回復して、心なしか俺を睨んでるように思えた。……まあ、急に目の前のヤツがクソほど眩しく光り出したら煩わしいわな。


 ──さて、攻撃が来る前に前にやることやっておくか。

 俺は凄まじく急いで、目の前に表示されているコメントの近くにあるボタンを押した。


コメント

・《夢咲氷織》プレミアムプランに加入しました。これより、リスナーの皆様にスーパースロー機能が付与されます。

・うおおおおお!!現ナマ課金来たァァァ!!

・戦闘中に課金するな

・これでやっと速度に付いていけるな

・1ヶ月150万のヤバ課金か……


 クレカ払いの一瞬払いである。

 今まで1か月150万にビビっていて、クレカの本人情報の入力で途中保存していたから、あとは押すだけだったのだ。

 しかし、恐らく《神速》の文字通り、速度の上がった今の俺をリスナーは、無課金のスロー機能じゃ追い切れないと思う。


 そのための課金。

 10日後に配信の収益が入るから、10日後の俺にすべて任せるしかないぜ!


「ぶった切ってやるわァ……このクソ無機物野郎がぁぁぁぁあ!!!」


コメント

・これが男性配信者ランキングNo.1のセリフか?

・発光体がなんか喚いてら

・コイツ……課金して"ハイ"になってやがる……!

・結局なんで発光してんの?


 俺にもう一つの固有スキルがあるとか言えねぇしな……まあ、言い訳は後で考えるとして──今はこの攻撃を避けようか。


 ──俺は突っ込んできたゴーレムの六連撃を《《回避を使わずに》》躱した。


「見える……見えるぞおおお……」


コメント

・見える……見えるぞおおお……(スーパースロー)

・見える……見えるぞおおお……


 やっば……速度だけじゃない……全体的な身体能力と、明らかに動体視力まで向上してる。

 あれだけ見えなかったゴーレムの六連撃が、まるでスロー機能を使ったかのようにゆっくり見えたのだ。


「《即撃》──そして《抜剣》」


 《即撃》の0.01秒のスタン。

 俺はいつもの黄金コンボの《抜剣》を使用してから気がついた。


 ──アレ? まだスタンの猶予があるな。


 というわけでもう一回の──、


「《抜剣》……ッ!!」


 刹那、ゴーレムの体に十字の深い切り傷ができた。

 そして、切り傷によって紫色の結晶のようなものが体表に露出した。

 ……恐らく一部の魔物にしか存在しないコアと呼ばれる弱点部分──アレを壊すことができれば、俺の勝利は決まる。


「GYUAAAA……ッ!!!」


 うめき声をあげながらよろけるゴーレム。

 二連撃の《抜剣》だからじゃない。

 《神速》によって《抜剣》の威力まで向上している。


「速度が上がったから攻撃力が上がる……って単純なもんじゃないんだがな」


 スタン中に《抜剣》を二回も放つことができたのは、間違いなく《神速》の速度向上によるものだということは理解できる。

 だが、威力が上がるのは速度の向上が原因じゃない。

 恐らく《神速》には複数の能力があるのだろう。


コメント

・ファッ!?

・スーパースローでゴーレムが六回攻撃してたことが分かった……

・夢咲強すぎて草

・剣がロマンって言葉がちょっと分かる気がする

・なんか露骨な弱点っぽいとこ出てるぞ!


「痛いか? 痛いよな? 俺もさっき!! 痛かった!!」


コメント

・草

・キレんなよw

・自分の痛みを押し付ける系配信者

・す゛ご゛く゛……い゛た゛か゛っ゛た゛


 探索者だけあって痛みには強いし、痛みで攻撃や防御が鈍るほど愚かでもない。でも痛いは痛いんよ。耐えられるだけで痛さを感じないとかではないのよ。


 ビシッと指を指して、そんなことをゴーレムに叫ぶと、ヤツはなぜだか、俺を咎めるように十字に切り裂かれた自らのお腹を見た。

 ……紫色のコアを指指すように。


「なにぃ? 傷の深さが違うってぇ? 知るかボケ!!」


コメント

・情緒よ

・フロアボスと漫才をするな

・完全にテンションバグってるやんけw

・夢咲と関わる魔物のノリが良すぎるw


 とはいえゴーレム側の殺意は満々。

 コアが出現したとなればゴーレムもおちおち安心していられないだろう。


 ヤツは再び俺を睨みつけると、不意に両の拳で地面をぶっ叩いた。

 

 ──ドンッ……!!


 地面が脈打つように揺れる。

 すると、次々に地面から岩の塊が生えるようにして俺に襲いかかってきた。

 攻撃パターンを変えて仕留めようとしてきたな。

 ハッ……! 舐めてくれるぜ!


「バカだな……! 全体攻撃は……格好の餌だぜ!」


コメント

・ここにきて新たな攻撃

・岩の生える速度なかなか速いし、防御手段持ってなきゃ普通は対処できなくね?

・夢咲は普通とはかけ離れてるから問題ないですね、はい

・防御手段は無いけど反撃手段はあるという

・カウンターは最大の防御


 手数を増やすこと自体はカウンター持ちに有効なのだが、俺の《即撃》はそんなちゃちなもんじゃねぇ。

 全体攻撃には全体攻撃を。

 一つでも躱した時点で俺の《即撃》は発動する。


 幾らとんでも全体攻撃が飛んでこようと、俺の《即撃》から逃れることは不可能である。


「死に晒せェ! 《即撃》──」


 ワープするように距離を詰め、いざ腹パンチしようとした瞬間──ニタリとゴーレムが笑ったように見えて──、


「GYAA!!!」

「──ッ!?」


 ──俺の目の前に先程の岩の塊が生えてきた。

 

 ──時間差でのカウンターのカウンター……ッ!!

 スキルを上手いこと使って《即撃》の反撃モーション中に岩が生えてくるように設定したな!? 

 クソ……! これだからアクティブスキルは使い勝手が良いんだ!!


 だが──残念だったな……ッ!!


────

《即撃》……逆張り精神に満ち溢れる者に贈られるスキル

・相手の攻撃を回避することに成功した場合、で反撃することができ、《《反撃モーション中は如何なる制限を受けない》》。

────


 

「俺の腹パンは──誰にも邪魔できない」


 生えてきた岩の塊ごと俺の拳は撃ち砕いていき──腹に露出したコアをそのまま粉々に砕いた。


 ──ドゴオオォォォン!!!!


 まるで地震のような揺れが衝撃によって引き起こされ、あまりの威力にゴーレムは吹き飛ばされて壁に激突した。


コメント

・うおおおおお!!

・腹パンだァァァ!!!!

・剣で決着つけねぇのかよw

・まあ、剣も魅せられたしな。サービスかw


 いえ、一番勝利の道筋が近かったのが腹パンだからです。  

 正直、混沌のゴーレムは深層の奥深くのフロアボス並みの力を有していた。

 勝ち筋は薄くてもあったけど、負ける可能性も全然あった。


 舐めプする余裕はありません!!


「ふぅ……何とか、倒せたか」


 倒れ伏したゴーレムを見ると、ヤツは徐々に粒子となって消えて行く最中だった。

 徐ろにゴーレムの手を見ると、まるでグッドラック! と言わんばかりにサムズアップが掲げられていた。


 なんでお前無機物なのに感情表現豊かなんだよ……。


コメント

・なんか憎めないな……

・混沌のゴーレムくん好きすぎるw

・再登場期待


「防御力が高い敵は相性が悪いんであんまり会いたくねぇっすわ」

 

 逆に攻撃力が高くて紙装甲の相手には俺は無類の強さを誇るという自負がある。どんな攻撃も当たらなきゃ意味ないしな。

 

 ……あー、痛ぇ。

 体中バッキバキだし骨折れてるんよなぁ。


 さっさと帰ってポーション買うか。

 そんなことを考えていると、徐々に体の発光が収まっていき──ぐらりと視界が揺れた。


「ぐっ……!」


コメント

・どうした!?

・スキルの副作用か……?

・え、フロアボスの部屋で気絶するのマズくない……?

・夢咲ィィ!!!


 ……抑えられない……!

 ああくそ……これMP無くなる感覚に近いな……。


 もう……ダメ……。


 


☆☆☆


  

 ──目が覚めると。


「あの時助けていただいたユキヤです!!」

「動かしたら……危ない」


「んぎゃあぁぁぁぁぁあ!!!!」



 ──ユキヤとアイリスが二人揃って俺を覗き込んでいた。



  

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